第166話 暴走文明(1)
----佐鳥愛理は激怒した。
必ず、かの
佐鳥愛理は今、"マスター"の元を離れて、冴島渉なる冒険者のために、その力を注いでいる。
というか、ぶっちゃけ"マスター"の指示でなければ、全然やりたくない仕事である。
佐鳥愛理は"マスター"のために生き、"マスター"のために戦う、"マスター"第一主義の女である。
だからこそ、そんな大切な"マスター"が再び蘇って、再び"マスター"に構ってもらえるようになった佐鳥愛理にとって、
"マスター"の指示だという事は頭では理解しているが、どうしても気乗りがしないのだ。
「なにが、【召喚獣を完全に消滅させる方法】ですか。まったくもう。
----そんなの、"とっくの昔に完成してる"っつーの」
そう、実はその方法は既に完成していた。
以前に、佐鳥愛理は【召喚士】冴島渉と接触したことがある。
彼が所有している召喚獣のうちの1体、【妖狐】の力を得た吸血鬼ココア・ガールハント・ヒアリング3世を、というか【妖狐世界】を回収するために接触したのだが、彼はココアを渡さなかった。
その後、色々とあって【妖狐世界】の回収は諦める事にしたんだけれども、対処方法だけは考えておいた。
いつか、【妖狐世界】を回収する機会があった時に、召喚獣を倒せないでは困るので、倒す方法だけは用意したのである。
その方法をちょちょいっと改造した結果、僅か3日ほどで、"マスター"の求めている物が出来た。
千山鯉達という新召喚獣達を完璧に消し去り、雪ん子達という旧召喚獣達との絆を繋ぎ直す装置。
問題があるとすれば、これをいつ、"マスター"に報告するかである。
「流石に3日で完成したという報告は早すぎると思いましたが、だったらいつ報告すれば……そもそも、完成しているのに、"マスター"に報告してないってのもどうなんだろうか?!」
考えれば、考えるほど、悪い方向にばかり佐鳥愛理の思考が巡っていく。
最初に"マスター"に完成したことを報告していれば、こんな事で悩まなくても良かったのにと思う一方で、時間を巻き戻すなんて出来やしないとガックリと項垂れる。
そもそも時間を巻き戻したダブルエム……の身体を奪ったシルガなる魔王のせいで、こんなややこしい事態になっているのである。
最初から時間を巻き戻せたならば、"マスター"を取り戻すなんて考えもなかったはずだ。
「----ええぃ! こうなったら、八つ当たりですよ!」
佐鳥愛理は、決意した。
必ず、とりあえずの目的として冴島渉に痛い目を見せよう、と。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
Cランクダンジョン《フラスコ内の理想郷》。
魔物も居ないダンジョンで、優雅にバカンスを楽しんでいた冴島渉達の前に、八つ当たりを決めた佐鳥愛理が現れた。
「なっ、何だあれ?!」
「《ぎょぎょ?! 戦車?》
千山鯉の言う通り、現れたのは佐鳥愛理----が乗る戦車である。
10mはあろうかという巨大な赤い戦車の装甲には、【文明】という文字が刻み込まれており、その主砲は冴島渉達一行に向いていた。
===== ===== =====
【堕落戦車サンダーイR】
【三大堕落】の総力を結集して作り上げた堕落戦車サンダーイを、佐鳥愛理の手によって新しく作り直された、超最新鋭の戦車。赤く塗り直したのは、佐鳥愛理曰く通常の3倍の性能を持つ証との事
佐鳥愛理が選出した、3匹の最強生物の力を集約して機構として組み込まれている。その組み込まれた生物のコンボにより、敵を的確にぶち殺せる、戦いのための車両である
===== ===== =====
『人が必死で対策を考えてる中、バカンスだなんて……!!
やっぱり、痛い目を見ないと、分からないみたいですね!!』
戦車の中から、プルプルと震えるような佐鳥愛理の声が聞こえてくる。
震えてるというか、怒っているといった感じの声である。
『その鯉のような召喚獣共々、この私によって最強に調整された戦車の力で葬って差し上げましょう!』
戦車の中からスイッチを押すような音が聞こえたかと思うと、赤い戦車の姿形が変わっていく。
戦車がゆっくりと浮かび上がり、鷹を思わせる大きな赤い翼が生え。
さらには装甲の部分からは虎を思わせる大きな爪を生やした腕が4本、そしてキャタピラの下からバッタを思わせる緑色の脚が6本生えていた。
『----我が最強の戦車、堕落戦車サンダーイRのパワー! とくとご覧あれ!!』
戦車はグググっと地面と下りて行き、バッタのような長い脚が折りたたまれていく。
そして折りたたまれた長い脚で地面を蹴って、弾丸のように飛んでいく。
クルクルときりもみ回転を加えながら、虎のような爪を振るう。
『堕落戦車サンダーイRに搭載された、最強の3匹の生物! バッタの強靭な脚力、虎の屈強たる腕と爪、そして鷹の天才的なる視力!
このサンダーイRで、私の悩みごと、召喚獣を一掃ですっ!!』
そして、そんな最強たる戦車は、千山鯉によって一撃にて、ぶっ壊されるのであった。
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