戦場

 武蔵野連隊の探索は神奈川、東京を経て、埼玉の西部地域に及んでいた。


 「状況は良くないらしいぞ」


 「そうやろうな、こうなっては勝敗なんて誰もつけられへん、行くとこまで行くしかないねん」

 

 「ああ、しかも噂だと、各国のごろつき共が結託して、日本の本土決戦を計画しているらしい」


 「物騒な話しだが、相手からしたら、自分の土地で同じことをされてるんだ、あり得る話しさ」

 

 その噂は数日後、現実の物となったのである。


 その日、ソヨカゼは朝早く起きると、基地から数キロ離れた橋の真ん中で、ひとり入間川を眺めていた。

 

 (川はいいな、見ていると落ち着く、あぁ、今日は富士山が見えるのか、良いことがあるかもなぁ)


 ぽちゃん、と小石を川に投げ込むと、ヴゥーンヴゥーンと、けたたましいサイレンの音が鳴り響いた。

 

 「なんだなんだ?」ソヨカゼは空を見上げると、東から西から何百機という戦闘機が無秩序に連なり飛行して来たのだ。

 

 「やばい!」


 咄嗟とっさに大声を上げて、基地へ向かうのだが、戦闘機は爆撃を開始、ドゴォーンという爆音と、凄まじい爆風が途切れることなく響き渡った。

 

 (ダメだ…近付けない)


 ソヨカゼは、ただ遠くから基地が燃えるのを眺めるしかなかった。

 

 武蔵野連隊は全滅だった。

 

 焼け跡の中、眉の太い若年兵を手厚く葬ると、探索棒を地面に突き刺し、ソヨカゼは静かに手を合わせた。


 (もう何も残っていない…せめて地球の最期まで生き続けてやるかぁ)


 富士山を背に、とぼとぼと歩いていると、突然、目の前の草むらがガサガサっと揺れ、何かが飛び出して来た。


 ピョン

 ピョン


 あの時のウサギだった。


 「お前か、どうしたんだい?」


 「何はともあれ、先ずはその節、ありがとうございました」


 「そうか、お前話せたのか」


 「はい、実は私は月のウサギにございまして」


 「月?そうか…それで月のウサギがどうしてまた、僕の所へ?」


「ええ、其れなのですが、私を助けてくれた貴方をお助けする様に、月の姫から言われて此処へ来たのです」


 「月の姫?」


 「はい、月の姫は、たいそう貴方を気に入りまして、貴方さえ良ければ婿に迎えたいと仰っております」


 「はははっ、なんだか嘘みたいな話だな、でも、信じてみるよ。それで僕はどうしたらいいのかな?」


 ウサギが言うにはこうだ、今日から十五ヶ月後に、月は帰還する。

 それまでに、人間を絶滅させる計画なのだと言う。

 しかし、ソヨカゼは姫に選ばれたただ一人の人間としてウサギ達と月の帰還を待つことができる。ということだった。


 (此処まで来たら、流れに身を委ねよう、失う物は何もないんだからなぁ)


 ソヨカゼは意を決した。

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