第240話 繋がったセカイ(2)
「----妾の認識で言えば、異変に気付いたのは、ダンジョンから主殿に【送還】された後じゃな」
ずずいっ、と、お茶で一服して休息した後に、ココアはそう話を切り出した。
「主に【送還】されたら、普通なら次の召還まで意識がないはずなんじゃ。にも関わらず、妾の意識はあり、主から召喚された感じはなかった」
いつもとは、明らかに違う違和感。
そこで、ココアは自主的に、違和感の調査を始めた。
その調査の結果、ここは吸血鬼のために用意された世界であり、何故か"川が流れている"ということが判明したのだそうだ。
「川……?」
「ここが本当に、ただの吸血鬼の世界なら、沼や湖はあれども、川はないはずなんじゃよ。なにせ、流れのない沼や湖と違い、川は常に流れる流水。妾達の弱点の1つじゃから、吸血鬼の世界に川なんてないはずなのじゃよ」
ココアが待機している世界は、吸血鬼達の世界。
つまりは、吸血鬼達の楽園だ。
故に、吸血鬼達の弱点となるものは一切ない。
十字架、にんにく、銀の武器、その他エトセトラ。
吸血鬼の弱点が一切ない、そんな吸血鬼達の楽園の中に、吸血鬼達の弱点の1つである流れる水、『川』があるのだ。
その時点で異常なのは、ココアにも、他の吸血鬼達も理解したんだそうだ。
「妾の他にも、意識を持つ吸血鬼がおったからのう。皆で調査したんじゃ。
----その後、皆で調査した結果、妾達が居った吸血鬼の世界とは別の世界と"みっくす"されておると、そう結論付けたのじゃよ。まぁ、その"みっくす"された世界の名前が、主殿の住まう世界の"よーろっぱ"なる国ということまでは、分からんかったが」
「そして、調査中にこの家を見つけたと?」
「家の外に、雪ん子がおったのじゃ。それで、主殿も居るかと思って、入らせてもらったんじゃよ」
なるほど、朝の雪ん子の怯えた様子はそう言う訳か。
ココアとダンジョンで会うのはおかしくはないが、ダンジョンの外であるここであるのは不自然だと、雪ん子はそう感じた訳だな。
「……ねぇ、ココアちゃん?」
と、今まで静かに話を聞いていたファイントが口を開く。
「----? どうしたんじゃ、ファイント?」
「別の世界をミックス、と言っておったが----ミックスされたのは、ヨーロッパだけですか?」
ファイントがそう言うと、ココアは「気付いておったか……」と頷いていた。
えっ? なに?
2人だけで納得しないで、ご主人様にもちゃんと説明して欲しいんだけど?
「"よーろっぱ"なる世界は分からなかったのじゃが、それ以外にもいくつかの世界と"みっくす"されてると分かったのじゃよ。川の中には水の精霊達が、空には翼を生やした天使達、その他にも人とも吸血鬼とも違う種族がいくつかおったのじゃ」
水の精霊達に、天使……他にも、色々な種族か。
明らかに、人間以外の種族がいるとなれば、そりゃあ違和感も強まるよな。
「幸いなことに、それぞれの種族の長同士で相互不干渉で、話がまとまっておる。妾達吸血鬼もいきなり巻き込まれて、困惑しておるのじゃから、相手方も困惑してるのも道理じゃったので、話は"すむーず"に進んだのじゃよ」
「なるほどねぇ☆ まぁ……」
----ぞわりっ!!
まるで寒気かと思うくらい、ゾッとした殺意を、ファイントは放っていた。
「----この家に、ご主人の家に敵意を向けるのなら、私のスキルで命を奪うつもりだから、そのつもりでね☆」
語尾こそ可愛げではあるが、殺意や敵意を纏った状態で、ファイントはそう言うのであった。
「あわわ……!! 妾に、妾に文句を言われても、困るのじゃが?!」
うるうるっ、涙目を浮かべるココア。
「----そうね……それじゃあ、ちょっと行って来るわ♪」
そう言うと、スキップ混じりのルンルン気分で、外へとファイントは出かけて行ったのである。
「……分からせに、行ったんじゃろうか? それぞれの種族とやらに」
「だろうな、うん。ファイントの流れ的に」
ご冥福を祈っておこう----融合召喚獣である聖天使ファイント・ルシファーになって、超強化された彼女に迫られるであろう、様々な種族達に。
「ところで、主殿。今、暇じゃったりするじゃろうか?」
「……まぁ、暇だよ。うん」
いきなり自宅がヨーロッパに連れてかれたんだ。
もし予定を立てていたとしても、その全てがキャンセル扱いだろう。
「----そうか! そうか! 実は主殿に妾の妹達、マルガリータとヘミングウェイの2人を召喚して貰って、行きたい場所があるんじゃよ!
むろん、雪ん子も、ファイントも一緒に!」
「行きたい場所? ダンジョン、それとも吸血鬼なりに重要な施設か?」
俺がそう聞くと、「温泉じゃよ」とココアは答える。
「様々な世界が"みっくす"された際に、主殿のこの家のように巻き込まれた施設----温泉旅館『神の家』。
折角じゃし、皆でのんびり温泉に入ったりしないかのう?」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ココアと冴島渉がそんな話をしてる頃、日本。
元勇者の2人、空海大地と天地海里の2人は、
育児に精を出していた。
「「ぱぱぁ!! ままぁ!! 抱っこ、抱っこ!!」」
「おー、よしよし! ここは、この大地パパに任せろ!」
「むっ、言いましたね、大地パパ。この海里ママの頼もしさを、存分に見せてあげますとも」
嬉しそうに、楽しそうに。
2人は、《ペンライト》小鬼の攻撃で生まれた子供達を、あやしていた。
「#カオス ですね。逃げられたのに、嬉しそうとは」
その光景を、ダブルエムは怪しげな視線で見つめていた。
《ペンライト》小鬼と名乗るその敵は、紫色の光線を放って攻撃してきた。
その紫色の攻撃を受けた元勇者の2人は、何故か子供達が出現したのである。
2人を「パパ」だの、「ママ」だのと慕う謎の子供達の出現により、呆気に取られて困惑してたら、いつの間にか《ペンライト》小鬼に逃げられていたのである。
分かっているのは、あの《ペンライト》小鬼の攻撃は、何故か、その者の子供を生み出すということだけ。
「あの小鬼、何がしたかったんでしょう? 子供を生み出す能力? 推しの幸せとか言ってたし、良く分かりませんが」
「まぁ、そんな事よりも、だ!」
がしりっ、と網走海渡はダブルエムの肩をしっかり掴む。
「俺ん所の子供、一緒にあやそうぜ? ダブルエムママ」
「ぱぱ! おうまさんっ、おうまさんっ!」
「いや! ままごとすんの! ままごと!」
海渡の脚に
「なんで、あんたもくらっとんねん。
……いや、まずは"マスター"と連絡とりましょう。あの小鬼の出所に、私、#心当たり ありますので」
「連絡の前に、あやしてくれよ! ママ!」
「えぇい、うっさい! あと、誰がママですか、まったく……」
ぶつぶつっ、と頬を膨らませながら、ダブルエムは"マスター"に連絡する。
「----もしもし、"マスター"? 今、子供達がいっぱい誕生して困ってるんですけど」
『誰の子?! 誰の子を妊娠したの、ダブルエム?!』
「…………」
一度、見てもらった方が速いと、この時点でダブルエムは判断した。
そして、網走海渡と2人の元勇者を引き連れ、ダブルエムは"マスター"のいる家へと向かう。
「……帰るつもり、なかったんですけど」
(※)流水
吸血鬼の弱点の1つ。吸血鬼は川など流れる水の上を渡れないのである。ただし空を飛んだり、ボートや橋を使えば渡るのも可能
これは流水が汚れを流すことから、「穢れた存在である吸血鬼も同様に流水に弱いだろう」という民間信仰から生まれた弱点である。ギリシアではこの民間信仰を利用して、無人島に吸血鬼を封じ込めて、餓死させるという退治方法もあったのだとされる
(※)ミックスされた世界
現在、ヨーロッパ国は、【吸血鬼の世界】、【
それぞれの召喚獣のための楽園、居心地がいい空間が用意されており、水精霊達が暮らす川や、天使が暮らすのに快適な宮殿などが存在する
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