第七話 電撃殺法! 死を呼ぶ電撃のワルツ

 「油断だんだん、油断だ~ん」

 ガッデム虫が油断ダンスを踊るのを電磁双眼鏡(マグネティックエレクトロ双眼鏡)で観察するのがこの俺ジャンゴである。ジャンゴは宇宙にはびこる悪霊をハントするデビルハンターである。左目に隠された紋章が実は悪魔王サタンとの契約の残りかすであることが後々明らかになる……!

 油断ダンスとは相手を油断させることを目的としたダンスで、古代アメリカ文明により発案された。僕も詳しくは知らないのだが、その起源は古代エジプトにさかのぼるという。開発者・パスタゲティ曰く、油断ダンスの神髄は相手を油断させるとともに自分のかわいらしい動きで油断させるメカニズムにあるという。踊り手の脳細胞が次々に死んでいくというリスクがある。

 「油断だんだん、油断だ~ん」

 「こいつ! 油断ダンスを踊っているぞ、俺たちを油断させるつもりだ!」

 ガソリンスタンドの銀行員のひとりがガッデム虫のあさましい魂胆を見抜いた!

 「ゲッしまった」

 「ハハーハ! 馬鹿め油断しないように気を付けるぞ」

 「くっそ~ッ 油断しろーッ」

 愚かしくも油断ダンスを繰り返すガッデム虫!

 「油断だんだん、油断だ~ん」

 僕は電磁双眼鏡を投げ捨て、金髪女ギャルギャモに言う。

 「早くガソリンを買いに行こうぜ」

 そうね、とウナづくのかと思いきや、全然ギャルギャモはウナづかないので、僕はとうとう怒髪天をつついた。怒髪天は嫌そうな顔をしてどこかへ去っていった。

 「そうね」

 ギャルギャモがウナづく!

 「ガソリンスタンドに行かなきゃお話にならないわよジャンゴ」

 そしてスタスタ、ガソリンスタンド目掛けて歩く。その姿に見覚えがあった。そして自動宇宙ドアが弾け開いて、僕たちはそこへ侵入せしめた。

 「しめしめ。都合よく自動ドアだったのでドアを開ける手間が省けたってわけだ」

 僕はにんまりした顔を浮かべながらガンモガンモ銀河の第三ガソリンスタンドの内部の第二ガソリンスタンドを目指した。廊下はわりとかっこよかった。

 そしてたどり着いた! 

 「あっジャンゴ! こいつら全然油断しないよ!」

 ジャンゴを発見したガッデム虫が頬などを膨らませながら文句を垂れる。

 「がんばれガッデム虫、油断させろ!」

 僕は応援を叫ぶ。銀行員がギャハギャハ笑う。

 「ハハーハ! 油断しないのがチャームポイントの俺を油断させたけりゃ油断魔人でも呼んでこい」

 「畜生が! クソ、なにくそこうなりゃ全開だ!」

 ガッデム虫が全開にして油断ダンスを踊る。銀行員が苦し気に叫ぶ!

 「油断しそうだ!」

 さしもの銀行員も油断を禁じ得ないといった表情を浮かべながら全身冷や脂汗をじわじわにじませる……! 僕は時計を確認する。

 「クッソ~、俺は血のにじむような油断耐久修行をしてきたんだ。こ、この油断ダンスを乗り越えられたら油断師匠のお墓に行くぜ! 墓参りだーッ!」

 声を上げて叫ぶ銀行員は回想シーンへと入っていった。

 「油断するな! 銀行員。チェッ」

 そう怒るのは油断師匠と呼ばれる油断我慢の親玉だ。

 「し、師匠だめです。 こ、コゲ~ッ」

 「油断するな銀行員! 油断すると死ぬぞーッちぇっ」

 油断師匠が叫ぶ! 必死の修行の毎日……油断が命取りになると知らず死んでしまった自分への底知れぬ恥じらいと後悔……それを乗り越えるために、銀行員は必死に努力してきたのだ!

 油断師匠は本名が鬼軍曹というだけあって、いつも舌打ちしていたのだ! しかし雨とムチがモットーの油断師匠は銀行員に優しさも見せていた。

 「ほら、どんぐり」

 「わぁ!」

 しかし油断師匠はある日死んでしまう。

 「し、師匠! なんで死にそうなんですか」

 「クソ……寄る年波には勝てぬ……病気になってな……殺されてしまった。わしの命はもってあと十日じゃ」

 「もういい、しゃべるな師匠! 病気とはなんだ!」

 「宇宙ペストじゃ……」

 「それって……?」

 「ぐぐ……別名全筋肉ズタズタ症候群……その名の通り全身の筋肉がズタズタになるんじゃ……不治の病じゃなかったからよかったけど……わしはペストじゃからもうだめじゃ……」

 「もういいしゃべるな師匠黙れーッ!」

 銀行員はその日初めて師匠のお墓を作った! 初めてのわりに上手にできて大変満足だった。そして師匠を埋めながら誓った……

 「師匠! 俺は油断しないぞ! もう油断しない!」

 「ギヒヒ、それはどうかな!」

 銀行員の回想シーンに突如現れるジャンゴ!

 「ゲッジャンゴ!」

 「みろその両膝を。油断痕がいっぱいじゃないか」

 「ゲーッ」

 (ケケケ、僕がさっき膝に絵の具で油断痕を描いておいたのさ。それを油断痕と間違えてくれれば儲けものだと思っていたが実際に間違えてくれて何よりだぜ)

 僕はそう思った!

 「クソ、俺はまだまだ油断していたのか……あんなにいっぱい努力したのに全然油断が治らないんだから最初っから修行しなきゃよかったぜ、ちぇっ」

 銀行員の膝が崩れ落ちる! 俺はそれを見過ごさなかった!

 「ここだな! ハイ? ハヒーヤッ!」

 中国に伝わる伝説のヒザキック!

 「ゴッギャーッス!」

 人体の血管の40%はヒザに集中しているので膝をキックされたらひとたまりもない……中国に伝わる四字熟語である。その瞬間、回想シーンにひびが入った!

 「ぱ、パリィン!」

 銀行員が叫び、回想シーンが割れる! その瞬間燎原の火のごとく押し寄せるガッデム虫の油断ダンス!

 「ウギャース! は、はわわ……ウッゲーッ」

 銀行員は全身骨だけになって死んだ!

 「あの、ガソリンを買いたいんだすけど」

 そのすきにレジに迫りくるギャルギャモの魔手!

 「あぁ、わかりました。ハイオクですか? それとも満タン?」

 「えっ……ま、まさか!」

 ギャルギャモは後ずさりする! それを見てほくそ笑む受付の人!

 「ククク……ハハーハ! ガソリンはハイオクかレギュラーか軽油か三種類! しかし間違えて入れたらお前たちの体もゴナゴナの木っ端みじんよ!」

 「貴様受付の人ではないな……?」

 受付の人が受付の人でないことを見抜いてガッツポーズをするジャンゴ!

 「え? ち、違いますよ! 私は受付の人です……いやクソ! お見通しってわけか。俺は受付の人ではないぜ、ハハーハ!」

 受付マスクを引きはがしながら現れた男の正体こそがポイズンガメ!

 「俺の名は毒ガメ軍団! ポイズンダメ! ガンモガンモ銀河にスパイをしに来た毒ガモ軍団のスパイだ! しかしガンモガンモ銀河の住み心地がよかったのでここで受付の人として働いているのだ」

 「なにーッ忍者と言えば日本に住む最強のスパイ軍団! 証拠を見せろよ証拠を」

 「釈迦にセッポ! 台無しハー! もういや」

 「あっコレッ。これ忍者!」

 ポイズンガメが呪文を唱え始める! まぎれもなく忍者! つまりカメ忍者なのだ! ポイズンガメが忍者ガメだとわかって満足した僕とギャルギャモ!

 「アーハ! どのガソリンを入れればいいのか知らない人たちだけで宇宙船を運転していたお前たちに残された道は二つ! 戻ってガソリンの種類を確認するか、俺を倒すかだ!」 

 一方ポイズンガメは大胆不敵に笑みを浮かべて椅子をギシギシし始めた! ガソリンスタンドの椅子には車輪がついているのでギシギシするたび少し後ろに移動するポイズンガメ!

 「くそ、戦うしかないのか……ギャルギャモ! バスターソードモード!」

 「けっ、人使い……いや剣使いの荒いヤツだぜ」

 「悪態をつくならもういい! アーマーソード!」

 僕はポッケからアーマーソードを取り出す。アーマーソードとは剣の切れる部分がアーマー型になっているやつである。しかも優れものなのだ!

 「ハハーハ。忍者に剣で挑むなんて侍に剣で挑むようなもんだぜ!」

 おなかを抱えて笑い出すギャルギャモ! それを見て気をよくし、ポイズンガメも笑い出す。そのすきを見逃さない!

 「隙あり!」

 アーマーソードを振りかぶり不意打ちのポーズをとる俺!

 「ゲッ……不意打ちだ……」

 しかし剣を振りかぶったのはフェイントだ! 剣を振り上げたままカメのカメ膝をけっとばす!

 「ウッゲーッなんたるタクティカル」

 しかしポイズンガメはけらけら笑い、しまいには笑い出す!

 「へへへ、俺が忍者であることをすっかり忘れていたぜ。忍者ってことは何か忍法が使えるはずだ。どれどれ……よーし、カメ分身の術!」

 ポイズンガメの隣に分身ガメが現れる! しかし瞬時に本物のポイズンガメを見破り、パンチを繰り出す俺!

 「俺がポイズンガメだと見抜きやがって!」

 地団太を踏み潰すポイズンガメをなだめながら俺は勝ち誇ったように説明セリフを吐き散らす!

 「お前は椅子に座っているな。分身ガメは立っていたし、いきなり現れたので分身だとわかったのだ」

 「ぐぐぐ……賢い! 強いのに賢いなんてずるだ!」

 嫌そうな顔をするポイズンガメだが、笑いコブが浮かび上がる!

 「ハハーハ! ジャンゴ! この忍術思い出したぜ! 釈迦にセッポしげしげ純子マンボ! 台無しハー、もういや!」

 「ゲッ再び怪しげな呪文を唱えてやがるこのカメ」

 僕は近くにあった石を蹴っ飛ばす。カメはゴゴゴゴゴと言いながら怪しげに姿を変えていった……!

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