第210話 いざ、サタンのいるダンジョンへ!

 赤坂帆波との会談を終えてから、早3日後。

 俺は新たなる召喚獣仲間、冴島・D・エリカを加えて、超一級ダンジョン《悪の地獄廻廊》へと来ていた。


 まぁ、ダンジョンに来たというよりかは、その前に来た、という感じだろうか。


 俺達が居るのは、ニュースで地獄のようだと言われている、赤黒い大地。

 そう、ダンジョン前に広がる、瘴気に塗れた大地だ。

 俺がニュースで初めて聞いた時は東京ドーム2個分程度だったのだが、今はもっと広がっていた。


 ----その大きさ、200平方キロメートル。

 以前のおよそ500平方メートルという大きさから、順調に広がりつつあった。


 ……というか、めちゃくちゃ広がってない?

 軽い市町村レベルの広さだよ、これ。


 広大だけでなく、常人なら数分数秒単位で死へと至る瘴気が充満している世界。

 そんな中を、俺達は普通に進んでいた。


「《ぴぴっ……なんか、地面ぶにょぶにょ~》」

「妾達が出てるってことは、以前の北海道のように全体が"だんじょん"化しとるのじゃろうか? ファイントめ、偉い成長を遂げたもんじゃ!」

「むぅ~! 人っ子1人居ないライブ会場なんて、可愛いボクはテンションだだ下がりですよ!」


 雪ん子達も慣れない大地に足を引っ張られる事はあれども、ダメージを受けてるとかの問題はない。

 俺達は、極めて順調に進んでいた。


「(まぁ、あの女性が俺達に頼んだ理由が、これだからな)」


 赤坂帆波を含めた【三大堕落】は、俺達では歯が立たないレベルの冒険者パーティー。

 しかしながら、そんな彼女達でも、ここでは数時間しか活動できない。

 それくらい強い瘴気が、ダンジョンに入る前の大地にも広がっている。


 ここを普通に進めるのは、ファイントを召喚した俺、そして俺のパーティーメンバーである召喚獣だけ。


「----だから私も、冴島渉と契約した今なら、普通に行動できるっすね」


 びゅぅぅぅんっ!!


 物凄い風が吹いたかと思うと、俺達の前にエリカが立っていた。

 俺に贈呈され、俺の召喚獣仲間となった彼女も、この地獄化の瘴気の中でも、平気で活動している。

 やはりどうやら、俺のパーティーになれば、この地獄の瘴気は無毒化できるのは、本当みたいだ。


「俺の理想としては、赤坂帆波とパーティーを組めれば、彼女が対処してくれたんだろうけど」


 残念ながら、パーティーメンバーと酌めないという、俺の命題のせいで、その案は却下なんだわ。

 うん、だから俺が頑張るしかないか。


 はぁ、しんどい……。


「やっぱりこの地獄と化した世界で、動けるのは大きいっすよね。とは言え、冴島くんが召喚した訳ではなく、契約という感じの私だと、能力に制限がかかるみたいっす。感じる限りだと、普段出せる速度の半分、って感じ?」


 エリカはそう言うが、未だに彼女の姿を雪ん子ですら追うのがやっとみたいなので、どれだけ速度が落ちたのか分かり辛いな。

 そんな彼女は【韋駄天】の力で、先行して、ダンジョン前に広がる地獄と化した大地の敵を、排除してくれたのだ。


 そう、死してもなお動き続ける、幽鬼なる元人間の魔物達を。


「《ぴぃ~! 私も、出来るのにぃ~!》」

「あぁ、はいはいっす。でもね、私の出番はダンジョンに入る前まで、っすよ。

 ダンジョンに入る前で、この速度減少だと、ダンジョン内だと戦力になりそうにないっすからね」


 「温存っすよ、温存」と、エリカはそう言って、またしても消えた。




「……本当に何者なんじゃ、あやつは」

「可愛いボクでも、あの人の行動原理は分かんないです」


 ココアとマルガリータは、エリカに対してそう評する。

 まぁ、彼女達からして見れば、いきなり仲間が増えてて、その仲間がいきなり走って敵を倒しては一定時間で戻って来てるだけだからな。

 「ファイントを助けに行く」という目的は全員共有で伝えたが、エリカについての軽い説明くらいは、しておくべきだったのかもしれない。


「彼女は……そうだな。

 ファイントを助けるための、仲間の1人さ」



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 200平方キロメートルの広大すぎる、地獄と化した世界。


 普通に歩いていても、広すぎる世界ではあるが、さらに地獄化の影響で足元もおぼつかず、なおかつ敵である幽鬼も出て来る。

 先行していたエリカも、定期的に戻って来ていたはずなのに、30分くらい前から姿を一切見せなくなった。


 恐らく、罠か何かにハマってしまったと、考えるべきだ。


 俺達はそんな場所を、3時間くらいかけて、目的のダンジョン入り口まで辿り着いていた。


「《ぴぃ~、うざぃ~》」

「ほんと、ほんと! 可愛いボクも、うんざりすぎてぷんぷんだよっ!!」


 先程から続く、幽鬼達の猛攻にイラつく、雪ん子とマルガリータ。

 その理由は、先程から幽鬼達の攻撃が、合理的で、かつ戦略的に襲い掛かってくるからだ。


「幽鬼……まぁ、"ぞんび"みたいな奴らが、いきなり統率を取れた兵隊みたいに襲い掛かって来てるからのう。しかも、こちらが油断している隙を、狙いすましてるかのように的確に……。

 敵に、指揮官がいるのは確実じゃろうな! なっ、主殿!」

「あぁ、それに幽鬼達のあの姿----」


 そう、先程から出て来る幽鬼達。

 彼らは、全員、"甲冑"を着ていた。

 しかも、火縄銃やら、日本刀やらを装備して、襲い掛かって来ていた。


 幽鬼とは、ココアが言うように人間のゾンビ。

 だから着ている服装は、生前に着ていた服のはずなのだ。


「(それが、揃いも揃って何十人単位で甲冑を着ている? イベントならまだしも、火縄銃や日本刀は本物だし、明らかに何者かが与えたと考えるべきだな)」



「よぉーやく、ここまで辿り着いてくれたようやのう。待ちくたびれてもうたで、ほんまに」



 と、ようやく辿り着いた、ファイントが居るダンジョン入り口前に。

 狐耳を生やした、真紅の髪の和服美女が、日本刀を持って待ち構えていた。


「儂は、ここのダンジョンマスターのサタン様に仕える、幽鬼。まぁ、織田信長って言った方が分かりやすいか?

 あんたら、冴島渉ご一行様やろ? とっ、まぁ、挨拶はその辺にして----ほな、落ちとこか」


 ばんっ!!


 俺達が何かする前に、いきなり俺達の地面が消えた。

 大きな穴が開き、


「うわぁぁぁぁぁ!!」


 俺達は地面の下へと、落ちて行くのであった----。




「儂はうつけとか呼ばれてたけど、案外策を練るのも得意なんやで?

 さぁ、今から始めようやないかい。超一流ダンジョン《悪の地獄廻廊》、冒険者をもてなしたるわ」

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