第167話 暴走文明(2)

 一撃ワンパンであった。


 佐鳥愛理が乗った堕落戦車サンダーイRを、千山鯉の攻撃で一発で、倒したのである。

 戦車という強大なる武器を、千山鯉はたった1回の攻撃で、倒したのである。


「《ぎょぎょ!! 主様に手、出させない!》」


 そういう千山鯉の姿は、変化を見せていた。


 頭には黒い海賊帽子を被り、そして背中の黒いマントは、海賊旗のように髑髏どくろの紋様が浮かんでいた。

 そして、手には海賊銃と、湾曲した刃を持つカットラスを持っていた。


 ----海賊姿、そんな姿へと変化した千山鯉は銃を戦車へと向けていた。


「《ぎょぎょぉ~! 海賊フォーム、見事に決まりましたぎょ!

 主様、一撃だったぎょよ? 褒めて、褒めてぇ!》」

「あぁ! よくやったぞ、流石は千山鯉! うちのエース召喚獣だな!」


 既に冴島渉と千山鯉の2人は、勝負は終わったと思っているらしい。

 慌てて助けに入ろうと、アイドルレッスンで砂浜を走っていたマルガリータも駆けつけていたが、拍子抜けしてしまうくらいいに呆気なく終わっていた。


「むぅ~! 可愛いボクの出番がなくて、本当に残念だよ! ぷんぷんっ!」


 


「これで勝ったと、思ってるんですか? 私の計画の、邪魔者共」


 バンっと、キャタピラ部分が扉のように開かれて、中から少女が現れていた。

 そうして現れた佐鳥愛理は、唇を強く噛みしめて、巨大な大剣を豪快に振るう。


「憎らしい! 忌々しい忌々しい忌々しい、めちゃくちゃ忌々しいっ!! "マスター"に可哀そうだと慰められるあなたが心底、本当に疎ましく、忌々しい!

 あなた達が居るからこそ、蘇った"マスター"に構ってもらえない! 遊んでもらえない! いっぱい喋ってもらえてない!」



 佐鳥愛理にとって、世界は"マスター"である赤坂帆波で回っている。

 "マスター"の命令は絶対であり、"マスター"が喜ぶことをすることが、彼女の生き甲斐である。


 ----"マスター"の指示は、雪ん子達を無事、冴島渉の召喚獣という元の立ち位置ポジションへと戻すこと。

 その件が片付くまで、"マスター"の赤坂帆波は彼女と距離を取っていた。

 "マスター"である赤坂帆波からしてみれば、自分が構えば、作業に集中できないからという理由で、集中させるために彼女と距離を取っているのだが、佐鳥愛理からしたらそれは拷問でしかなかった。


 冴島渉がいるせいで、"マスター"が自分から距離を取ってしまう。

 佐鳥愛理はそう考えていた。


 だから、佐鳥愛理はその鬱憤うっぷんを晴らすために、冴島渉に戦いを持ちかけた。

 精々、少しは痛い目を見てもらおうと、その程度の気持ちであった。

 しかし、その程度で済むはずの気持ちは、彼女のとっておきの戦車----堕落戦車サンダーイRの破壊によって、ついえてしまったのである。


「("マスター"に後で怒られることになっても、構いはしません。叱られる事になろうと、"マスター"が死んで何もしてくれなかった時よりもマシですから)」


 佐鳥愛理は、決心した。

 もう怒られても良いから、この召喚獣を始末してしまおう、と。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



「その職業ジョブ、恐らくはダブルエムに預けておいた【世界球体】の1つ、【魔法少女】ですね」


 佐鳥愛理は怒りながらも、冷静に相手の職業を見抜いていた。



 ===== ===== =====

 【魔法少女】 マナ系統職業

 《マナ》を扱う職業の中でも、異色を放つ職業の1つ。自身の心のときめきやドキドキを魔力に変え、無限に魔法を扱うことが出来るようになる。また、コスチュームを変更することにより、多彩な攻撃方法も可能とする

 心のときめき、力に換えよ♪ 愛の心を魔力に換えて、大きな力で敵をずきゅんっ♡ 愛する力が消えない限り、魔法は不滅、パワー全開☆

 ===== ===== =====



 本来、冒険者に与えられる職業ジョブは、ダンジョン内にある魔力を基にして発動される。

 その魔力をダンジョンの外でも、取り込めるようになるスキルこそ、雪ん子やファイントなどが持つスキル【独断専行】。

 そして、そんな魔力を自分自身の感情と交換して、無限に増やせる職業こそ、この【魔法少女】なのである。


「【魔法使い】や【風水師】など、遠距離を得意とした後衛の職業ジョブが多い《マナ》系統の職業の中でも、近距離も出来る万能職業。それが【魔法少女】という職業。

 ……なるほど。確かに雪ん子という召喚獣の代役に、一番相応しい職業ですね」


 【魔法少女】はときめきやドキドキを魔力に変える性質上、精神が非常に弱くなる。

 具体的には、めちゃくちゃチョロくなる。

 ちょっとした程度の誉め言葉で心がときめき、ほんの少しの行動でもドキドキする。


 【召喚士】である冴島渉にメロメロだった雪ん子の代役、そんな千山鯉に与える職業として、これ以上に相応しい職業はないであろう。


「----なるほど、なるほど。私と同じ・・・・、《マナ》系統の職業ですか」


 そうやって、どう攻撃するかを考える佐鳥愛理。



「『愛する、ときめきドキドキ・ハッピー』!」



 そんな隙を逃す、マルガリータではなかった。


 悪癖龍マルガリータは、固有スキルである【悪癖音波】を用い、佐鳥愛理へと放つ。

 音が具体的な形となって、佐鳥愛理に向かって来る。


「----今、良い所なんです。邪魔しないでください」


 しかし、彼女の音攻撃は佐鳥愛理を捉える事はなかった。

 音攻撃は、何故か佐鳥愛理に当たらずに、そのまま後ろの地面にぶつかっているのである。


「----?! 可愛いボクの攻撃が、外れた?!」

「まずは、あなたから対処しましょう」


 すっと、佐鳥愛理が左腕を横に伸ばすと、彼女の左腕が真っ黒に染まっていく。

 染まっていくというよりかは、黒いモノに包まれて行くという印象だろうか。

 

「----職業スキル【黒化編成:左腕→ワイヤー】」


 そして生み出されたのは、黒いワイヤーガン。

 左腕の腕の感じは消え、ワイヤーを射出する銃へと変貌を遂げていた。


 そして、ワイヤーガンとなった左腕を前へと向け、ワイヤーを発射する。

 その射出先は、マルガリータの喉元。


「可愛いボクの喉を狙う気ですね! 狙いが分かってる以上、簡単に対処させてもらいます!

 たった今手に入れたスキル! 【アイドル杖術】、発動!」


 マルガリータが杖を振るう度に、その軌跡に星のような輝きが生まれる。

 そんな煌めく杖を扱う武術は、喉元を狙う佐鳥愛理のワイヤーを防いでいた。


「----?!」


 しかし、それは一瞬で、ワイヤーは杖をすり抜け、マルガリータの喉元にぶつかり。


 ----そのまま、肌をすり抜けて、中へと入って行く。


「ワイヤーが、可愛いボクの身体の中に?!」


 ワイヤーはそのまま喉へ、喉の声帯へと向かっていた。


「----職業スキル【急所必中】!」


 そして佐鳥愛理のワイヤーは、マルガリータの喉にある声帯をぶっ潰したのであった。




(※)【アイドル杖術】

 マルガリータが、海岸でアイドル特訓をしてる際に会得したスキル。既にあった【杖術】と併合して生まれた、強力な上位スキル

 杖を扱う際に補正効果がかかるだけでなく、アイドルのように煌めきや輝きのエフェクトがつき、微量の【魅了】効果を与える

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