友人で恩人
抜けるような青空。
とある高校の校舎の一角、三階建ての最上階の教室の一室に、三年一組と書かれた最上級生の教室がある。そこで呆れた様子の男性教論が、声を張り上げていた。
「
あー、うるさい!
初夏の爽やかな風とつまらない授業。しかもお腹も小慣れた五限目と言うことで、教科書を盾に机に突っ伏し、気持ち良くうたた寝、お昼寝タイムを満喫していたワタクシだが。
そこを英語教科のグッド先生(工藤先生)が、ダミ声で邪魔してくれた。
ププッ、クスクス、クラスメイトの抑え気味な笑い声。寝ボケ顔をさらすワタクシは、ほんのり赤面中である。
え〜〜。だって〜、朝バイトしてるし〜。学校まで電車で一時間以上かかるし〜。
と、恥ずかしさを誤魔化す為、しなくてもいい言い訳を頭の中でしてしまう。なんとも肝のちっちゃい男である。まぁ、俺なんだが。
「たくっ、お前はいつも寝てるな。ちっとは真面目に集中しろッ」
ドッと、教室中に広がる小笑。グッドの愛を感じさせないお言葉に、お年頃な俺は赤面中から項垂れ中に進化した。
今更ながらに照れ隠しで、何も無かった風を装い咳払いをひとつ、背筋を伸ばし椅子に座り直すと、黒板の上の掛け時計が目に付いた。あー、あと十分ほどで授業が終わりだ、がんばんべ。
気を取り直し、我慢、我慢と、念仏の様に唱え、眠気覚ましにと、今朝観た夢のことを思い出す。
イエ、か……。う〜ん、メチャクチャ可愛いかったなぁ……。
あんだけ盛り沢山な夢だったはずなんだが、感想がそれしか出て来ない。我ながら語彙力ポンコツ過ぎだろって、プチ苦笑い。
終業のチャイムが鳴り、本日の授業も終わり、後はHRだけって事で、俺はそそくさと教科書を鞄に詰め込み帰り支度をする。
基本、俺は同級生とは積極的につるまない。さっさと学校から帰りたいって単純明快な理由なだけだ。
そんな俺の背中を、バシバシ叩いてくる奴がいやがる。しかも強めで。
なんだよ! 俺はベランダに干してる布団じゃねぇっつーの!
「なっ! トイチ、トイチ!」
声で察しがつく。馴れ馴れしく話かけてきたコイツは、ゴリライモもとい、馬鹿の優作だ。
空気を読まない自由人として定評があるコイツ『松本 優作』は、同級生で俺が二年前、転校したてで右も左も分からない時に、色々世話を焼いてくれた所謂、オセッカイ好きのKGB、筋肉ゴリラ馬鹿だ。
とにかく相手との距離が近くて、バカでアホでスケベでウルサイ。一言で言うと人懐っこいジャ〇アンだ。
まぁー、俺の数少ない友達でもあるが。
だけど、全部を無くして全てを諦めていたあの頃の俺を救ってくれたのは、コイツだった。
今、普通に笑えるようになったのも多分、くやしいかな優作のお陰なんだろうな。
俺にとって、大切な友人でもあり恩人ってヤツだな。
「お前さ、今度の土日、どうせ暇だろ!」
馴れ馴れしく肩組んできやがった。しかも満面の笑みでって、もうちょい離れろ暑くるしい。
「どうせってなんだよ! 恵まれ無い子供達の為に、ボランティア活動してるかもしれないだろ!」
きつめに言う。……勿論してないけど。
「ふふ〜ん……。OK貰えたんだぜ〜〜」
こいつ耳ついてんのか? 話聞けよ! ドヤ顔してるしで、余計イラつく。
「だからなんにだよ!」苛立ち全開で返したった。でも、どうせ優作だし別にいいっか。
「学校一の美人さんにだぜ〜〜。週末キャンプどうですかって聞いてみたら〜〜」
「あー、はいはい」
「そしたら『いいですヨ』だって〜〜。『キャンプ興味あったんです〜』だって〜〜」
「あー、はいはい。……はあ!?」目が点になるとは、正にこの事だ。学校一の美人ってまさか……。
「だからさ、お前んちの近くの浜辺でやるからな!」
「ちょっ、まっ、まさか、神代さん?」声が上擦ってしまった。
「そだよー。キャンプ用具一式とバーベキューセット、今日持って行くから。ちゃんと家にいろよ!」
いい顔作って俺に、ビシッと指をさしてくっけど、はあ? なんだそれ!? そだよー、じゃねえよっ!
「はあ??」
マジで頭がこんがらがる。学校一の美人って、はあ? 神代 麗美』って、はあぁ!?
いや、マジで意味わかんねぇんだけど。なんでこのゴリラ、あんな美人さんとお近づきになれんてんの? しかも、仮にホンマモンが来た所で何喋ればいいの!? しかも、しかもで相手はカースト最上位のお方で、俺は最底辺のゴミカスですけど。ハアアッ!?
ガラガラ! のっそりと初老の担任が教室に入って来る。みんな慌てて席に着く。
「きり〜〜。……れ〜〜。……ちゃくせ〜〜」
帰りのHR中、ずっと気が滅入っていた。理由は件のキャンプのこと。
相談も無しに勝手に決められた事で、文句のひとつでも言ってやろうと、後ろの席のゴリラに振り返るも……。
ゴリ作ニヤけ面で、鼻の下伸ばして本物のゴリラみたいになっていた。しかもひとり楽しげに、妄想の世界にいっちゃっているし。
なんかもう、いろいろ諦めた。
♦︎♦︎♦︎
帰宅途中。
いつもの電車、俺はいつも通りに出入り口に備え付けられている手すりに、背をもたれかけ、電車に揺られている。
何の気なしに車窓から覗く田園風景を眺めながら、学校一の美人さん『神代 麗美』の事を考えていた。
頭の中に神代さんの面影が浮かぶ。
美人の彼女。ツヤッツヤの黒髪ロング。顔がおにぎりぐらいちっちゃくてって、いや、そんなちっちゃく無いか。
でも、とにかく小顔で、目鼻立ちもハッキリクッキリ、黒目がちな目もパッチリ二重だな、うん。
勝手な見立てだが、なんかアイドルでも女優さんでも余裕で行けそうって感じかな。
肌も白くて、それにスベスベしてそう。触ったことないから想像だけど。あと、唇もあり得ないぐらいプルプルしてんな、うん。
ヤベッ、俺、なんかニヤニヤしてんな、
まぁ、いいか。あと身長は160cmぐらいありそうだな。それに細身でスタイルもバツグン、脚もスラッとしてて菜〇緒ポーズが似合いそう。それに頭も良いんだよな、成績も常にトップクラスだったはずだし。
性格も温和で誰にでも優しくて、動物好きで特に猫が好きでって……確か、猫飼ってるって言ってたっけ。一応、優作からの受け売りなんだけど。俺は話たこと無いから知らんけど。
いやー、でも改めて考えるとなんかスゲーな。スゲーお人だよ、本当『完璧超人』だよな。キン肉〇ンに出てくる、ネプチューン、キ〇グ? って感じかな。
んー、俺なんかが話かけてもいいんだろうか?
余りに『天上人』すぎて、今更ながらゲロ吐きそうなんだけど。
アイツ、優作はバカでアホでスケベでゴリラだけど……。悔しいかな、まぁまぁのイケメンゴリラだから、コミュ力高いし、学年関係なく友達も多いし。
そう考えれば、アイツなら有りなのかも。
それに比べ俺は見た目、普通だしな。地味だし。何考えてるのか分かんないって言われるし、無口で、クラスでもどうでもいいと思われている存在、だと思う。
そんで無表情で無愛想と来たもんだから、まあー『虫』、小虫レベルだよなぁ俺。いや、まてよ、路傍の小石かも、もしくはポイ捨てされたガムの包み紙ぐらいか。ハハッ、ハハハッ、ハアー。
クセッ毛だしな。純粋な日本人なのに(小学生の頃両親に確認済み)目の色が緑だし。
小っちゃい頃はこの事で、近所のガキ供にイジられて泣かされたのも嫌な記憶として残ってる。アレッ、俺ヤバく無い? 息しててもいいの?
けどなこんな俺でも、中学と高校一年までは陸上を本気で頑張ってて、スプリンターとして全国大会に行けるほどの実力もあった。
両親も一個上の兄貴も(同じ短距離選手)応援してくれてたんだ。
あの頃は、学校も部活も家も全部が楽しかった。あの大地震のあの事故の所為で、大好きだった両親も、仲の良かった兄貴もいっぺんに亡くして……。
そっからだな、どうでもよくなったのは。生きる事事態がどうでもよく。
そのあと、遠い親戚に引き取られこの学校に転校して来て、多分だが事前に担任から聞かされていたのか、クラスメイトからの反応はヨソヨソしいもので、正に腫れ物扱いされて。
そんな中、優作だけは違っていた。何をされても無反応な俺に毎日、毎日飽きもせず、話しかけてくれて。俺なんかの
馬鹿だよな、アイツ。
でもな、それだけで、そんな事だけで俺は……救われていた、アイツに。
全てがどうでもよくて、自分の命もどうでもよくて、でもアイツは、こんな俺なんかの側にいつも居てくれて、無反応な俺の側にいてくれて、俺に笑いかけながら、どうでもいい話しを独り言みたいに毎日、毎日…‥。
ウザイけど、嬉しかった。
どうでもいいけどホント、アホがつくお人好しだよなアイツ。ハハッ。
もちろん前のようにとは行かなくても、普通に生活出来るのもアイツのお陰なんだろうな。
当時の壊れかけた気持ちは、壊れかけのままだけど。
だけど、顔を上げて前を向けるようになったのは『友人であり恩人』の、優作のおかげなんだと思う。
それこそ十倍返しだ!って言いたい所だけど。まぁ〜、アイツ自身、自覚なんかコレぽっち無いから等価交換って事でいいだろ。
恥ずかしくて面と向かって、感謝の気持ちなんて言えんしな。
週末のキャンプの件、イヤイヤだが恩返しの意味も含めて付き合ってやるかな。まぁ、そんなとこか。
でも、神代 麗美さんか……。美人過ぎるよな。やっぱ、メチャクチャ緊張する。ヤッベ、マジでゲロ出そうになって来た。おプッ。
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