第259話 ルトナウム
----『肉壁』という言葉がある。
文字通りの意味で、肉、つまりは生身の人を壁として、敵からの攻撃から身を守る戦術である。
ただし、これはあまり推奨されない戦術。
なにせ、人を壁というモノとして扱う、人道精神に反する行為であって、断じて----
【あぁ、推し同士の戦いが見られて、最高ぅぅぅぅぅぅ!!】
----壁とした人を喜ばせる戦術ではないのである。
「やはり、1人では厳しいものがありますね」
スカレットは雪ん子、そしてファイントの攻撃を、左手の盾と、右手の剣で捌いていた。
盾とは喜んでアヘ顔になっている《ペンライト》小鬼、剣とはマカロンブレードというビーチボールくらいのサイズの、マカロン型の長剣である。
彼女が持っている、あのただのマカロンにしか見えない長剣……性能としては半端じゃない。
雪ん子が【オーバーロード】の力で強化した剣を、【オーバーロード】ごと断ち切って、基となってる剣すら刃こぼれを起こしてる。
さらには、ファイントが放った砲弾のような魔術を、《ペンライト》小鬼の身体で防ぎつつ、マカロンブレードで斬り捨てていた。
「《ぴぴぃ……!》」
「……バカにされてるね、本当」
雪ん子とファイントの2人は、非常に不満気であった。
なにせ、2人が未だに倒されていないのは、スカレットが1人だから。
2人が攻め続けているから、スカレットが攻勢に出られない。
だからこそ、2人はまだやられてない。
それは、召喚獣の2人にとっては、本当にバカにされてるとしか思えなかったのだ。
【頑張る推し達! 悔し涙を流す推し達! 推しの活動、尊いでペンライト!】
「----とは言え、人数が少ないのは不利だし、"助っ人"を出しましょう」
スカレットは懐から、3枚のお札を取り出す。
お札にはそれぞれ【試作機アルファー】【試作機ベータ】【試作機ガンマ】と書かれていた。
「これらは私達の新たな仲間、【発明】の『ベンチャーちゃん』に作ってもらった試作機。
ダタラ戦闘形態を越えた、新型の人造兵器----その名も、【人造兵器ボウケンシャ】!」
放り投げられたお札は、空中で人の姿となっていた。
鎧と兜を着た、片腕が剣となっている鉄製の魔物。
「私達【街】の因縁の相手、【三大堕落】の赤坂帆波、そして元勇者の空海大地や天地海里には、3000体近く派遣しているが、たった3体であろうとも戦力としては十分だから、油断しないで欲しいな。それに、まだ控えはいっぱいあるしね」
鉄製の3体の魔物に守られつつ、スカレットは懐からさらに10枚以上のお札を取り出していたのである。
戦力としては、まだまだ増やせるという意味なのだろう。
「なん、だと……」
札が、人型の兵器となる。
それだけでも驚きの光景ではあったが、冒険者である俺にとってはいつもの事だったので、
俺が驚いた理由、それはその人造兵器ボウケンシャの鑑定結果にあった。
===== ===== =====
【人造兵器ボウケンシャ】 戦闘アイテム
【街】所属、【発明】の『ベンチャーちゃん』こと、花弁千夜葉が作り出した人造兵器。ダタラ戦闘形態などの実験結果を参照して作り上げられた、【街】の新たな戦闘形態
冒険者の姿をして、調整されたルトナウムを浸すことによって冒険者特性を宿した兵器。機械でありながら、ルトナウムの特性を受け継ぐことにより、レベルアップの力を手に入れた
===== ===== =====
「----冴島渉、【召喚士】。君が特別だと思っている理由は、本来は成長しない召喚獣が
でもねぇ、特別なのは
ペストマスクで被っているが、そう語るスカレットの顔が愉悦に、優越感に浸っているだろう事は想像に
「教えておきましょう。あなたが召喚獣をレベルアップ出来るようになったのは、あの木こりの泉を思わせるダンジョンでボスを倒したからと思っているようですが、もっと前から始まってる。
この世界にルトナウムが生まれたきっかけ。そう、空海大地がこの世界に戻って来た際に、世界を破壊したところから始まる」
「何を、言ってる……?」
「知らないなら、後で当人達に聞けば良いさ。彼らも後で話してくれるでしょうよ、快く。
空海大地がこの世界に戻って来る際に力が強すぎたから、この世界を破壊したことも。そして、その際の破壊に巻き込まれ、赤坂帆波が死んだことも。
----その被害者が、赤坂帆波
そう、ルトナウムとは、空海大地による世界破壊に巻き込まれた人間が、その魂と身体そのものがかき混ぜられて、液体状となったモノ。
ルトナウムとは、"
召喚獣も、人間も、この人型兵器ボウケンシャが、その全てがレベルアップすることが出来たのは、ルトナウムが人間そのものだから。
人間が成長するように、ルトナウムを得たモノは成長する。それだけの話だよ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「ルトナウム、それはあらゆるモノに魂を与え、成長する性質を与える。
----実に、実に素晴らしい代物でしょう?」
スカレットは笑い声をあげ、その隣で壁役たる《ペンライト》小鬼も【然り! 然り!】と頷いていた。
「----さて、絶望はここからが本番ですよ」
スカレットがそう語ると共に、いきなり地面が傾いた。
----いや、地面そのものが"傾いていた《・・・・・》"。
「今、私達が居るのはドラキュラ城。そしてここは最上階、つまりこの下には別の
たった今、その柱を斬らせました。私達を支える床は、このまま落下します」
スカレットの言葉が真実だと分かったのは、そのすぐ後。
俺達の床もまた、ボロボロに崩れ始めたからだ。
「さぁ、舞台を変えて、第2ラウンドと参りましょう?」
そして、俺達は床に落とされるのであった。
「冴島渉、君には人造兵器ボウケンシャを送っておきますね。
----とびっきりの絶望と共に」
(※)ルトナウム
特殊な液体で、これをかけられたモノは
この液体には人間そのものが凝縮されており、
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