第22話 初めての家族旅行(ニ)

 いよいよ家族旅行へ出発する日、寒いながらも天気は良くて、心配していた道中も降雪などの予報は出ていなかった。

その日、私が最初に会ったのはお祖母ちゃん。


「おはようございます、朝早くからすみません」

「おはよう、天気が良くて何よりだね。買ってもらったコート、とても暖かいよ」


「向こうは寒いでしょうからね、完全防備で行かないと」

「何時に出掛けるのかい」

「八時前になったら、私は車を借りに行ってきます。

それから、戻って来たら荷物を積み込んで出発です」

「卓と美穂はまだかね」

「ふふっ、はいっ、夕べは卓が興奮しっぱなしで、美穂さんもそれに付き合って起きていたので、ようやく寝たんだと思います」

「卓は旅行が初めてだからね、嬉しいんだよ」

「それが何より嬉しいです。思い出はあとから買えませんから」

「そうだね、こんな日が来た事が嬉しいよ」

「さあ、朝ごはんの支度、一緒にお願いします」

「はいよ」


 お祖母ちゃんと私、二人並んで台所に立ち、おかずとみそ汁を作る。

 テーブルを拭いて箸を並べると、美穂さんと卓を起こしに行く。


「おはよー。朝ごはんの支度が出来たよ」

「ん……」

「車に乗ったら、また眠れるよ。起きないと、出発が遅くなるよ」


 二人の掛け布団や毛布、体を温めている物たちをまくり上げて、強制的に布団から出した。


「ひょえ〜え〜」


美穂が変な声を出す。

卓は、美穂にしがみついた。


「あとの予定があるから、先に食べるよ」


 そう言い残して、食卓へ戻ると、ご飯をよそって食べ始めた。


「じゃあ、借りてきまーす!」


 歯磨きとメイクを済ませて、それらを荷物に加えると、私はスマホと免許を持って駅前に向かって歩いた。

 そうして、四人乗れるレンタカーを借りると家まで戻った。


「ただいまー!」

「おかえりなさーい」


 美穂も卓も歯磨きをしていて、お祖母ちゃんが洗い物を終えていた。


「ぼく、ここがいいー!」


 荷物を積み終え、家中の戸締まりを確認し、玄関の鍵を締め、車のドアに手をかけた時、卓が声を上げた。


「卓、卓はお祖母ちゃんと後ろに座るんだよ」


 お祖母ちゃんがそう言ったが、卓は前の扉のそばに行き、私を見上げた。

私はそのまま美穂さんを見る。

 美穂さんは少し迷った顔を見せたが、私が微笑んでいることに気付くと、卓に伝えた。


「いいみたいだよ」


 喜ぶ卓に後ろに下がってもらい、ジュニアシートを助手席につけ直す。


「さあ、おいで」


 卓にシートベルトをかけて、みんなが乗ると目的地に向けて出発した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る