第239話 繋がったセカイ(1)

 その日は、朝から雪ん子がすごく、怯えた顔をしていた。


「《ぴぃ~!!》」

「どうした、雪ん子。怯えたりして。俺の家に来るのは、初めてじゃないだろう?」


 ベッドからゆっくりと起き上がりながら、俺は雪ん子にそう言う。


 スキル【独断専行】という、俺の召喚術に頼らずに自由自在にダンジョンから出られるようになった雪ん子は、頻繁に俺の家に出現するようになった。

 まぁ、頻繁にとは言え、月に数回の頻度であり、週に3回か4回くらい、突然来るファイントに比べれば、些細な事ではあるが。

 

 俺は、雪ん子とファイントが家にやってくるのを、日常の1コマとして捉えている。

 2人は家に来ても、別に普通だ。

 冷蔵庫の中を勝手に開けて物を食べたり、テレビでアニメを見たり、お風呂に入ったりと、まぁ、それくらいである。


 その時の2人の表情は、普通で、楽しんでいた。

 雪ん子の、今日のように怯えた顔は初めて見た。


「なんだ、テレビで怖い映像でも流れてたか? それとも、他になにか別の事があったか?」


 ゆっくりと、俺は子供をあやすように、雪ん子の頭を優しく撫でる。

 それを、雪ん子は嬉しそうに、受け入れていた。


 雪ん子はレベルⅤへと進化し、今は【雪の女神ポリアフ】と【マスタードラゴン】の種族となっている、【オーバーロード】の使い手である。

 その姿は高校生くらいにまで成長しており、人間でないことを示すドラゴンの角もまた、凄く立派だ。


 でも、雪ん子は、子供なのである。

 どれだけ進化しようとも、どれだけ強い力を使えるようになろうとも、子供なのだ。


 だから子供のように頭を撫でたり、おもちゃで遊んだりするのが、大好きなのだ。

 ……まぁ、以前みたいに、腕を斬り落としさえしてこなければ、可愛いものなのである。


「《ぴゅぅ~》」

「落ち着いたかぁ~。良かった、良かった」


 でも、なんで雪ん子が怯えていたのかについては、まだ分からないままだ。


 とりあえず、雪ん子の機嫌をなんとか持ち直したことに成功した俺は、ベッドから起き上がって、部屋を出る。


「あっ、ご主人♪」


 部屋から出ると、ほぼ同時。

 待ち構えていたファイントに、俺は捕まってしまう。


 その豊満な胸を、女の武器として認識しているファイントは、俺の腕にぎゅぅぅぅ、と押し付けていた。


「あぅ♡」

「あはっ☆ 興奮しちゃって、ご主人ってば、可愛いなぁ♡♡」


 ファイントに触られて、ほんの少し興奮した俺であったが、すぐさま気持ちを平静に保つ。


 大丈夫だぞ、俺。

 落ち着け、落ち着くんだ俺。


「もう☆ 興奮させるための香水をかけてきたのに、ご主人ってば、身持ちが硬いんですから☆」

「いや、何度やられても、俺は我慢するからな」


 そんな事を言いつつ、俺は1階のリビングへと下りて行き----



「おぅ、主殿。ようやくお目覚めなのじゃ?」



 何故か、リビングでくつろぐ吸血鬼ココア・ガールハント・ヒアリング3世と出くわすのであった。


「えっ? なんで、ココアが?」


 思わず、俺はココアのステータスを確認していた。



 ===== ===== =====

 【《悪の手先》吸血鬼ココア・ガールハント・ヒアリング3世】 レベル;Ⅴ+15

 個体レベル;15

 装備職業;妖狐

 攻撃力;S+25

 属性攻撃力;S+25

 防御力;S+25

 素早さ;S+25

 賢さ;S+25


 固有スキル;【吸血】;相手に嚙みついて血を吸って、回復するスキル。ただし吸った相手が死者の場合、ダメージを受ける

      ;【吸血鬼<狐】;吸血鬼の弱点が消えるスキル。ただし、狐の要素が強く反映される

  ;【悪の申し子】;全ての攻撃に対し、悪属性を付与する

      


 後天スキル;【五属性魔法】+15;火、水、土、雷、風を扱う魔法。レベルが上がると強力な魔法が使えるようになる

      ;【変化魔法(妖狐)】;妖狐に変身する魔法。尻尾の本数の10倍の秒数分、属性攻撃を付与できる状態へと変化する。自分にしか効果はない

;【管狐ノ支援】;魔法属性を変更したとしても、管狐達による手厚い支援により、攻撃力が半分にならない。また、同行者の魔法攻撃の魔法属性を変更できるようになる

      ;【原罪の妖狐】(NEW!!);妖狐のスキルの1つであり、究極のスキル。7つの大罪をモチーフとした妖狐のスキルを全て使用できるようになる

      ;【原罪の妖狐・傲慢】(NEW!!);【原罪の妖狐】のスキルのうちの1つ。自分に対するアイテムやスキル効果時間を4倍にする

      ;【原罪の妖狐・強欲】(NEW!!);【原罪の妖狐】のスキルのうちの1つ。自分の味方に対するアイテムやスキル効果の効果時間を倍にする

      ;【原罪の妖狐・嫉妬】(NEW!!);【原罪の妖狐】のスキルのうちの1つ。自分以外の味方、敵に使われたスキル・アイテム効果を使う事が出来る

      ;【原罪の妖狐・憤怒】(NEW!!);【原罪の妖狐】のスキルのうちの1つ。相手の弱点をつけなかった攻撃を、強制的に敵の弱点に対する攻撃にすることが出来る

      ;【原罪の妖狐・色欲】(NEW!!);【原罪の妖狐】のスキルのうちの1つ。相手の状態異常攻撃を全て無効化する

      ;【原罪の妖狐・暴食】(NEW!!);【原罪の妖狐】のスキルのうちの1つ。近くにある食材を使用する際、ステータスに一時的にボーナス効果を与える事が出来るようになる

      ;【原罪の妖狐・怠惰】(NEW!!);【原罪の妖狐】のスキルのうちの1つ。攻撃しなかった時間だけ、次の攻撃の威力を上げる事が出来る。最大500%(50分以上経過状態)

      ;【二人三脚】;自分と体力をもう1人の相手と共有するスキル。対象;悪癖龍マルガリータ

;【雷狐・風狐】;雷と風の2種類の狐神を使役するスキル

      ;【魂鑑定】;魂そのものを鑑定する【鑑定】魔法の上位系。相手の魂を覗くことが出来る

      ;【発情期】;動物関連の魔物や召喚獣が稀に持つスキル。状態異常が効かなくなる代わりに、発情してしまう

 ===== ===== =====



 うわっ、色々とスキルが増えてるな。


 えっと、つまり、新たに得たスキルを整理すると、今のココアの状態は----



 ===== ===== =====

 ・自分に対するアイテムやスキルが使われた場合、効果時間を4倍にする。そして、自分以外に対する効果時間は倍にする

 ・ココアの攻撃は、全て弱点を突く攻撃となる

 ・ココアが居る限り、状態異常を全て使えなくする

 ・ココアが食べ物を食べると、ステータスが一時的に上昇する

 ・攻撃しなかった時間分、攻撃力を倍増させる

 ===== ===== =====



 凄いな、これ。

 ココア、めちゃくちゃ強くなりすぎじゃないか。


「(けれど、【独断専行】などのスキルはない)」


 つまり、どうしてココアが、このダンジョンの外の世界に来たのかは、全く分からないという事か。


「妾としては、聞きたいのはこちらなんじゃよ。

 何故、お主ら----"妾たち吸血鬼の世界にいるんじゃ"?」



 そして、俺と雪ん子、そしてファイントの3人は、玄関から外へ出て、驚いた。



 紅い月が光り輝く、夜闇の世界。

 吸血鬼が住んでそうな西洋風の城がそびえており、おとぎの国を思わせる家々が立ち並んでいた。


「妾も驚いたのじゃよ、主殿がここに来るだなんて。

 ここは吸血鬼、つまりは妾が主殿に召喚される前にいる世界。召喚獣である吸血鬼の世界じゃよ」

「吸血鬼の世界?!」


 慌てて、俺はスマホで、位置情報を確認する。

 そして、俺の現在位置を知り、俺はさらに驚愕する。

 

【現在地⇒ヨーロッパ国 イギリス県 ロンドン市】


 スマホには、俺がそんな場所にいると、俺に告げていた。



 どうやら俺の家は、今、ヨーロッパにあるらしい。

 しかも、そのヨーロッパは、ココアがいる"召喚獣・吸血鬼の世界"と合体しているらしい。


 ……えっ? マジで、どういう事?



(※)吸血鬼の世界

 召喚獣、吸血鬼達の住まう世界。吸血鬼伝説が多く残る、ヨーロッパを思わせる街並みの世界になっている

 紅い月が光り輝く、永遠に夜が続く世界であり、数多くの吸血鬼達が暮らしている

 【召喚士】は吸血鬼を召喚する際、この世界から召喚される。また、純粋な吸血鬼だけではなく、チュパカブラやラミアなどの吸血能力を持つ他の召喚獣達もこの世界に住んでいるが、普通なら召喚される前は意識がなく待機してるだけで、意識はないはずだが……?



(※)ヨーロッパ国

 イタリアやイギリス、フランス、ドイツを始めとした連合国家。もとい、元勇者である空海大地さんが犯してしまったことの1つ

 元勇者・空海大地が、赤坂帆波を殺してしまうくらいの振動を世界へと与えた時、赤坂帆波の殺害だけでなく、地球の各国地域にまで多大な影響を与えていた。その影響はイタリアやフランスなどのヨーロッパにも影響しており、その結果、ヨーロッパは一度滅んだ

 その修復の際、空海大地の「ヨーロッパって、国があったような?」という間違った無意識が影響してしまい、結果としてヨーロッパとは地域ではなく、国家となってしまう。その結果、イギリスを始めとしたヨーロッパ各国は「国」であり、同時に「ヨーロッパ国の県の1つ」などという、ややこしい事態になってしまったのであった

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