第八話 起動! イモタールロボ! 怒りがこみあげてくる……!

 「林表当社怪人let`s財前!」

 「ゲッ再び怪しげな呪文を唱えてやがるこのカメ」

 僕は近くにあった石を蹴っ飛ばす。カメはゴゴゴゴゴと言いながら怪しげに姿を変えていった。

 「ゲッその姿は」

 「フハーハ! この姿は伝説の侍の幽霊が俺の体に乗り移って俺が強くなった姿!」

 「えっ誰よ、サムライムサシって」

 浅学なるギャルギャモが呆けた面で聞いてくるので僕は教えてやる。

 「サムライムサシも知らずに生きていこうなんて甘っちょろいにもほどがあるぜ!」

 「な。何よ! ムキーッ」

 両脇を振り回しながら激怒するギャルギャモの姿が僕の網膜に焼き付いていく。

 「ハハーハ! 隙あり! ジャンゴ死ね!」

 突如カメのカメ隙間から刀がニョコニョコ生えてくる! 

 「ゲッあれは侍の剣の使い方!」

 「くらえスパイラルハリケーン!」

 「へっ馬鹿め、刀に鞘がついたままだぜ」

 僕はカメに教えてあげる。

 「あっクッソーッちぇっ! よし、鞘を外したぜ! 死ねーっ」

 「いってーっ」

 僕の体がズバズバになる。

 「へっ次は居合切りで勝負だ!」

 サムライ忍者ガメ・ムサシが鞘を捨てる。

 「居合切りは鞘が邪魔になる! これを先に捨てておけば俺の居合切り速度もバツグンってもんよ」

 「ハハーハ!」

 笑う俺!

 「勝って帰る気があるならなぜ鞘を捨てるのか! カメ敗れたり!」

 「ゲッーっ」

 ムサシはびっくりして慌てて鞘を拾う。僕はたまげる。

 「ウッゲーッ。これで勝負はわからなくなってきたぜ。よし、居合切り勝負といったな!」

 「うむ。あっ……」

 武蔵が居合切りポーズをとる。僕も同じようなポーズをとる。武術の達人はお互いのポーズを見ただけで相手の強さがわかる。カメムサシの戦力が百だとすると僕の戦力は五兆なので僕は安心した。

 「居合切りの合図はどうする?」

 カメムサシが聞いてくる。僕はポッケのピストルをガッデム虫に放り投げる。ガッデム虫は不思議そうにそれを受け取る。ギャルギャモがそれをひったくる。

 「これを上に撃った時が居合切り開始の合図ね!」

 僕はこっくりウナずく。

 「いくぜいくぜェ、いくぜええええエェッェェーッ!!! 明鏡止水だァァアァアアアアーーーーーッッ!!!」

 僕は心を静め、心の中に水たまりをイメージする。ぴちょーんと音が鳴る。

 「だめだァァァァァン静まれえぇぇぇぇえええええッ!!! てッ? エエーーーッ!!!! 俺の気持ち……」

 僕の気持ちが静まっていく! こころの中の水面が波打つのをやめたとき、爆発的なパワーでカメに突進するつもりだ! 一方カメはカメなりのプロセスで心を静めていた。

 いきなり銃を撃つギャルギャモ! たまらない居合切り開始! 僕たちはにらみ合う!

 「うっ先に動いた方が有利そうだ!」

 カムムサシが刀をやみくもに振り回しながら歩み寄ってくる!

 「それはどうかな?」

 僕はにやりと笑って一歩後ろに下がる。

 「た、確かに先に動いたからと言って有利とは限らない」

 カメもにやりと笑って一方後ろに下がる。突然現れたタンブルウィードがころころ転がる。しかしカメムサシはカメだけあって我慢が苦手のようで、刀を振り回しながら歩み寄ってくる!

 「ほらほら! 俺の居合スクリューの餌食になって体が痛くなれ!」

 おなかを抱えてけらけら笑いながら居合スクリューを繰り出すカメムシ! 

 「馬鹿めッ! あれ? あ~~足が動かん。いってーっ」

 なぜか足が動かず居合スクリューをくらって木っ端みじんになる俺、ジャンゴ。こりゃたまらんと慌てて背後のツボに入り込んで隠れる。

 「ハハーハ居合切り勝負は俺の方に勝利の女神の微笑みが土足で上がり込んできやがった!」

 しかしケマの背後からジャンゴが襲い掛かる!

 「馬鹿め! 俺様がカメであることをわすれたりする馬鹿めーッ!」

 カメだけあって甲羅からこぞって飛び出るマシンガン!

 「もわ~ん」

 もわもわ消えるジャンゴ!

 「えっなにこれ!」

 「ウスバカ! それは残像だぜ!」

 ツボから突如聞こえる不気味な声にすくみ上る一同! そのすきを見逃さない俺ジャンゴはツボから手足をニョキニョキはやしてカメに襲い掛かる!

 「げーツ! くらえ! 居合ドリル!」

 居合ドリルをカメにくらわせる俺! そう、ツボとはジャンゴだったのだ!

 「ギャース! ド、ドリルはカメの弱点」

 おなかをぶちまけて千個に分割されるカメ!

 「ハッハー! 今夜はイノシシナベだぜ!」

 残虐な笑みを浮かべながらくるくる回って空を飛びながらカメを追いかけまわし切り刻むジャンゴ!

 「ほら! ギャルギャモさん、この隙にガソリンキューブを」

 「え? あぁ」

 ギャルギャモがまんまとガソリンキューブを手に入れ、クレジットカードで支払いを済ませる。

 「うう……強き男よ……名は何という」

 ズタズタになったハイデガー将軍が金切声で尋ねる。

 「俺かい? 俺はジャンゴ。宇宙最強のヒットマンさ」

 「ふふ……ヒットマン! 良い名だ。私にとって……強さこそ友情。強い奴に引っ付いていれば安心だからな……」

 その時、窓の向こうで強く風が吹いた。格子窓がかすかに揺れ、僕はもうすぐ夏が終わることを思い出した。そして何か忘れ物をしたような気がしてふと振り返り、息を吸い、吐いて、再び歩き出す。季節は廻り、旅人は去る。そして夏とは違い、僕たちがここを訪れることはもうきっと、二度とない。

 「そんな、ハイデガー将軍!」

 とことこ駆け寄ってくるハーデガーの部下たち! 軒並みブス。

 「将軍死んじゃ嫌だ~」

 「将軍が死んだら嫌~」

 思い思いに思いを伝える部下たち。

 「将軍死んだら嫌だ~」

 「黙れ! 最後の命令を伝える! 心して聞け!」

 心を鬼に、体をワニにして最後の役割を遂げようとする将軍! その顔面を踏み潰すジャンゴ!

 「ジャンゴ、このガソリンキューブを!」

 「おうよ!」

 ガソリンキューブを投げられたのでそれをキャッチして宇宙船のキューブ上の穴にはめこむジャンゴ! 起動する宇宙船・ガルドナ! ホログラムとして浮かび上がるガルドナのAI、コードネーム・アリス!

 「おかえりなさい、ジャンゴ、ギャルギャモ、ガッデム虫。いいニュースと悪いニュースがあります」

 「悪いニュースから聞こうか」

 VネックをTネックにしながら尋ねる僕。

 「悪いニュースは、良いニュースがあるというのは嘘ってことです」

 「こりゃ一本取られたぜ。二本目は取られたくないから預かっていてくれガッデム虫」

 「うん!」

 突如暗黒が周囲を包む! そしてなおも迫りくる! 残る光はわずかにガッデム虫の周囲を正円状に包む! シューン!

 「トホホ! もうこりごり! 何もかもがクソ」

 ウィングをしながら舌を出すガッデム虫! そして辺り一面ついに真の暗黒に包まれた……!

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