第26話 初めての家族旅行(六)

 旅行一日目の夜、おかあさんから順に卓、美穂さん、私と並んで横になった。電灯は消したけど障子越しに雪明かりが入ってくる。横を向くと美穂さんがいて、綺麗な横顔を見られて嬉しい。

 家では、卓を真ん中に三人で寝ている。だから美穂さんに触れる機会も少ないのだが、今日はそっと布団の中に手を入れて美穂さんの手を握った。

 するとその手を美穂さんがスリスリとこする。

それがくすぐったいやら気持ちいいやらで、私もやり返す。でもすぐに我慢出来なくなってしまい、もう片方の手も布団に入れると、美穂さんの手の動きを封じた。

 すると美穂さんがこちらに体を向けて、空いていた手を私の頬に添えると誘うかのように、優しく指先を動かした。

 同居により機会が減ってしまった私達だったが、その気が無くなった訳では無く、我慢していただけだ。

布団から抜け出して、美穂さんの布団へ入ると、愛おしいその唇へ唇を重ねた。

 そこからは気配を悟られぬよう、ゆっくりと静かに互いの体に触れ合い、変わらぬ愛を確かめあった。

久しぶりだったので、すぐに昂まってしまった私達は、速まった鼓動が落ち着くまで待つと、おやすみのキスをして眠りに落ちた。


 翌朝、一番に起きたのは卓だった。筋肉痛も無いようで朝から興奮している。今日は障子越しにも朝日が射していることがわかる。

予報どおり晴れなんだろう。

おかあさんはお茶の支度を始め、私達は布団を脇にどけるとストレッチを始めた。


 二日目のスキーレッスンはリフト一日券を買い、頂上まで上るところから始まった。そして止まる練習と曲がる練習を繰り返し、それを徐々につなげて、左右に曲がりながら下りる練習まで行き着いた。

 お昼を食べて休憩をしてからは、連続して滑る練習ばかりとなり、滑れてるってことが嬉しくて楽しくて、実は最初の歩き回ったり、止まったりする練習よりも、滑るほうが楽なんだと知った。


「青木くん、昨日より今日の練習のほうが楽なんだけど」

「そうですね。昨日は全身に力をこめっ放しだったと思うんですけど、

今日は入れたり、緩めたりをしてますからね。

滑れるようになるともっと楽になりますよ」

「ふーん、あとどの位かな」

「卓なら、四日もあれば両足を揃えて、色んな斜面を滑れるようになると思います」

「へぇ、そんなに早く?」

「はい、子供のうちのほうが上達が早いですね。

来年とか、それか今度の春休みとかに三泊四日のスキー教室に参加したら、どんなゲレンデでも滑れるようになりますよ」

「だってさ、卓。

今度、一人で来る?」

「えーっ、ひとりー?」

「卓、すぐにお友達が出来るよ、それに素直お兄ちゃんはいるよ」

「うーん……」

「青木くん、また改めて相談するよ」

「そうですね。午後からは、さらに楽になる滑り方を教えますね」

「お願いします」


 少し休憩を挟むと、午後からは足を肩幅ほどの広さで平行に揃えて滑る練習をした。

曲がる時にはスキー板の後ろ、つまり足のかかと側を開き、ハの字を作ったら、上体を谷側へ伸ばす。すると両足から力が抜けて、スキー板も谷方向へ向くので、開いたほうの足に体重を乗せる。

それをきっかけに板の角が雪に食い込み、ブレーキのように働いて、曲がってくれる。

 体を谷方向へ伸び上がる時に、少し勇気が必要だったが、出来るようになると、足にこめる力が少なくて済むので、楽だ。

ここまで出来るようになると楽しいし、スピードも上がってくるしで、何度もリフトに乗った。

 気が付かぬうちに終了予定時間が来ていたようで、たくさん滑った分、昨日よりも早くお終いになった。

卓はまだ物足りなさそうだが、まだ明日の午前中がある。そう伝えてしぶしぶながら納得してもらった。


「明日はどうしますか?」


用具を片付けながら青木くんが聞いてきた。


「卓と美穂さんの二人をお願い出来るかな。私は運転があるからさ」

「そうですね、卓一人でも構いませんよ」

「分かった。あとで相談してみる」

「そうですね、ママと一緒がいいかも知れませんからね」


 部屋に戻ってみると、おかあさんが居なかった。

私達が着替えなどを済ませてお茶を飲んでいると、両手に手提げ袋を持って戻って来た。


「そんなにどうしたんですか?」

「いつもお世話になってるご近所さんに温泉饅頭のお土産だよ」

「ああ、そうですよね。

色々と頂いたりして来ましたもんね」


おかあさんが頷いている。

その顔を見ながら、きっとこれからは、うちからもお土産を配れるようになると思った。

 まだまだ、少しずつかも知れないが、家族が一人増えたことで、みんなが笑顔になれる時間が増えたら私も嬉しい……

 また浮かんできたそんな思いを噛み締めながら、おかあさんをお風呂に誘った。


「おかあさん、みんなでお風呂に行きませんか?」

「そうだね、卓は、大丈夫かい」

「卓も早く汗を流さないとね。風邪引いたら明日はスキー出来ないよ」

「じゃあ、はいる」

「よしっ、支度しよう」


 その後、お風呂に一家四人で浸かりながら、昼間の卓の腕前などを話した。すると、おかあさんもフロント前でコーヒーを飲みながら、地元の人達とお喋りを楽しんでいたことなどを教えてくれた。そのままゆったりとした時間を四人で楽しんだ。


(初めての家族旅行編 完)

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一人きりの美彩 tk(たけ) @tk_takeharu

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