第15話 愛はクルマへ向かうのか
私は打ちひしがれていた。誰かと会いたい一心で行動したものの、相手にも事情はあって思うようにはいかなかった。
土曜日の夕方、ガレージに立ち寄り愛車に乗り込むとエンジンをかけた。身体に伝わる振動を感じながら思った。結局、私には物しかないのかな……
日曜日の深夜、以前のようにドライブの支度をしてガレージに向かう。
今日は南。いつもの倍、片道二時間を走ると、折り返して戻って来た。最後にいつものコンビニに寄り、朝食を買った。では無く、買うつもりでレジへ行った。すると無人だった。中には誰も居ないし通路にも人が居ない。事務室かトイレかなと思い、商品を置いて待っているとカウンターの向こう側に人の気配がした。怖くなってレジから離れたが誰も出て来ない。仕方なくカウンターの横からそっと覗くと白石さんが胸を押さえて座り込んでいた。
私はレジの中へ入ると名前を呼んだ。すると胸を押さえて苦しそうな顔で私を見上げた。白石さんの顔には汗が浮かんでいる。これはおかしいと思った私はオーナーの連絡先を聞いた。すると指が台の下を指した。そこにあった連絡先一覧にオーナーのものがあったので電話をかけて事情を説明し、すぐにお店に来るよう頼んだ。そして救急車を呼んだ。
オーナーはすぐに駆け付けてくれてお店を引き受けてくれた。私は救急隊に見た様子を伝え救急車に同乗した。とても心配で放っておけなかった。
病院の廊下で彼女を待った。しばらくして車椅子で出てくると別室での検査だった。そんな彼女について回り大部屋に寝かされるとベッドのそばに座った。彼女はすやすやと寝ていてしばらくは起きなかった。残念ながら白石さんのお宅の連絡先は分からない。コンビニへ電話をかけてオーナーに病院名を知らせ、家族への連絡をお願いした。
お昼前、お祖母ちゃんとタクちゃんが病室へ来た。私が見た様子をお祖母ちゃんに伝え、病院からは話を聞いていないことを伝えた。しばらく三人で白石さんの顔を見守っていたが、お祖母ちゃんがポツポツと喋りだし、家庭の様子を教えてくれた。
タクのお父さんは事故で早世したこと、お祖母ちゃんは父方の祖母で白石さんとは義理の親子であること、そしてお祖父ちゃんはすでに亡くなっており、お祖母ちゃんは腰が悪くて働けないこと。そのために白石さんが夜と昼間働いて三人の生活を支えていること。
「白石さんのご両親はどうされているのですか?」
「自分達のことで手一杯みたいで、どうにも出来ないようです」
「白石さんはおいくつなんですか?」
「たしかニ十七です。タクの妊娠が分かって大学を中退しました」
「大学生だったんですね」
「ええ、その時の奨学金もいま必死に返しています」
「一緒に白石さんの状態を聞きに行きませんか?」
私達はナースステーションへ行き看護師さんに話しかけた。事情を分かってくれて、後で先生が説明に行くように頼んでくれた。しばらくすると先生と看護師さんが来て、診断結果を教えてくれた。
「睡眠不足などによる不整脈やストレスなどで動悸や息切れが起こったのではないかと考えています。検査の結果は特に異常は見つかりませんでした」
「あの退院は?」
「今している点滴が終わり、目が覚めて異常が無ければ、そのまま退院してもいいでしょう」
ギュッと掴まれていた心臓に再び血液が巡りだすような感覚がして、体中の力がふわっと抜けた。私はタクちゃんを連れて売店に行くとジュースを買って二人で飲んだ。ふとレジ横を見るとミニカーが並んでいて私の愛車も売っていた。それを二つ買い、一つをタクちゃんに渡すと病室へ戻った。タクちゃんがミニカーをお祖母ちゃんに見せびらかして喜んでいると、白石さんの目が開いた。
「美穂さんっ!」
「お義母さん」
「ママッ!」
「タク、もう大丈夫だよ」
「お義母さん、ご心配おかけしました。今何時ですか?」
「午後の三時だよ」
「じゃあ、帰って支度しないと」
起き上がろうとする白石さんを止めて看護師さんを呼びに行った。先生と看護師さんが来てくれて、問診と触診をして退院の許可がおりた。
「先生、仕事はいつからいいですか?」
席を外そうとした先生に私が聞いた。先生は難しそうな顔をしながら「睡眠不足なのは間違いないので、少し静養をおすすめします」とだけ答えてくれた。ひとまずお祖母ちゃんと退院手続きをして、費用は立て替えた。そして帰り道は四人でタクシーに乗った。
初めにお祖母ちゃんとタクちゃんはお家のそばで下ろし、私と白石さんはコンビニまで行き、白石さんが手荷物を持つと私の車に乗ってもらい、お家まで送った。
「ありがとうございました」
深くて頭を下げる白石さん。
「少しでしたけど、二人でドライブ出来ました。じゃあ、また」
頭を上げてくれない白石さんに会釈をして車に乗ると、その場を離れた。
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