第222話 未知なる【大根】に、ヘミングウェイは興奮を隠せない(2)

「これこそ、ベストマッチ時のみ手に入る能力!

 ベストマッチスキル【煙拳格闘えんけんかくとう】! 効果は、うちは身体を煙のようにして攻撃を避けながら、しかしてこの攻撃は"相手の防御力を無視する"!!」



 そして、ヘミングウェイの放った拳は、幽鬼カルタフィルスの身体に大きな穴を開けるのであった。



「うぇっ……?! なに、この身体?!」


 そこでヘミングウェイは、幽鬼カルタフィルスの身体の異常さに気付く。


 "血液・・"、である。

 彼女の身体には、血が、"一滴も・・・入って・・・いなかった・・・・・"。


 幽鬼カルタフィルスは腹に大きな穴を開けられるも、血が一滴も垂れないどころか、血が一滴も通っていなかったのである。


 代わりに、幽鬼カルタフィルスの身体に血の代わりに通っていたのは、赤い大根おろし。

 紅く色づいた紅葉のように見える事から、その名がつけられた大根おろし。


 ----『紅葉おろし』、である。


「……っ!!」


 そして、血の代わりに詰まっていた紅葉おろしにびっくりしていたヘミングウェイであったが、彼女は自分の腕に快感を感じた。

 そして、慌てて腕を引き抜く。


 ヘミングウェイの腕は、紅葉おろしによって、溶け始めていた。


「溶けっ----♡」

「当たり前です、大根は消化酵素が多く含まれる野菜。紅葉おろし、大根おろしはその効果が最も発揮できますので。

 そして、私の血液は全て紅葉おろし、そして骨などの体内器官は全て大根おろし……私の血液代わりの紅葉おろしに触れたあなたは、溶かされる運命なのです」


 何が当たり前なのかは分からないが、幽鬼カルタフィルスは次の攻撃を始めていた。


「【大根】スキル、【紅葉おろしクエイク】」


 ヘミングウェイがその痛みに悶える暇もなく、幽鬼カルタフィルスは攻撃を始めていた。

 彼女は拳を地面へと殴りつけて、地震を、紅葉おろしの衝撃波の波を発生させていた。


「----っ!!」

「ヘミングウェイっ!!」


 紅葉おろしの衝撃波の波に飲み込まれる前に、ココアは魔法を使う。

 粘着性の高いその魔法は、放たれると共にヘミングウェイの身体に引っ付いて、ココアは思いっきり引っ張る。

 そして、紅葉おろしの波に飲み込まれる前に、ココアはヘミングウェイの身体の回収に成功する。


「危なかったのぅ、ヘミングウェイ」

「ココア姉上、ありがとう♡」


 間一髪、である。

 ココアの魔法によってヘミングウェイを戻していなければ、紅葉おろしの衝撃波が彼女を包んでいた事だろう。


「危なかったのう。もしも受けておったら、ああなっておったじゃろうな」


 ココアはそう言って、幽鬼カルタフィルスの近くを指差す。


 衝撃波が当たった地面、そこは溶解とけていた。

 シュゥゥゥーッ、と地面そのものがドロドロに溶解していたのである。

 恐らくは、先ほど言った、消化酵素の類の作用だろう。


「あぁん♡ あんな溶解を受けてたら、うちの身体はどうなってたんでしょう……♡♡」

「お主、本当に度し難い程の"えむ"っぷりじゃのう……まぁ、そこも妹として、可愛い所じゃが」


 可愛い妹を愛でる一方で、ココアは冷静に敵の力を分析していた。


「(職業【大根】----大根料理を模した強力な攻撃。そして、あらゆる物を溶かす紅葉おろしの血。

 ヘミングウェイの【煙拳格闘】でも、ダメージが入った様子がないとなると----)」


 ココアは頭をフルに回転させて、1つの違和感を感じる。


「(おかしいのう? ヤツの消化性の強い攻撃が最初からの作用なら、最初の攻撃とかで溶けだしたりするはずじゃが?)」


 にも関わらず、溶けたのは2回だけ。

 『幽鬼カルタフィルスの身体の血液代わりの紅葉おろしに触れた時』、そして『スキル【紅葉おろしクエイク】の攻撃の時』だけ。


 そして、ココアは1つの結論を導き出した。


「あぁん♡ ココア姉上、これはこの後、どうするつもりで……♡♡」

「あぁ、ヘミングウェイよ。策はある。ここは妾の案を聞いて欲しいのじゃ」



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



「----話は、終わりましたか?」


 幽鬼カルタフィルスはこちらの話を待っていたようで、その待ち時間に赤い水の球体を自らの手の中に作り出していた。

 恐らくは、紅葉おろしを集めた球体、と言った所だろう。


「あなた達が私の身体を(放送禁止用語)的に見ている中で、私は1つの結論に達しました。

 武装姫ヘミングウェイ----あなたは、決して無敵ではない」


 ----その証拠こそ、その溶けかけた腕です。


 幽鬼カルタフィルスは、紅葉おろしによって溶けかけているヘミングウェイの腕を指差していた。


「武装姫ヘミングウェイ、あなたは防御力が高いみたいですね。相手の攻撃をかばう、(放送禁止用語)なタンクなら、当たり前ですけど。

 あなた達が言ってましたね、『防御力が薄いのをカバーする仲間』でしたっけ? そして、組み合わせによっては強力なスキルも使えるようになる」


 幽鬼カルタフィルスは赤い水の球体を構えながら、「では、何故最初から【ベストマッチ】ではない?」と聞く。


「その答えを、(放送禁止用語)な頭で考えてみました。恐らく、【ベストマッチ】状態だと攻撃力やら素早さは高いけど、防御力は高くないのでは、ってね?」




「----っ!! まさか、見抜かれるとはのう……」


 と、ココアは見抜かれたことに、驚いていた。


 【ベストマッチ】----それは、武装姫ヘミングウェイを構成する2体の召喚獣が最高な組み合わせな時であり、その時に彼女のステータスは半減ではなく、きちんとした形で発揮出来る。

 しかしながら、その状態のときは、防御力がほとんどゼロになってしまうのだ。


 一応は、【金城鉄壁】のスキルは使えるが、防御力はないに等しい。

 だからこそ武装姫ヘミングウェイには、いつもは【戦乙女シルト】と【土蜘蛛】の、【ハーフマッチ】状態を心掛けているのである。


「はぁはぁ……(放送禁止用語)な頭で、どんな"プレイ"をうちにするのかと考えるだけで……興奮が!」

「しっかりしろ、ヘミングウェイ! 気をしっかり持つのじゃ!」


「つまりは、今のあなたならば、この私の強力スキル【紅葉おろしボール】で止めを刺せるという事ですね」


 そう言って、幽鬼カルタフィルスは赤い水の球体----全てを溶かし尽くす【紅葉おろしボール】を放つのであった。




(※)【ベストマッチ】

 デメリットスキルの一種。合一召喚獣のみが獲得することが可能な、自分の身体を構成する召喚獣が完全に噛み合った状態に使用可能となるスキル。それ以外の時は、一番高いステータス以外が半減する【ハーフマッチ】が発動する状態となってしまう

 このスキルが発動状態のとき、合一召喚獣は身体に激痛が走る副作用と同時に、2つの特徴を活かしたベストマッチスキルが発動可能となる。また、【ハーフマッチ】が消えるため、戦力も大幅に上昇する

 ただ、一番高いステータスが、ほとんど効果を発揮できず、能力値がゼロに近い状態となる。なお、ステータス値がSSを越えた状態の時に得られる、特殊スキルは使えます

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る