救助

 立派な名前が付いたとはいえ、武蔵野連隊の任務は相変わらず月の捜索であった。

 この日も武蔵野の草の原には、探索棒たんさくぼうを持ち、こなれた様子で月を探すソヨカゼの姿が見える。


 (戦争か、まさか自分が生きてる間に起こるとは思わなかった、嫌だなぁ、人を殺すことなんて僕には恐ろしくて出来やしないよ。はぁ、でも、こうして見渡して見ると、武蔵野の野原はこんなにも大きくて広かったんだなぁ。ん、あれ、おかしいなぁ、あの辺の草、やけに揺れているなぁ、なんだろう?)


 恐る恐る草むらに近付くと、突然、目の前に何かが飛び出してきた。


 ピョン

 ピョン


 「わ、ウサギだ!」


 思わず叫んだ刹那、肉を食べたい…という思いが浮かんだ。が、然し其れははばかった。

 このウサギを殺してはならない、そんな気がしてならなかったのである。


 「なんだ、お前怪我してるのか?可哀想にな、こんな世界でせっかく生きてるんだ、頑張れよ。ほら、こうして軟膏でも塗っておけば時期良くなる、ヨシ、これで大丈夫だ、そら、もっと遠くに行くんだよ、こんどは見つかるんじゃないよ」


 ウサギはソヨカゼに向かって挨拶する様に、ピョンピョン飛び跳ねると、草むらの中へ消えていった。

 

 (おかしなウサギだな、人懐っこいし、体も大きくて毛色も白い、元々はペットだったのが野生化したんだろうなぁ)


 その夜、ソヨカゼは寝付けずにいた。

 何か気になるというわけではないが、体が熱く火照り「どうしようもない」このことだった。

 健康な若い男子であれば、寧ろ自然のことである。

 

 「ねぇ、起きてる?」

 

 「うぅん、なんだ、ソヨカゼか…」


 「ごめん、眠れなくてさ、外行かない?」


 「あぁ、そういうことか、わかった…」


 他の兵士達を起こさぬように、テントを抜け出すと、月のいない真っ暗な夜の中へ、二人の若者は消えていった…

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