第14話 外れた思惑
私は昂ぶっていた。駐車場で女性の気持ち良さそうな声を聞いてしまったからだ。ガレージに車をしまうと部屋に戻った。この火照った体を早く収めたい。
シャワーを浴びて頭と体を洗ったが火照りは収まらなかった。自分で体を触り発散する方法もあるが、あとから来る虚しさが嫌で触るのを我慢した。仕方なく未奈美にLINEを送った。
『明日から仕事なのにまだ眠れない』
未奈美は会社の元同期で、転職をして違う会社に勤めている。
『相手は出来ないの?』
『いないよ』
『電話して欲しい?』
『うん!』
すぐに電話がかかってきた。
「久しぶりだね」
「うん」
「最近何してたの?」
「うーん、恋かな……」
「順調?」
「全滅だよ。へへっ」
「寂しくて電話してきたの?」
「そうなるのかな……」
「ホストクラブとか女性向け風俗とか行ってみたら」
「そんなこと言うんだ」
「未奈美は私の事、助けてくれないの?」
「美彩は私の事が好きなの?」
「美彩、これってお互い様じゃない。私はあなたのお人形じゃないのよ。お金を払えばぬくもりも快感も買えるのよ」
「未奈美、電話を切らないで!、私を助けて!」
「あなたの都合のいい女になるつもりは無いわ」
「でも私にはもう未奈美しかいないんだよ!、それじゃ駄目なの?」
「美彩は私に何を求めているの?」
「ぬくもり」
「ほかには?」
「わかんないよ!、愛かも知れないし。一緒に居て心が踊って、心が安らげる相手が欲しいよ……」
「また泣いてるの?」
「美彩は泣き虫だね」
「今度の金曜日、一緒にご飯を食べに行こうか」
美彩は何度も頷いた。
「そのまま、泊まりにおいで」
「あり、が、とぅ……」
「ちゃんと寝て、お仕事頑張るんだよ。じゃあ、美彩。おやすみ」
「おやすみ、さい……」
電話が切れた。涙がかれるとぐっすりと眠れた。
約束の金曜日。はやる気持ちで朝から落ち着かない。それでも時間になれば仕事に集中して、きちんと働いて定時になった。待ち合わせにはまだ時間がある。ターミナル駅まで行くとファッション専門店が集まるビルに入った。
店内を見ながら未奈美へのプレゼントを探す。未奈美ってどんな物が好きなんだろう。私が未奈美に渡したい物はなんだろう。ふと思い付いて未奈美をイメージした物と私が好きな物をセットでギフトラッピングして貰った。それから雑貨屋さんで便箋と封筒とシールを買いカフェへ入った。
未奈美に会うと少し落ち着いた雰囲気だった。気分が高まっていない感じで声もいくぶん低い。
私は会えて嬉しいので終始笑顔でいると喜び過ぎだよと言われた。夕飯はお箸を使う海鮮居酒屋でカウンターのはじに座って飲みながら食べた。でも未奈美のテンションが低いと会話は続かなくて、必死に話しかけるけど反応は薄くて、正直に聞いてみた。
「いろいろとあってね」
「私には言えないこと?」
「美彩が聞きたくないことだと思うよ」
「何か出来ないの?」
「一緒に飲んでてよ」
それからしばらくはカウンターのショーケースに並ぶ切り身が、取り出されて戻って来るのを見ながら食事をした。
「じゃあ、行こうか」
未奈美に連れられて外へ出た。そして未奈美について行く。歓楽街でもより大人の匂いが強くなった辺りで未奈美は映画館に入った。そこはオールナイトで男女の情交ものを上映していた。未奈美と並んで座る。画面では激しく交わる女性の白くてきれいな脚が目を引く。そこに引き締まった男の体が激しく動いている。
膝の上で組んでいる未奈美の手を掴み握った。未奈美の手は力が抜けたままで握り返してはくれなかった。私は手のひらを合わせて指を絡ませて握った。彼女の手は冷たく感じた。それから朝までそこに居た。言葉は交わさなかったが未奈美は時々肩を震わせて泣いていた。朝になると二人で未奈美の部屋へ行った。
未奈美は眠たそうだった。ベッドに寝かして眠ってもらった。私もソファーで眠った。目覚めると未奈美が食事の支度をしていた。
「おはよう」
「おはよう、昨日はごめんね」
「ううん、大丈夫?」
「うん、吹っ切った」
吹っ切るってことは誰かと何かあったのか…… 私が黙り込んだのがすぐに分かったのか続きを教えてくれた。
「最近、付き合ってた彼氏と別れたんだ」
「彼氏いたんだ!」
「ごめんね。そんなに上手くいってなくて、そこに美彩が連絡くれたからさ……」
「心って揺れるじゃん。もちろん美彩は好きだよ。だからあんな駆け引きみたいなことしたんだし……。でも私には男も必要かな」
頭の中が真っ白だった。頑張ってご飯を一緒に食べて、でもプレゼントと愛のメッセージは渡さずに未奈美と別れた。
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