第7話 かつての同期

 昼休みに探しものをしていた。たぶんこのフォルダの中に退避してあって、gmailのドメインだったよね……

検索で絞り込んで目視で探していく。そしてようやくそれらしいものを見つけた。開いてみるとやはり未奈美からのメールだった。そのメールアドレスをコピーしてスマホへ送った。

 未奈美は入社時に同期で、まだ両親が健在だった頃にはよく一緒に遊んだ間柄だった。彼女はスキンシップが大好きでお酒の席の二次会やカラオケではいつも美彩にくっついて来た。でも両親が亡くなった後、塞ぎ込んでいる私に何かと言葉をかけてくる彼女が正直鬱陶しくて、邪険にしていたらそのうちに退職してしまった。

 私は送別会の日に居なくなる事を知り、非常に悲しくなったが、今更何が出来る訳でもないと無関心を装った。それでも彼女は最終日に私の所まで来て、「頑張ってね」とお礼の品を渡してくれた。私はいつも彼女がくれたマグカップを使っている。彼女らしくかわいいが、シンプルな色使いで持ち易いカップだ。夜、休憩を取りながら彼女にメールを打った。


「久しぶりに会いませんか」


するとすぐに返事が来た。


「今からでもいいよ」


 返事を見て苦笑してしまった。でも嬉しかった。こんなに優しくしてもらえる資格が無いと思っているから。


「すぐに会いたいけど明後日は残業が無くて早くから会えるよ」


 返事は素直に簡単に書けた。


「じゃあそうしよう」


 そこには待ち合わせに関する事と携帯の電話番号、そしてLINEのIDが書いてあった。満足した私は仕事に戻った。


 二日後、昔よく行ったイタリア料理店で彼女と待ち合わせをした。最後に会ってから八年ほど経過しているだろうか。辞めてから何をしているのかも知らない。店内に入ると明るい声が私を呼んだ。手を振っているその人は昔と変わらずかわいい顔をした笑顔のきれいな人だった。

 そして私が座るよりも前に席を立ち上がるとハグをして来た。私も素直にハグをした。二人は腰掛けるとワインとサラダとピザを注文した。それから近況報告をしあい、お互いの今の暮らしを確認し安心した。

 未奈美は働いていた。前の会社を辞めた時は転職が理由で、今もその会社で働いているそうだ。

ただ、同棲までして婚約同然の彼氏には失恋していて、それ以降は男を作らずにいるらしい。


「ねぇ美彩、話したいことたくさんあるの!、だから良ければ泊まりに来て!」

「えっ!?、お泊りなんて大学生以来だよ」

「大丈夫。何かと新品あるし、会社じゃ作業着でしょ?」

「うん、そうだけど……」

「だめ?」


 未奈美にそんな物欲しげな顔、いや目付きと唇をされると断れないし、うろたえてしまった。


「う、うん。わかったよ」

「やったー!」


 そうしてイタリア料理店を出ると未奈美の家へ向かった。駅から家へ歩きながらも話は続く。


「家は一部屋余ってるんだよねー。同棲してた時のままの部屋だからさ。誰か住んでくれる人を探してはいるんだけど、そうそうはいないんだよね」


 いつも明るい未奈美にも何となく引きずっているような過去があるんだなあ。


「もし美彩が気に入ったら同棲しよ」

「それ、断るの難しくない?」

「そうだよ。美彩は私のお気に入りだもん」

「昔はそんなこと言ったことないよ」

「だって同僚だったから引かれたら困るもん」

「今はいいの?」

「もう何年も会えなかったんだよ。ここで躊躇してどうすんのよ」

「そっかー、じゃあ私も伝えます。当時はごめんなさい。邪険にしてしまいました。居なくなるって聞いてから動揺したけど、もうどうにも出来なくて。でもいつも助けてくれてありがとう。一緒にいて楽しかったです」

「おー、随分と素直になったね。じゃあついでに教えて。今好きな人はいるの?」

「はいっ!、居ます。でも家族がいるので家庭は壊したくありませんっ!」

「妻子のある身かあ」

「未奈美、それがね。実は夫と子供なの……」

「おっ!?、もしかして突然のカミングアウト?」

「そう、ほんとの事だから」

「昔からそうだったっけ?」

「分からない、皆と一緒に男子にキャーキャー言ってた時期もあるしね。後もう一つカムアウトしますよ。私ね、まだキスしか知らないの」

「おっー、それは構わないんじゃないの。そういう相手が居なかっただけでしょ」

「でもさ、キスって気持ちいいね。好きな人と裸で抱き合ったらどうなっちゃうんだろって思った」


 その時、未奈美が足を止めて美彩の手を引いた。そして美彩を抱き締めるとそっと唇を寄せてきた。未奈美の目が私の瞳を見つめて逸らさない。私も嫌だったら顔をそらせば良いだけだが、未奈美の唇を知りたくて目を閉じた。

 未奈美の唇と重なると、未奈美は唇を少し離しながら少し上や少し横といった具合に唇をずらして重ねていたくる。焦らされているみたいで気持ちいい。もっと欲しいと思い、私も唇を動かし出したところで未奈美の手が割って入った。


「続きは部屋でしよ」


 こくっと頷き未奈美と手を繋いで部屋へ向かった。心臓はどきどきと鼓動を早めていて、頭は快感で占められていてどこへ入ったのか分からないが未奈美の部屋に着いていた。

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