第225話 ワタルワタル詐欺
ココア達が、幽鬼カルタフィルスと激闘を繰り広げる一方で。
幽鬼ノブナガ率いる幽鬼軍によって、別の場所へと移動させられた雪ん子はと言うと----
「くっ……もう、未練が薄れて……」
彼女の剣に貫かれた最後の幽鬼が、そんな
全員で百数名以上----襲い来る幽鬼達全員を5回以上殺し、幽鬼カルタフィルスのスキル【未練あるなら】でも復活できないくらいにまで、殺し尽くした。
その一方で、雪ん子が負った傷は軽微であり、彼女は即座に自身の持つスキル【ネットショッピング】によって、回復ポーションを購入して、回復していた。
----圧倒的なる勝利。
「《ぴぃっ!! 勝利、勝利!!》」
雪ん子は勝利の喜びを嚙みしめながら、即座に主たる冴島渉の指示を遂行しようとする。
主たる冴島渉からの指示は、2つ。
『自分の所にやってくる可能性がある敵を排除する』、そして『排除が完了したら、地獄の主サタンが待っているダンジョン奥へと来る』。
既に1つ目の命令は完了したと判断した雪ん子は、2つ目の命令たる地獄の主サタンがいるダンジョン奥へと向かう事にした。
『----待て、雪ん子。【召喚士】の冴島渉の命令を下そう』
ぴたっ、と雪ん子はどこからか聞こえてくる主の声に反応して、その場に止まる。
「《ぴぴっ!! 主の声! 主……あれ、居ない?》」
主の声に反応して、雪ん子は主の姿を探すが、探せど主の姿はどこにも確認できない。
ただ、主の声が、どこからか聞こえてくるだけだ。
『今、こちらは地獄の主サタンの所には、俺1人で向かっている。それはつまり、この難しい問題を解決するちゃん、は俺に任せろと言う事だ』
「《----?? 主、お一人で?》」
雪ん子は疑問符を浮かべるのだが、主の言葉として了承した。
『雪ん子よ。こちらから俺に2つ、命令を下そう。
----重要な、絶対に果たさなければならない命令だ』
「《重要任務?! なに、なにっ?》」
雪ん子がワクワクした顔で待っていると、主の声は命令を下す。
『地獄の主サタンには、俺1人で対処するちゃん、なので、ダンジョン奥には誰も近付いてはならない。雪ん子も、ココア達も、誰1人として近付いてはいけないちゃん、でお願いします』
「《分かったです! 絶対近付けない、です!》」
雪ん子は命令を、受諾する。
『ダンジョン奥へは、絶対に加勢には向かってはいけない』----と言う事を、受諾する。
『----そして、もう1つの命令。これが、最も重要な命令ちゃん、と言っても良い。
今からここに、1人の女冒険者が通る。目印は、黒い帽子』
「《黒い帽子……?》」
『そう、色だけ覚えれば良い。黒色、帽子、それだけ覚えておけば良い』
雪ん子は頭の中で、そういう帽子を考える。
「《ぴぴっ!! その女の帽子、了解!》」
『そう----そいつを、
主は、そのまま話し続ける。
『その女だけは、無傷で通せ。一切、攻撃する事も許さないし、見つかる事すら許さない。
ただ、通すだけ。それだけをする、オーケー?』
主は、雪ん子にそう命令するのであった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「『分かったちゃん、ですね? そう、通す。見つからずに、攻撃する事もなく、ただ通すだけ』----っと」
地獄化されたダンジョンから、遠く離れたビルの一室にて。
雪ん子の主である冴島渉の名を
「便利ちゃん、ですよね。佐鳥愛理に作ってもらった、この魔力通信電話は」
ビーワンちゃんはそう言って、先程まで使っていた魔力通信電話を撫でていた。
佐鳥愛理が開発した、魔力通信電話。
これは電気ではなく、魔力を用いて相手に声を伝える特注の電話。
どんな場所であろうとも、魔力さえあれば相手へと言葉を伝える----姿さえ見られなければ、どんな相手にも偽れる、ビーワンちゃんの固有スキル【偽りの姫君】と相性が良いもの。
「ほんとう、作って貰って感謝感激ちゃん、ですね」
これで、雪ん子……それに、ココア達の手助けは、来ない。
準備は上々である、ビーワンちゃんは事態が上手く行っている事に、喜んでいた。
「そして、もう1つの準備の方もオーケーちゃん、なのです」
そして、もう1つ。
佐鳥愛理に開発してもらった、この魔力映像記録カメラが、役に立つ時が来た。
魔力さえ込めれば、どんな遠くの場所であろうとも、些細な音すら拾って映像として残すカメラ。
これさえあれば、あの地獄のような地域に入る事もなく、ビーワンちゃんは劇的映像を記録することが出来る。
「ビーワンちゃんは"マスター"から教わりました。【どん底】の真なる意味を」
【どん底】担当であるビーワンちゃんが果たすべき役割、それは希望を見つける事。
どんな逆境であろうとも、その希望すらあれば前に進めるという指針。
絶望のどん底にあっても、明日への希望がわき上がるような、そういう希望。
「ビーワンちゃんは、理解しました。
その希望は、"
希望を作るのは、難しい。
だけれども、その希望を輝かせるのは、そんなに難しい事ではない。
要は、演出の問題なのである。
今、冴島渉は地獄の主サタンを救出しようとしている。
それはとても、ドラマティックな行為だ。
だがしかし、そこに絶望的な強さを誇る敵が現れたら?
それを、救出された地獄の主サタンが倒したら?
そうしたら、ただでさえドラマティックな行為が、さらに劇的に見えるんじゃないか?
「それは、とっても希望に見えるちゃん、じゃないかな」
----だからこそ、ビーワンちゃんは策を巡らせた。
雪ん子達による横やりが、入らないように。
絶望的な強さを誇る敵が、ちょうど良いタイミングで来るように。
「----さぁ、始めるちゃん、ですよ。冴島渉。
ビーワンちゃんが追い込んだ絶望をひっくり返し、"マスター"に捧げるための良い希望を、このビーワンちゃんに見せるのですよ」
全ては、"マスター"に見せる、希望を撮るために。
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