第167.5話(リクエスト編) 彼の人形もまたレベルアップする
少年は、冒険者であった。
彼の名前は、
中学1年生である彼は、自らの将来を真剣に考える、今時珍しい少年であった。
そして彼はその将来を、冒険者という者に定めた。
ダンジョンという現代科学で説明できない異常空間が存在しており、そこで手に入る素材を売れば、一獲千金も夢ではない。
命の危険はあるが、宝くじよりも高確率で、なにより高配当である冒険者に、吉田勇人は夢を見た。
早速、市役所に居る神官から、冒険者となるための第一歩である
この時に、神様から授かる職業によって、その後の活動に大きく差が出る重要なこと。
吉田勇人は、せめてはずれ職業と呼ばれている職業にならなければ、後は何でも良かった。
この時、はずれ職業のことを思い浮かべていたせいなのか、勇人は世間一般ではずれ職業と呼ばれる職業になってしまった。
そう、本編主人公である冴島渉に似た、【人形遣い】という職業に。
----【人形遣い】。
それは人形ではなく、人形というモノに自身の魔力を通して操る職業。
【人形遣い】と同じく、人形と呼ばれる武器を別の世界から作って貰って送ってもらうという点では、【人形遣い】と良く似ている職業である。
そして彼は、命題のせいで他の冒険者と組めない冴島渉よりも、もっと酷い命題を引き当てていた。
===== ===== =====
【吉田 勇人】
冒険者ランク;F
クラス;人形遣い
レベル;Ⅰ
命題;魔力量が上昇するが、人形を自らゲットしなくてはならない
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☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「ここが、ボスの間か」
【人形遣い】である勇人は、ダンジョンを潜り、ボスの間の前まで辿り着いていた。
Fランクダンジョンとは言え、人形を召喚できない吉田勇人にはここまで来るのは大変だった。
ただでさえ、はずれ職業と言われている【人形遣い】なのにも関わらず、人形を自らゲットしなくては出せないなどという、謎の制約があるからだ。
そもそも、人形を自らゲットするとは、どういう意味なのかも、勇人には分かっていなかった。
人形とは【人形遣い】がこの世界へと呼び出す武器であり、命を持たない召喚獣のようなモノである。
そこまでは分かるのだが、それを自らゲットしなくてはならないとはどういう意味なのかが、勇人には分からない。
人気MyTuberとして有名なマイマインさんに、ダイレクトメッセージにて直接質問を送ったが、返ってきた答えは「分からない」であった。
一度、他の【人形遣い】の人に、人形を呼んでもらって、それに自身の魔力を通して操れるか試したことがある。
ダンジョンにあった死体を、「命を持たない人形」と自分で定義して、それも試したこともある。
しかしながら、どうやらどちらもダメらしいという事しか分からなかった。
勇人が頭の中で思い浮かべたのは、かの有名なモンスター育成ゲームであった。
あの作品では、他人が持っているモンスターは捕まえる事が出来ず、捕まえるには野良のモンスターでなければならないというような、そういう縛りがあった。
つまりは、神はこう言いたいのだ。
ダンジョンに出てくる魔物でも、他人が召喚した人形でもない、野良の人形をゲットせよ、と。
「いや、意味が分からないんだけどね。なんだよ、野良の人形って。
どこに行けば、そいつは出てくるか教えて欲しいくらいだよ」
結局、意味が分からないという事しか、分からなかった。
こうなれば、勇人も
必ずや、冒険者として成功してみせると、そう心に誓った。
冒険者という将来を選んだ自分に対して、神様が「この命題縛りで戦えんのww」みたいな煽りを受けたような気がして、ここで引いては男ではないと、人間舐めんなよという所を見せつけたかったのである。
それを今から、勇人はこのボス相手に見せつけようとしていた。
「では、行くとするか」
そうして、勇人はボスの間へと入って行った。
ボスの間へと入ると共に、勇人の身体が動かなくなった。
泉の前の大きな切り株に座っていた、足のない木こりの幽霊がゆっくりと立ち上がる。
そして、おもむろに大木に斧を振るうが、斧は幽霊の手をすり抜けて、泉へと落ちていた。
泉に落ちた斧はそのまま沈んで行き、その代わりに泉の中から金色の斧と銀色の斧、2本の斧が幽霊の手へと戻って来ていた。
===== ===== =====
【木こりの
ダンジョンに取り込まれて死んだ木こりが、その理不尽を呪って生まれ変わった姿
その身に抱える恨みや妬みは、まだ生ある者に向けられており、自慢の2本の斧で襲い掛かる
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これが、このダンジョンのボスである【木こりの幽霊】。
金色の斧はこちらが逃げようとも確実に当たる必中の斧、そして銀色の斧はどんな攻撃でも防ぐ鉄壁の斧。
最強の矛代わりの斧と、最強の盾代わりの斧を使いこなす、ボスとして相応しい実力を持つ魔物である。
「《グォォォ……! オノォ……オノォ……!》」
風の噂によると、このボス魔物は、勇人と同じ、レベルⅠの【人形遣い】が、たった1人で倒したんだそうだ。
同じ【人形遣い】がたった1人で倒せた魔物を同じように倒せなければ、これから先、冒険者としてやっていけるだなんて言えない。
勇人はそう思い、このダンジョンのボス魔物に挑みに来たのである。
「----あぁ、強そうだ。実に強そうな、ボス魔物じゃないか」
しかし、勇人も無策で挑みに来たわけではなかった。
「《グォォォ……!》」
「喰らえっ、この俺の【魔力操作】を!」
勇人は、【魔力操作】のスキルを発動した。
【人形遣い】は人形に自身の魔力で糸を作って、それと人形を繋ぎ合わせて戦う職業だ。
残念ながら、人形はないため、勇人が出せるのは糸だけ。
武器にもなれない、ただの糸だ。
しかしながら、糸ではあるが、これは魔力で生み出した糸であり、その性質に【絶対に千切れない】という性質がある。
どんなに鋭い剣でも、この魔力で出来た糸を切ることは出来ない。
最も、相手に当てても、ふにゃふにゃの糸なので、武器にすることは出来ないのだが。
そして、そんな糸に勇人は水属性の魔力を纏わせた。
水属性の魔力を与えて、命題譲りの人よりも多い魔力で、一瞬だけ硬くしたのだ。
ウォーターカッター、つまりは鋭い水の刃。
自動車の部品の切断にも使われる、水で生み出された鋭利な刃は、【木こりの幽霊】を一瞬で切断していた。
「どうだ、これが頭を使う戦い方って奴ですよ」
神様にどうだ参ったかと言いたくなる、勇人であった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
しばらくは、このウォーターカッター戦法を用いよう。
人形が出せない分、魔力には余裕がある勇人は、とりあえずこれを主軸として戦おうと決めた。
「まぁ、最も【魔法使い】でも出来るし、彼らの方がもっとスマートに出来るけどな」
結局、【人形遣い】なのに人形が出せないという欠点がデカすぎると思っていた勇人であったが、ドロップアイテム確認画面を見て、止まっていた。
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Fランクダンジョン《木こりが暮らす水辺》のボス魔物を倒しました
確定ドロップとして、魔石(小)がドロップします
また、初回討伐特典として以下の物の中から、1つを選んで取得できます
命題効果により 野良人形を 候補に 変更します
なお、2回目以降は 討伐特典は発生いたしません
1)【人形:エルフ】……自然系・精霊族であるエルフをモチーフにした人形。森の中に住まう、弓や魔法を得意とする種族。人に良く似た姿ではあるが、実際は樹木の一種。成長が異常に速く、1年ほど成人へと変質し、その後は死ぬまで老いる事はないとされる
保有スキル;【弓の使い手】・【自然魔法】・【接ぎ木の生命】・【レベルアップ召喚】
2)【人形:女王蜂ダンスニードル・クイーン】……自然系・鳥獣族である女王蜂ダンスニードル・クイーンをモチーフにした人形。踊りと歌を愛する、蜂型種族の女王。かの女王蜂が保有する歌謡蜂ダンスニードルの針で刺された者は、三日三晩踊り続けて死ぬと言われている
保有スキル;【歌唱魔法】・【産卵】・【毒合成】・【レベルアップ可能】
3)【人形:いろぬけアニマル】……自然系・邪霊族であるいろぬけアニマルをモチーフにした人形。白というよりも、色が抜けてしまって力を失った動物型の人形。魔力を与える事で自身の身体を好きな色に塗り替え、塗り替えられた色によって力が変わる
保有スキル;【脱色/着色】・【野獣パワー】・【生死がない身体】・【レベルアップ可能】
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「なんだ、これは……?」
勇人はドロップアイテム候補を、というかドロップ人形の候補を見て、驚いていた。
野良の人形が手に入るだけでも驚きなのに、全員が持つ特定のスキルがどうしても目に入ってしまうのである。
----【レベルアップ可能】。
それはつまり、彼の人形はレベルアップすると言うのだ。
これはとある、【人形遣い】の物語。
ダンジョンを攻略することで、どんどん新しい人形を入手することになる、【人形遣い】の吉田勇人の物語。
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【吉田 勇人】
冒険者ランク;F
クラス;人形遣い
レベル;Ⅰ
命題;魔力量が上昇するが、人形を自らゲットしなくてはならない
戦闘方法;普通に人形を召喚しても召喚できないため、その人形が生息する環境のもの----海水やマグマ、突風などを召喚の扉から、相手へ直接流し込む方法
備考;ある意味、冴島渉以上にキツイ制約を課された【人形遣い】の中学1年生。ダンジョン攻略すると、初回討伐特典として人形をゲットできるため、ダンジョン攻略にのめり込む。ただし、ゲットした人形は破壊されると、復元できないらしい
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