第13話 盛り上がる気持ち

 私は落胆していた。思い切って交換したLINE。一度、落ち着いて話がしたくて誘ったお茶。返ってきたのは笑顔のスタンプのみ。

 私にはこのスタンプの意味が『また今度、いつか』と伝えてきてる気がして、少し期待に盛り上がっていた心は一瞬にして凍えついた。

 白石さんはおそらく離婚経験のある女性。夫は居ないと思う。以前の結婚生活で何があったのか分からないが、異性に対する警戒心は強いだろうと思っている。

 でも私は女性だよ。同性じゃん。そんなに重たい想いをメッセージに込めたつもりは無いんだけどな……

いっそ前向きに捉えて、具体的に誘ってみようかな。


『明日、駅前のカフェで一時間ぐらいお茶したいです』

『何時ならいいですか?』

『友達になって一緒にドライブに行ってみたい』


 もしここまで書いて断られたら諦める。このままフェードアウトする。

一人で勝手に盛り上がった気持ちを勢いに変えてLINEを送った。それからスマホをずっと持って歩いていたけど返信は来なかった。

 夜十時、さすがに少し諦めて寝転んだ。眠くならないままスマホで何となく記事を読む。深夜二時、諦めとともにスマホを離し眠りについた。翌朝八時、目が開いた。今日もいい天気みたいだ。起き上がり朝食を食べた。着ている物を脱ぐと洗濯機を回し、シャワーを浴びた。

 こんな日に部屋に居ては駄目だ。ドライブに行こう。そう思って支度をした。途中で洗濯物を干し、メイクをおえて、キャップとサングラスを持ちリュックを背負った。

そして靴箱からスニーカーを取り出した時、着信に気付いた。


不在着信が二件

ともに白石さんからだった。十分前と五分前


折り返さなきゃ!


そう思っていたら着信が入った。私は慌てて電話をつないだ。


「白石さん」

「おはようございます。お誘いいただきありがとうございます。でも」

「今日はお忙しいですか?」


私は言葉を挟み込んだ。断るのが分かったから遮りたかった。


「無理ならいつでもいいんです、会って話がしてみたいんです」

「友達にはなれないと思いますよ。接点も時間もありませんよね」

「だから会ってお話がしたいんです」

「友達になってどうするんですか?」

「一緒に過ごして楽しんだり……」

「私には今、そういう時間は無くてすでに精一杯なんです。ごめんなさい。お茶もドライブもお断りさせていただきます。じゃあ」


電話は切れた。私の気持ちも切れた。

 本当はこうなる事は分かっていたと思う。でもやってみないと分からないという気持ちに押されてやってみた結果だった。白石さんは私には救いなど求めていない。電話できちんと話してくれて良かった。私はスニーカーを履くと外へ出た。

 ガレージを開けると愛車に乗り込みエンジンをかけた。ブレーキペダルを踏み、クラッチを切るとシフトレバーを一速に入れた。クラッチをつなぎながらアクセルを踏みガレージから車を前に出した。ガレージを閉めると海を目指して走り出した。

 三時間後、見晴らしの良い海岸沿いの小高い丘に着いた。夕日の観光スポットだ。帽子とサングラスをして車から降りて周囲を歩く。周りには親子連れとカップル。雲の流れを見ながらぼーっとして過ごした。足元には手すりがあり、そこから向こうは浸食により削り取られた崖になっている。そばまで行って覗き込んだら、そのまま吸い込まれるんじゃないかと思えた。

 私は夕日が沈み水平線に溶けて消えるまで眺めていた。そして辺りが暗くなってきたので駐車場に戻った。暗くなった駐車場には思いのほか車が残っていて不思議だった。でもそのうちの一台から漏れ聞こえてきた女性の声で気が付いた。私はいたたまれない気持ちになってその場を後にした。

 帰り道、さっきの声が耳から離れなかった。私も誰かに愛されたい。そう願ってしまう声だった。

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