第6話 検索師にも不明なことの発見

Scene6

 燈子さんがその辺で摘んだという草をお湯で煎じてカップに入れ、渡してくれた。

 一口口を付けた後、私は前からの疑問をぶつけてみる。

「ねえなんであなたは検索師になったの」

「記憶がないんだ。始まりの日は正確には13年前。そのときに僕は10代だったはずだ。物心がついていたはずなんだけど記憶がない。既に両親もいなかった。だから自分が誰なのかを探している」

「ふーん。インターネットって無限に広がる仮想空間なんでしょ? 見つけるのに時間がかかりそう」

「時間が観測されていない今、死ぬまでの時間は文字通り無限だ。だから、暇つぶしみたいなものだろうか。インターネットを旅しながら、私自身も旅を続ける。この町では見つかりそうになかったが、いずれたどり着く別の場所で、自分自身の手がかりが見つかるんじゃないかと楽観視している」

「そっか。燈子さんもまた、旅に出て別の場所に行くんだね」

「今すぐに、というわけではないけどね」

「別の場所、かあ」

 私はあることに思いつき、思わず声を上げた。

「あ!」

「どうした?」

「検索の話だけど別の窓で調べてみたら。曲だけ探せる窓ってないのかな」

「なるほど。どうやら本当に君は検索の才能がある。君から何か提案がなければもう今日は帰そうかと思っていたよ」


 音楽専用の窓か。これかな、等と燈子さんが独り言を言いながら検索を続けていくのを私は隣で見ていた。こうして見ていると燈子さんは一流の検索師なのだと思わせるような手際の良さだった。いくつかのページを開いては閉じる作業を繰り返す間に燈子さんは目的のものをみつけたようだ。


「IDとパスが必要みたいなんだが、前のデバイスの持ち主のデータが保存されているようだね。これは音楽を購入できるサイトなんだが、前の持ち主の財布とも紐づけされているのがラッキーだった。あとは私たちがロボットではないことを証明すれば次の画面に遷移して音楽が手に入る。だが、このふにゃふにゃした謎の文字が何かわからないんだ。何語なんだろうこれは」

 燈子さんは肩を竦めた。


「え? これわかんないの? 燈子さん。これは多分日本語のひらがなを歪めたものよ」

「なんだと。こんなにわかりにくいものが! なるほど。君がいつも書く日本語の文字はよっぽど歪んでるんだな」

「うるさいわね! ちゃんと丁寧に書いてるわよ!」

「まあおかげでセキュリティを突破できる。よし! 入力だ!」

 カチャカチャカチャ。ッターン!

 軽快な音を立てながら燈子さんがパスワードを入力すると、画面が切り替わる。

 画面上で緑色のバーが伸びていき、しばらくすると地下室に音楽が流れ出した。

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