第223話 未知なる【大根】に、ヘミングウェイは興奮を隠せない(3)

「----喰らえ、【紅葉おろしボール】!!」


 そして、幽鬼カルタフィルスは赤い水の球体魔法を投げた。

 【紅葉おろしボール】という、ふざけた名前が付けられたその魔法は、名前に反して物凄い勢いにて敵へと、ココア達へと向かっていく。


「----当てさせぬがのぅ!!」


 どっかあああああん!!


 急にココア達と幽鬼カルタフィルスの間に、大きな岩壁が現れる。

 生み出された10mを優に超える巨大な岩壁は、ココアの魔法によって生み出された魔法であり、その岩壁と【紅葉おろしボール】とぶつかり合う。


「どんなモノであろうとも、私の"紅葉おろし"は全てを溶かすのです。

 全てはそう定められている。りんごが木から落ちるように、(放送禁止用語)がクソなように」


 どろどろ、どろーっ!!


 岩壁は、球体魔法となった紅葉おろしによって、どんどん溶かされていく。



「----そして、お主がさっきから一歩も動いてないのと同じように、という事じゃろうか?」


 

 ココアは上から、大きな岩壁の上から、幽鬼カルタフィルスをそう指摘していた。


「お主が妾の妹、武装姫ヘミングウェイの【ベストマッチ】の欠点を見抜いたように、妾もお主の職業たる【大根】の特徴を見抜いたぞ!

 ----つまりは、こういう事じゃろう!!」


 ココアはそう言って、岩壁の上から管狐と共に、相手へと向けて魔法を放つ。

 ココアが放った魔法は、風魔法----【ウインドブレード】。


 しゅしゅしゅっっ!!


 放たれた複数の【ウインドブレード】は、幽鬼カルタフィルスの身体を、貫くことなく。

 ただ、単に彼女の身体の周りを、斬りつけていく。


 そう、それはまるで、先程まで彼女が使っていたスキル【高速かつらむき】のように。

 高速で、幽鬼カルタフィルスの身体に這うようにして、刃物で全身を回り斬るように。


「なっ----!!」


 その魔法が彼女の身体を覆ったのと、時を同じくして、幽鬼カルタフィルスは"歩いていた・・・・・"。


「お主の職業たる【大根】、恐らくその職業はかなり癖のある職業なのじゃろう?

 先程から行っていた【高速かつらむき】、あれがお主の身体を安定化させるスキルじゃろう?」

「…………」

「先程から使っておるその紅葉おろしは、お主にとっては意図していない物。ただの副作用のような物なのじゃろう?」


 【大根】----スピリット系統のこの職業は、自らの身体そのものを『大根』へと変質させてしまう。

 頭の髪は大根葉に、身体は大根に、そして血液は紅葉おろし、そして骨は大根おろしへと。

 そして骨が、固体ではない大根おろしなため、まともに歩けなくなってしまうのである。


 それでは到底活動できないために、【大根】にはそれを解消するスキルがある。

 それこそが、大根となっている身体に、刃物を這わせて、まるでかつらむきのように下ごしらえをするスキル【高速かつらむき】なのである。


「私の(放送禁止用語)な【高速かつらむき】を、風魔術で再現した、とでも?!」

「そして、それによって、お主の身体は大根おろしのような液体ではなく、人間のような身体へと戻ったのじゃ! つまり、攻撃が通用する!

 ----と言う訳で、出番じゃよ! ヘミングウェイ!」




 ココアの呼びかけに応えるように、武装姫ヘミングウェイがスキルを発動する。


「はぁい、ココア姉上♡♡ うちにお任せあれあれ♡♡ はぁはぁ♡♡

 うちのとっておきの、【召喚チェンジ】! 【戦天女シルト】×【怪火ぬらりひょん】ベストマッチフォーム!」




(※)【大根】

 スピリット系統の職業の1つ。主な使用者は、幽鬼カルタフィルス

 身体が大根そのものへと変質し、髪は大根葉、血液は紅葉おろし、骨は大根おろしへと変質する。大根おろしの骨となっているため、『攻撃は無効化できる』のと『あらゆるものを溶かす』という特徴はあるが、脆すぎて動けないという欠点もある

 そのため、自らの身体を動かすためには【高速かつらむき】によって身体を下ごしらえしなければならない。下ごしらえした身体では、大根の料理名を模した強力な攻撃を使えるようになる

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る