第54話(閑話) 佐鳥愛理はパンクがお好き(2)

 空海大地は、昔から正義感溢れる少年であった。


 昔から悪人顔だとして、警察にマークされるほどの少年。

 しかしながら、その分、人の気持ちに寄り添い、自ら進んで他人に優しく出来る、心優しい少年であった。


 そうでなければ、小学生を救うために、トラックに突っ込みはしなかっただろう。


 彼は中学卒業したその日に、小学生の女の子がトラックに轢かれそうになる現場を目撃する。

 トラックの運転手は居眠りをしていたらしく、女の子も気付いている様子はなかった。


 彼女を助ければ自分は死ぬだろうと言う状況で、空海大地は躊躇することなく小学生の命を救うために、彼女を強引に引っ張って移動させ----。


 そして、空海大地はそのまま死んだ。


 その行為が尊かったからか、大地は女神に賞賛され、勇者としてのチート的な能力を授かり、今度は天空世界テンクウパンクを救うために転生した。

 その世界を滅ぼそうと企む魔王ベルゼビュートから、天空世界を救うために。



 天空世界は、空中にいくつもの島が浮かんでいる、浮島の世界。

 島と島との間には飛行船にて行き来するしかなく、人々は身近にいる人達よりも、遥か上の空を夢見続けていた。

 それぞれの島同士の連帯感は非常に弱く、自分達のいる島を抜けて上にある島に行くことが幸福になると思い込んでいた。

 それが故に魔王ベルゼビュートに支配されかかっている危険な世界だった。


 空海大地は、女神から貰った【絶対に折れない刀】と、空ばかり見ているせいで人々の心から忘れられていた【大地の力】。

 そして、こんな島同士の連帯感が弱い天空世界で、絆を信じてくれた、多くの仲間の力。


 それらの力によって、魔王ベルゼビュートを倒して、この地球へと2年前に帰ってきた。

 彼は天空世界で得た力と技術を用いて、冒険者として活動し始めた。

 魔王を倒した救世主様にとっては、ダンジョン探索など余裕しかなく、そこで魔物を倒したり、アイテムを取って来たりして、稼ぎまくっていた。


 そして、同じように冒険者として活動する者達のために、動画を撮り始めた。

 『手強い魔物の倒し方』から、『この職業ジョブになってしまったら、どういう戦い方をすべきなのか』、それに『美味しい魔物の食べ方』や『ダンジョンごとの特徴』などなど。

 冒険者として活動するのに必要な情報を動画として配信し始める、MyTuberことマイマインの誕生である。


 マイマインとしての活動は好評で、法人化することで、多くの金が大地へと流れ始めた。

 そうやって活動する中、冒険者として一緒に冒険する仲間も増え始めて、今では10人以上の大所帯になってしまっている。


 全てが順調の中、1つの事件が起きた。

 仲間の1人、夕張萃香ゆうばりすいかが幽鬼によって、殺されたのだ。


 大地はそれに激怒し、色々な伝手を頼って、遂にこの目的の人物の元へと辿り着いたのである。

 人間を幽鬼へと変えるルトナウムを作った冒険者、佐鳥愛理の所へ。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



「行くぞ、【ファイアーランス】!」


 俺様、空海大地がまず放ったのは、魔法の1つである【ファイアーランス】。

 炎を槍の様にして放つこの魔法を、一度に10発。

 それを一気に、佐鳥愛理へと放ったのである。


「なんのっ! 【魔剣召還】!」


 その炎の槍の魔法攻撃に対して、佐鳥愛理が放ったのは魔剣の召喚。

 特別な力を込められた魔法の宿った剣、魔剣----それを複数召喚して、大地の放った【ファイアーランス】を撃ち落としていく。


「(なるほど、レベルアップしない召喚獣の対策として、魔剣を召喚獣として登録して放つのか。確か、【召喚士】がレベルⅢ辺りで覚えるスキルだったか)」


 【召喚士】が扱う召喚獣はレベルアップしない。

 しかしながら、【召喚士】はレベルⅢまでレベルアップできると、【召喚登録】というスキルを会得する。


 【召喚登録】は、魔力によって印を付けて、召喚獣として召喚できるようにするスキルだ。

 相手が強い魔物であればあるほど、抵抗して登録に必要な魔力は多くなるため、使えそうなボス1体を登録するのがやっとのスキル。

 だが、相手が魔剣であれば、魔剣自体は生きていないので、【召喚登録】に魔力はさほど使わず、なおかつより強い魔剣を作れば召喚獣を使うよりも安上がりで、ダンジョン攻略も安定的だ。


「(1本1本は、俺様の世界での伝説級の名剣に近いな。【ファイアーランス】程度ならば、易々と相手出来るだろうな)」


 俺様は【ファイアーランス】を放ちつつ、オーラで身体能力を強化すると、そのまま剣を振るいながら向かって行く。


「~~~! 【聖盾召喚】!」


 一瞬、驚いたような顔をして見せたと思ったが、すぐに佐鳥愛理は次の行動に移っていた。

 佐鳥愛理が次に召喚したのは大きな盾、相手の攻撃を全て防ぐとでも言わんばかりに強大なオーラを放っている。


「【身体能力強化】のオーラ! それに、【魔剣スラッシュブレード】!」


 それに対し、俺様は全身に身体能力を上げるために《オーラ》の力で、全身を強化する。

 さらに手に持つ名剣、俺様がチート能力として貰った【絶対に折れない刀】に、斬撃の特性を《スピリット》の力で付与する。


 《オーラ》による怪力、そして《スピリット》によって高められた斬撃性。

 2つが合わさることにより、佐鳥愛理の召喚した盾は、まるで豆腐の様に容易く斬り落とされた。


「身体能力強化の《オーラ》、魔法を扱うための《マナ》、そして斬撃特性を与えた《スピリット》……」

「披露こそしてないが、《プラーナ》による体力回復で、3日3晩だって戦えるぜ?」


 そう、これが俺様、空海大地の能力。

 天空世界では人々は空に想いを馳せすぎたせいで、身近にいる人達の絆が疎かになっていた。

 そんな中、俺様はただ宙に浮かぶだけだった浮島を探索し、人々が忘れかけていた大地の力を見つけ出した。


 そうやって、全ての浮島----いや、大地から力を手に入れた俺は、《オーラ》、《マナ》、《スピリット》、そして《プラーナ》の四大力を全て備えた【真の勇者】になる事が出来たのだ。


「俺様は全ての四大力を、それこそ世界を滅ぼそうとする魔王と戦えるレベルまで備えている。一方、そちらさんはどうやら召喚だけ……《マナ》系統の【召喚士】といったところか」


 《マナ》系統は、【魔法使い】などを初めとした魔法を扱うための四大力の1つ。

 遠距離戦に優れているが、近距離戦にはめっぽう弱いはず。


「お前がどれだけ逃げようが、俺様ならすぐに追いつける。だから、諦めろ!

 お前の目的が金ではない事は、調べがついている!」

「……!!」


 佐鳥愛理は、びっくりするほど低価格でルトナウムを売りさばいているという情報を得ている。

 それこそ、相手の方から100万から500万へと、高額になるよう交渉するくらいに。

 それに、さっきの独り言を聞くに、ルトナウムをダンジョンに取り込ませて、他の冒険者でも取れるようにしようとしている。


「金が目的なら、ルトナウムなんて夢のようなエネルギー物質は、自分だけが独占したいと思うはず! にもかかわらず、ルトナウムをダンジョンのドロップアイテムの1つとして出るようにばら撒いたり、ルトナウムの販売価格だって驚くほど安いと聞くぞ?!

 答えろ、お前の目的はなんだ!! 世界征服でもしようというのか!!」


 俺様がそう聞くと……佐鳥愛理は「ケラケラケラッ!」と笑い始める。


「な、なにがおかしい!!」

「おかしい? わたくしは自分のことは、ちゃーんと紹介しているはずですよ? 永遠の17歳で、好きな音楽はパンクミュージックだ、って?」

「それは、知っている!!」


 ----冒険者、佐鳥愛理さとりえりです! 永遠の17歳です!

 ----好きな音楽はパンクミュージック! 将来の夢は、農家の皆さんみたいに『このルトナウムは私が作りました』的な感じに写真付きのポップで、お店に飾られる事です!


 確か、そういう自己紹介をしているということは、俺様も情報で知っていた。


「だったら、わたくしの目的が金稼ぎである事も、知ってるはずですよね? なのに、目的はなにとか、おかしくて! ケラケラケラッ!」

「かっ、金を稼ぐのが目的なら安す----!!」

「安すぎ、ですかね?」


 と、佐鳥愛理は低く、冷たさすら覚えそうな口調でそう言う。


「ルトナウムってのは、無限のエネルギー物質であると同時に、有限のエネルギー物質でもある。あの液体がなんで無限のエネルギーを生むのかと言うと、ルトナウムは歯車ギア、だからですよ」

「----歯車ギア?」

「この世界とは別次元に、永遠にエネルギーが生まれ続ける世界----そうですねぇ、エネルギー世界パンクとでも言うべきでしょうか? そういう世界があり、ルトナウムはそのエネルギー世界のエネルギーをこちらに引き出す時に使う歯車……いや、蛇口とでも言うべきでしょうね」


 彼女はそう言って、話を続ける。


「今、わたくしが広めているルトナウムは、不純物が多い劣化品……およそ10年くらいが使用限界とでも言うべきでしょうか? 勿論、それはわたくしが精製した精製ルトナウムを用いて、レベルⅤ相当の力を得た軍人さん達も同じ。

 全てのルトナウムが役目を終えた時、人々は果たしてルトナウムがない暮らしに、耐えられるでしょうか?」

「……! その時に、高値で売るのが、お前の目的?!」

「正確には、10年保証品を100万で売った後、30年保証品を500万で売るような、そういう計画です。勿論、大企業がトップクラスの生産性を維持したいのなら、10年保証品でも10g1億円の品を買ってもらわないと、いけないでしょうなぁ?」


 「ルトナウム、ばんざーい!」と笑う佐鳥愛理を見て、俺様は納得していた。

 ようやく、このイカレタ女の計画が判明したということについて。


「(そうか、安値で売っていたのは、彼らに楽を覚えさせるため! 予め強力な力を与えておいて、それが無くなる恐怖を感じさせ、本命の品を高額で売りつける……!!

 まさに、麻薬を売る時の手口にそっくりじゃないか!)」


 顔に似合わず、清廉潔白を心掛けている俺様は、今すぐコイツを止めるべきだと判断した。


 ----俺様の全身全霊を持って、この佐鳥愛理を、ここで倒す!

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