第224話 戦天女シルト×怪火ぬらりひょん

「うちのとっておきの、【召喚チェンジ】! 【戦天女シルト】×【怪火ぬらりひょん】ベストマッチフォーム!」


 武装姫ヘミングウェイがくるりと一回転すると共に、彼女の身体が光に包まれる。

 それと共に、彼女のツインテールの左側が光沢溢れる銀色に、右側が燃え上がる焔のような赤い髪へと変わる。

 それだけではなく、両方の瞳には青い炎が宿っており、手には銀色の日本刀を手にしていた。


「じゃーん!! これこそ、武装姫ヘミングウェイの超強力なる姿なのですよ!

 はぁはぁ♡♡ これから、こいつのベストマッチスキルを見せられるかと思うと、興奮で炎が鷹ぶるぅぅぅ♡♡」


 彼女が悶える度に、両方の瞳の中で燃え上がる青い炎が大きくなり、そして大きく揺らめいていた。




「あなたがどんな(放送禁止用語)をやろうとも、私は"目的"を果たすためには負ける訳が行かないんですよ! この(放送禁止用語)女め!」


 そう言って、幽鬼カルタフィルスは手を地面へと振れる。


「奥の手があるのは、(放送禁止用語)なあなただけではありません!

 見せましょう! この私の奥義、【大根】奥義! 【未練爆発みぞれ鍋】!!」


 そう言うと共に、幽鬼カルタフィルスの手から、大量の大根おろしがどんどん溢れるように彼女の身体から出て来る。

 彼女の身体の何倍もの量の大根おろしが、幽鬼カルタフィルスの足元で山のように積み上がっていく。


「私の職業【大根】の真なる力、それは大根がハイブリット野菜であること。根も、葉も、部位ごとに味も硬さも違う、完璧なる野菜。大根は捨てる所のない、完璧なる野菜なのです」


 そうこうしている間に、幽鬼カルタフィルスの足元の大根おろしの山がどんどんと増えていく。


「大根は、"捨てる所がない"。故に私の能力は、あらゆる捨てられた物、命を捨てた死者達をも拾い上げる。

 ----そう、未練ある死者を、大根おろしにて蘇らせる」


 彼女の足元の大根おろしの山が、変質していく。

 ある部分は腕となり、別の部分は足となり、そして顔となり----


「あっ、あれは----!!」



【ヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌ!!】



 その姿は、ココアには見覚えがあった。

 いや、ココアだからこそ、その姿は見覚えがあった。



 ===== ===== =====

 【大根おろし龍リョクチャ・ガールハント・ヒアリング5世】 レベル;Ⅴ

 幽鬼カルタフィルスが、自ら生み出した大根おろしという巨大な山に対して、"万力龍リョクチャ・ガールハント・ヒアリング4世"の姿を複写トレースして生まれた巨大魔物

 身体に特殊な毒が巡っており、その毒は他人に感染することはないが、空気に書いた文字を具現化し、文字が持つ力を操る力を持つ。また、目には見えないジンバーロックを外すことで、一定時間スペック以上の力を出すことが可能となる

 ===== ===== =====



 それは、大根おろしによって再現された、リョクチャ。

 そう、ココアの亡き妹、リョクチャ・ガールハント・ヒアリング4世を模した龍であった。


【ヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌ!!】

「ぐぬぬっ……!! 我が新愛すべき妹を、このような形でなど----!?」


 ココアは怒り、そして幽鬼カルタフィルスは命令を下す。


「やれ、大根おろし龍」

【ヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌ!!】


 そして、大根おろしの龍が足を上げて、振り下ろし----



「----はい、斬りましたぁ♡♡」



 ザクザクッ!!


【ヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌ!!】

「ぐはっ……?!」


 幽鬼カルタフィルス、そして大根おろしの龍は、斬られていた。

 そして、切り口から盛大に、炎が燃え上がっていく。


「ベストマッチスキル【炎刀ぬらりひょん】! うちの斬撃は、相手の身体がなくなるまで消えない炎を与える!」


 そう、斬ったのは、ヘミングウェイである。

 彼女は2人が認識できない速度で、認識できない領域外から、斬られた事すら気付かれないように斬り捨てたのである。


 斬り捨てられた大根おろしの龍は燃え尽き、幽鬼カルタフィルスの方も燃え尽きて灰となっていた。

 一撃である、一撃で彼女は相手を灰という形で、燃え尽きさせたのだ。


「ほんと、凄い力じゃよ。我が妹は」

「あぁん♡♡ 褒められると、う・れ・し・い・な♡♡ ついでに、この身体の火照りも解消してくださるとたまらなく嬉しいです! そう、罵り、殴って、痛めつけてぇ♡♡」


 妹の願いは出来る限り叶えておきたいと思うココアではあったのだが、流石にそればっかりは聞けないとスルーする。

 スルーしたことで「放置プレイぃぃ!! それもまた、イいぃぃぃ♡♡」と喜んでるので、ココアはよしとした。


「よし、ヘミングウェイ。隠れさせておいたマルガリータを呼んでくるのじゃ。すぐさま、主殿と合流の準備じゃ」

「了解ですよ、ココア姉上!!」



「----まだですよ、(放送禁止用語)女ども」


 

「----っ!! ヘミングウェイ!!」

「警戒ですね、ココア姉上!!」



 マルガリータを迎えに行こうとするココア達の背後から、ゆらりと幽鬼カルタフィルスが顔を出す。

 その身体には、ヘミングウェイがつけたはずの、死ぬまで消えない炎が消えていた。


「つまり、復活した、という訳かのう」

「そのようですね、ココア姉上! でも、もう一撃、発火させれば良いだけ! はぁはぁ、もっと楽しめちゃいますねぇ♡♡」


 ばんっ、と幽鬼カルタフィルスは手を地面へと叩きつける。


「何度も同じ技を喰らう訳がないじゃないですか、あなた達にはとっておきをお見せしましょう。

 ----【大根】、超奥義!! 【商売繁盛! 未練みぞれ鍋フルコース】!!」


 彼女の言葉と共に、彼女の身体から、先程までとは比べ物にならないスピードで、大根おろしが出て来る。

 そして、大根おろしとして再現されたリョクチャが1体、また1体と、どんどんその数が増えていく。



「永遠に増え続ける、大根おろしの敵達。

 物量で、押し切ってやりますよ」


「ヘミングウェイ、隠れておるマルガリータを起こして欲しいのじゃ。あやつ、休憩の時は例え死ぬような攻撃が来ようとも起きぬからのう。そういう、気持ちの切り替えはしっかりしておる奴なのじゃ」

「了解です! マルガリータ姉上を起こして、3人で戦いましょう!! そう、身体の火照りが収まるまで♡♡ はぁはぁ、今から興奮してきた♡♡ ちょっと、罵ってくれません♡♡ ぶっ飛ばしてくれません♡♡ ねぇ、ココア姉上♡♡」


 ココア達と、幽鬼カルタフィルスの戦いは、まだまだ続きそうであった。




(※)【未練爆発みぞれ鍋】

 職業【大根】の奥義の1つ。身体から大量の大根おろしを出し、その大根おろしの山に、相手が"一番印象が強い相手"を投影して、戦わせる能力

 なお、この投影する相手は【大根】の職業の者が決める事ができ、また、意識を再現しての騙し討ちやら、意識を一切再現せず暴れさせるなども自由自在に決める事が出来る

 弱点としては、大根おろしを出せば出すほど、体力が減り、死に近づいていく。これを遠慮なく使える者は、死を恐れない、もしくは死なない能力を持つ者だと推測される


(※)怪火ぬらりひょん

 レベルⅤの妖怪系統の召喚獣。武装姫ヘミングウェイの身体を構成する召喚獣の1体で、一番相性が良いのは『鋼』を操る戦天女シルト

 元々、《ぬらりひょん》とは、昨今の創作で良く見られる妖怪の総大将や、他人の家に勝手に入って我が物顔でいたり、存在を気付かせないといった要素は、後世の誤伝、俗説とされている。本来の《ぬらりひょん》とは、岡山県などで見られた、瀬戸内海に浮かぶ人の頭ほどの大きさの球状の妖怪だとされている

 怪火ぬらりひょんはその2つの伝承を合わせた召喚獣であり、炎のように揺らめきながら、決して相手に悟らせないように相手を燃やす召喚獣となった

 また戦天女シルトとのベストマッチスキル【炎刀ぬらりひょん】は、相手に気付かれないようにして相手を斬りつつ、相手に永遠に消えない炎を刻むという、超強力なスキルである

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