第11話 拾われた心
私は普段馴染みがない街の中で一人待っていた。
「お待たせ♪」
私を二次会に誘ってくれた多田さんが来てくれた。懇親会が終わったらすぐにその場を離れられる私と違い、多田さんはいろいろな人と言葉を交わしてから離れてきた。たぶん十分は後から来たと思う。
「いえ、二次会に誘ってくれてありがとうございます」
私よりも元々少し背が高くて、ヒールを履いてるからさらに高くて、ウェーブしている長い髪の毛がきれいで目と唇に視線が釘付けられてしまうようなスレンダー美人。そんな彼女の隣にいるとドキドキが止まらない。
「少しお話がしたいわよね」
そう言ってバーに入った。
「砂川さん、私の事、覚えてたのね」
「はい」
「私も思い出したわ。車の話をした時、あなたは私をジッと見つめてたでしょ。何だろうと思ったら帽子を被ってポロシャツを着ていたあなたを思い出したの」
「私達、趣味が一緒なのね。歳も近そうだし」
そうですねと思いつつもジッと見つめてくる視線から少し目をそらして一杯目のグラスに口をつけた。
「ねぇ、どうしてそんなにはっきりと覚えているか分かる?」
「女性が少なかったからですか?」
「それもあるけど、見たんでしょ?」
グラスを傾けていた手が止まった。
「妹から聞いたわ。見られたって。しっかり目も合ったって」
グラスに入っていた液体を飲み干すとグラスをテーブルに置いた。
「ねぇ、内緒にしてね。姉妹なんておかしいでしょ」
「おかしくなんてないですよ。本気なんですよね。それならいいと思いますよ。羨ましいですよ」
本心だった。おかしくなんてない。そんなに好きな人がいて羨ましい。空のグラスを見つめながら頭の中で繰り返した。
それからあの日見た妹さんの恍惚とした表情。内緒には出来るが忘れることの出来ない表情だった。グラスをもう一杯もらいあおるように飲んだ。もう用事も済んだし帰ろう、そう思った時、多田さんに手を掴まれた。
「砂川さん、大丈夫?」
私の事をしっかりと掴んでくれた手。上げかけた腰を降ろした。それから最近の話を洗いざらい全部話した。
大学の同級生の由真の話。会社の元同僚の未奈美の話。それから元々、一人で過ごしてきたこと。最後に多田さん達のキス。凄く神々しくて綺麗だったこと。
「キスが神々しいだなんて、少し褒めすぎよ」
多田さんが笑った。
「でもあれを見て、私も誰かと触れ合いたくなって、今こんなに疲れ切ったんですよ」
そうあれを見て発情して自分で慰めたんだよ。少しムキになっていたのだろうか。
「ごめん、ごめん。少し照れくさくて笑っちゃった。砂川さんは真っ直ぐなのかな。正直だよね」
多田さんが何かを考えている。何だろう。顔を見つめていたら気付かれた。
「お仕事たいへんでしょ?」
「はい……」
「ずっとプレーヤーだったら良かったんでしょうね」
「はい。でもプレイングマネージャーは登竜門ですから」
「何の登竜門?、出世?、したいの?、出来そう?」
痛いところをつかれた。返す言葉がない訳ではなく、口に出したくない。
「ごめんなさい。責め立てるつもりはないの。ただそれで苦しんでいそうだから、つい全部言っちゃった」
そんな私の事を心配して言ったなんて事を言われると、涙が落ちちゃうんですけど。泣き顔を見せるのが嫌で背中を向けた。でも多田さんは覗きこんできて、ハンカチで止まらない涙を拭き続けてくれた。
泣いたらすっきりして、帰ろうと思ったら終電はすでに終わっていて、会社のほうが近いから仮眠室で寝るかと思っていたら、多田さんちに誘われた。恐縮しながらタクシーで行くと一軒家でしっかりとした車庫があった。
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