第143話(真実編) 因縁(3)
元々、"マスター"が私と共に外出した理由は、私に説教するためなんかではなく。
この世界に帰ってくるという勇者さんを迎えるために、外出することにしたんだそうだ。
「まぁ、帰って来る勇者さんが物騒すぎた場合、攻撃を受け止める役としてもダブルエムは良いからね」
「え? これから私、肉壁? #盾扱い されんの?」
「アハハ、冗談! じょうだぁ~ん!」
"マスター"の言葉は冗談に聞こえないから、本当に困るんだけど。
----まぁ、"マスター"に命令されたら普通にやるし、【不老不死】担当として【テセウスの船】という、物体があれば無限に復活するスキルはありますし、【三大堕落】で私以上に肉壁として相応しいのはいないでしょう。いや、いるはずがない。
「でも、"マスター"? どうしてその、勇者さん? とやらを #お出迎え するんです?」
「いやぁ、だって普通はそうでしょう? 勇者として異世界帰りって事は、この世界で暮らしていない時間があった、って事でしょ? そういう元勇者ってのは、色々と世間的に厳しかったりするんだよ。
なにせ、居ない時間があるから学歴が中退に終わってたり、あるいは居ない時期があるせいで仕事の雇用に問題が出たりね?」
まるで、自分自身の事を話しているかのような、そんな経験から"マスター"は語っているかのように見えた。
"マスター"も元勇者だったから、そういう事態になるかもしれないと知っているからこそ、元勇者の先輩として助けたいと思っているんだそうだ。
「まぁ、もし仮にいい人物だったら、私抜きにしても仲良くしなさいよね?」
「え? まぁ、そうですね……その時は……」
と、私はぐるりと辺りを見渡す。
すると、【美味しいスイカが入荷しました!】【夕張メロン、ギフトにいかがでしょうか?】と、スーパーのノボリが見えたので、思わずこう言った。
「----夕張萃香、とでも名乗って、優しく接しようかと」
その時である。
"マスター"の身体に、亀裂が走っていた。
石に傷が入る時のように、"マスター"の身体に亀裂が生まれて、そして----
【三大堕落】の"マスター"、赤坂帆波は
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「次元の亀裂って奴ですよ」と、
「#地割れ みたいに、世界全体を襲った亀裂。我々の次元に生じた、亀裂。"マスター"は運悪く、その#亀裂 に巻き込まれて、身体をバラバラにして、殺された。
私はすぐさま、"マスター"を蘇生しようと思いました。私のスキル【テセウスの船】のスキルを使えば、どんなに深い傷であっても、なくなったのと同じ分だけの物体さえあれば治せるので」
確かに【テセウスの船】は倫理道徳的な概念を無視すれば、最強の回復スキルである。
なにせ、なくなった身体と同じだけの量の物品を用意するだけで、どんなに深い傷だろうと治せるというスキルなのだから。
「----でも、治せませんでした」
残念そうに、萃香はそう告げた。
「"マスター"は次元の亀裂に巻き込まれ、その身体の各部分を別次元の彼方へと弾き飛ばされました。そして、世界は亀裂の存在を#
世界の自浄作用----って奴ですかね? 血が出てもすぐ#かさぶた が出来て止まるように、世界が壊れると勝手に治る力が働くという感じで。
亀裂によって壊れたモノはそのままに。初めからそうであったと、定義されまして----すなわち、"マスター"は、初めからあの状態であった、と」
「【テセウスの船】で直せない状況にされた、って訳か」
【テセウスの船】は強力な回復スキルではあるが、あくまでも破損や傷を元の状態にまで持って行くというスキルである。
完全な状態で物を引っ付けてもスキルは発動せず、よって亀裂によって殺され、その後に亀裂をなかったことにする世界の自浄作用によって、"マスター"は永遠に死んだままにされた。
蘇生も出来ない、ただの肉の塊に。
「そして、その亀裂を引き起こしたのが----あなたです、#空海大地」
彼女はビシッと、俺を、空海大地を指差す。
「あなたは、この世界に帰ってきた。そう、地球という名の船に、あなたは別世界から四大力を全部、最上級にまで高めた状態で、帰ってきた。
あなたの存在は、この次元と比べると、あまりにも
「そうか! あの時の佐鳥愛理の!」
俺はその時、北海道にて佐鳥愛理に【世界球体】に閉じ込められた時の出来事を思い返していた。
【世界球体】に閉じ込められてたはずなのに、何故かいきなり壊れて脱出できたのを見て、佐鳥愛理は笑っていた。
あの笑いは「やはりお前こそが、お前が重すぎたから次元が割れたのだ!」という意味での、確信を得たからこその、笑いだったのか……!
「【世界球体】に閉じ込められもしないくらい、存在が強すぎる人間。そんなあなたが、帰ってきたことで、この世界は耐えられずに、亀裂が生じた。脆くなった床に、重い人がジャンプして落ちてきた際に、壊れて亀裂が生じる時のように」
そして、その亀裂が、"マスター"を殺した。
萃香はそう、俺に告げるのであった。
「あなたの意図でないことも、あなたがわざとやったことでないことも、分かっています。あなたはただ単にこの世界に帰ってきただけで、この世界があなたという力を受け止めるにはあまりにも弱すぎた。そして、帰って来る際も、この世界に早く帰ろうとして、スピードがあったこともダメだった。
強力すぎる空海大地という存在、そしてこの世界に戻ろうとする時のスピード。それに耐えきれなかったこの世界----どれかがもう少しだけ良かったら、このような事態にはならなかったのかもしれません」
「でも、実際にもうそれは起こった」と、萃香が告げると、突然、店に居た人達が全員、立ち上がって、手を真っすぐに直立する。
ラーメンを食べていたお客さんも、テーブルを拭いていた従業員も、そして奥でラーメンを作っている店主も、全員が直立の状態で、俺の方を見ていた。
全員が同じタイミングで手を動かして、顔に手をかける。
----ベリベリベリッ!!
なにかを剥がす時の音が聞こえたかと思ったら、それは彼らが自分の顔の皮を剝いでいる時の音だった。
スパイ映画とかで良く見る、変装道具である変装用の顔マスクを外す時のように。
「「「「お前は帰って来るべきではなかった」」」」
そうして顔マスクを剥がして出てきたのは、全員同じ顔。
復讐心に燃える【三大堕落】の1人、佐鳥愛理の顔だった。
お客も、店員も、全員が佐鳥愛理の顔で、憎しみと共に俺を睨みつけている。
「「「「"マスター"を殺した野郎は始末する」」」」
「「「「お前さえいなければ」」」」
「「「「お前さえ帰って来なければ」」」」
「「「「永遠に、幸せに暮らしてたのに!!!!」」」」
そうして、大量の佐鳥愛理は刃物を持って襲い掛かって来た。
「後は、あなたにお任せしますよ。佐鳥愛理、私達【三大堕落】の中で最も彼に復讐心を抱く者。
----さーて、私はそろそろ日野シティーミティーちゃんの所に向かいませんとね。彼女に用がありますし」
大量の佐鳥愛理軍団の攻撃の最中、ダブルエムはこっそり店から抜け出していた。
後は佐鳥愛理に任せておけば良い、そう思って。
ダブルエムは急ぎ、日野シティーミティーの所へ向かうのであった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ダブルエムは急いでダンジョンに向かうために、身体の一部を変質させる事にした。
彼女の職業の【工場】を用いれば、自分の身体を変化させることなど容易だったからだ。
そして、ダブルエムは背中に、飛行能力に優れたハヤブサの翼を生やす。
まるで天使のような姿に、背中に翼を生やしたダブルエムはそのまま飛んで向かおうとして----
「【魔剣召還】!」
その背中を、佐鳥愛理が召喚した魔剣によって切り裂かれたのである。
「#あ~れ~」
背中の翼を斬られ、ダブルエムは地面へと落下する。
しかしながら、不老不死である彼女にとっては、さほど問題ではなかったらしく、すぐさまサッと立ち上がっていた。
彼女の背中を斬った魔剣は、その召喚主である佐鳥愛理の元へ駆け寄っていた。
そう、大量に居た佐鳥愛理の分身の1人が、ダブルエムに攻撃を仕掛けていたのである。
「……ダブルエム。あんたに話したいことが、1つだけある。
でも、あなたの今の行動から、確信に変わった」
佐鳥愛理は大量に魔剣を呼び出して、佐鳥愛理に突き付けていたのである。
「うちらは、仲良しこよしという訳ではありません。ただ、"マスター"である赤坂帆波様を崇める集団。"マスター"のために、行動するのが我々【三大堕落】。
そんな我らは、自分の攻撃も、"マスター"の好きな物に影響を及ぼされている」
例えば、佐鳥愛理が「〇〇三大」系統の技を使うのは、"マスター"がそういうトップ3の並びが好きだったから。
例えば、シーヴィーが【
例えば、【青春】担当の日野シティーミティーの髪が青いのも、【"青"春】を担当しているから。
「私達は、"マスター"のために戦う。それこそが【三大堕落】。だから、あなたのその行動は可笑しい。
「様々な動物の
ダブルエム。あなたにそんな、動物の部分を身体につけるという技を生み出すはずがないっ!!」
「お前は何者だ!」と、佐鳥愛理は言い切り。
「さぁ、教えないね。でもまぁ、ダブルエムでないことは確かだよ。
----邪魔されると面倒だ、とっとと殺してしまおうか」
ダブルエムは、今まで見た事のないような殺意に満ちた目で、佐鳥愛理の始末を開始するのであった。
(※)空海大地による世界破壊事件
【
あまりにも強すぎるその力は、この世界へと帰還する際に、次元の亀裂を生み出した
世界は壊されるも、自浄作用で世界はゆっくりと元に戻る。その際の亀裂があった場所にダンジョンが入り込む。亀裂によって消された物や人間は、そのまま消された状態にて再構築されるのであった
----その犠牲となった人物の1人、それが【三大堕落】の主、赤坂帆波である
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