第53話(閑話) 佐鳥愛理はパンクがお好き(1)

 ----聖霊型召喚獣ファイントによる、ダンジョン消滅。

 このダンジョンが消滅したということに、いち早く気付いたのは、佐鳥愛理という冒険者であった。


 佐鳥愛理、自称"永遠の17歳"。

 無限にエネルギーを生み出す物質ルトナウムの開発者であり、同時にダンジョンの外でもレベルⅤ並の冒険者としての実力を発揮する精製ルトナウムを各国政府に売ってバラまく女。


 彼女は今、とあるビルの屋上にテントを張って陣取っていた。

 魔力を結界に閉じ込め、疑似的なダンジョンのようにしてひっそりと潜伏しながら楽しく過ごしていた佐鳥愛理なのだが、そんな彼女はダンジョン消滅の風を感じ取り、落胆していた。


「ダンジョン、消えちゃってるねぇ……」


 佐鳥愛理としては、本当に残念なことだった。

 なにせ、明日にはそのダンジョンに、ルトナウムを"仕込む・・・"予定だったからだ。


 仕込むとは、ダンジョンのドロップアイテムの1つとしてルトナウムを出現させるということである。


 ダンジョンの魔物を倒すと、ドロップアイテムが出現する場合がある。

 ドロップアイテムが出現する場合と、しない場合にどういう違いがあるのか、学者ではない佐鳥愛理には解明する気がさらさらない出来事なのだが、1つだけ面白い事を知っていた。




 ----こんな話がある。


 とある冒険者カップルが、あるダンジョンで結婚式を行った。

 まぁ、水中で結婚式を挙げたり、ヘリの中で挙式した後に飛び降りたりなど、そういう人達に比べればダンジョンの中で結婚式を行うなんて、まだマシな部類なのだろう。

 参列者数十名と共に、ダンジョンの結婚式を楽しんでる中、事件は起きた。


 その結婚式を、大型の巨人型の魔物トロルがぶち壊したのだ。

 まぁ、ダンジョンで結婚式をしてるんだから、魔物が襲ってきても変じゃないんだけど。


 冒険者カップルはトロルを見事に倒したのだが、1つ問題が起きた。

 結婚指輪だ、トロルと戦っている最中に落としてしまったのだ。

 夫が必死に探そうとするが、妻の方は「ダンジョンで無くす自分達が悪い」と開き直っており、結局は結婚指輪を見つける事が出来ないまま、結婚式は終了した。


 その3日後、夫がそのダンジョンで魔物を倒していると、ドロップアイテムが出現した。

 なんとそれが、あの時見つけられなかった結婚指輪だったのだ。

 輪のサイズ、指輪に使っていた世界に1つだけの特殊な宝石、わざと付けたオリジナルたる証たる傷----どれもがこの指輪が本物だと、夫に見せつけるようであった。


 喜んで、同じくダンジョンに来ていた妻へと見せたのだが、妻は困惑していた。

 なんと妻も、結婚指輪をドロップアイテムとして獲得していたのだ。

 それも指輪の形状が全て一致した、瓜二つとしか言いようがない物を。




 この話の面白い所は、"ダンジョンで失くした物が、ドロップアイテムとして出現した"という所だ。

 つまり、ダンジョンで物を失くすと、それをダンジョンが取り込んで、魔物が出すドロップアイテムとして処理されるという事らしい。


 《東神話大陸》はめちゃくちゃ広すぎて、どの魔物のドロップアイテムになるかが分からなかったから、佐鳥愛理は壁に埋め込むというのを選んだわけだが。

 ルトナウムを最初に見つけるに相応しい神聖的な雰囲気を漂わせるダンジョンだから、《東神話大陸》を選んだわけなのだが、佐鳥愛理は失敗したと思っていた。


「(まぁ、ダンジョン選びは失敗だったけど、あの羽佐間武は後で幽鬼にするつもりだったから手間が省けて良かった)」


 佐鳥愛理の計画では、ルトナウムを市役所に提出した羽佐間武は、その足で次のダンジョンを攻略中に幽鬼に変えて、行方不明にするつもりだった。

 まさか、幽鬼となって制止も聞かずに暴れまわるとは、彼女の想定外である。


 佐鳥愛理は、羽佐間武だけではなく、もっと多くの冒険者をルトナウムを使って幽鬼に変えていた。

 全ては、こういう時に自分の代わりに動く道具が欲しかったのだ。


「(ルトナウムによって幽鬼へと変えられた人間は、魔物たる戦闘能力と、人間としてダンジョンに縛られずに移動できるという特権が与えられてるしね)」


 あとは【調教】系統のスキルで、自分の意のままに従う魔物へと変えるだけだ。

 これにより、楽にマンパワーが確保できた。


「ルトナウムには、ほーんと感謝してますよ。なにせ十数名もの冒険者を魔物へと完全に変化させて、わたくしの手駒にしてくれたんだから」


 後は、幽鬼と変化した冒険者を【調教】系統のスキルでコントロールし、ルトナウムをダンジョンに飲み込ませるだけだ。


「わたくしにしかルトナウムをちゃーんと精製できないんだし、まだわたくしの出番はあるでしょう。

 けれども、わたくし以外にもルトナウムを精製できる人員を徐々に増やせれば、直に作戦の第2段階を----」

「始められる、と?」


 ちゃきんっ、と、屋上の扉につけていた鍵が壊れ、落ちる音が聞こえてくる。

 そして、次の瞬間にはその扉は吹っ飛び、1人の少年が現れた。


 その少年は、実に暗そうな、悪役顔をして現れた。

 目つきは鋭く、眉間にはしわが寄っており、赤目の三白眼が特徴の、まさにザ・悪人といった顔つきの少年。

 しかしながら着ている服装は黒いフォーマルスーツとしっかりしており、なおかつ武器としては右手に銃、そして左手に剣という、ちょっと変わった装備をしていた。


「見つけたぞ、佐鳥愛理。いや、元勇者・・・のエリ・サトリ!」

「……銃口を向けないでくださいますか、不審者さん?」


 じとーっと、怪しげな変態を見るような目つきで悪役顔の少年を見る佐鳥愛理。

 それに対し、悪役顔の少年は大きな声で、威風堂々とした様子で語り始める。


「自己紹介がまだだったな! 我が名は空海大地そらうみだいち! 巷で噂の元勇者の冒険者支援系MyTuber、マイマインとは俺様の事だ!」


 ばばーんっ!


 なにかのショーと勘違いしているのか、彼が名乗ると同時に、彼の背後から大きな爆発が起こった。


「佐鳥愛理! 多くの冒険者がお前が関わった時に消え、さらには幽鬼となった形跡まで確認できる! さらには幽鬼となった冒険者を操り、一般人殺害を手引きした可能性も高い!

 大人しく、お縄に付くがいい! この俺様こと空海大地の名のもとに!!」

「……マイマインねぇ」


 厄介な相手に目を付けられた、と佐鳥愛理は頭の中で考えていた。


「(マイマインと言えば、冒険者支援系MyTuberの中でトップクラスの有名人であり、同時に多くのダンジョンを攻略している様子も動画として挙げている実力者。

動画では仮面を被っていたけれども、多分本人で間違いない雰囲気を纏ってるし、こりゃあ厄介そうですね)」


 どうやって逃げようかと一瞬考え、そして----。



「(殺す方が手っ取り早いか)」



 パチン、と佐鳥愛理が指を鳴らす。


 すると、大地少年の後ろから、3体の鬼が現れる。


 1体目は、顔が羅針盤になっている赤い鬼。

 その手には羅針盤の針を巨大化したのが握られており、当たったら痛いで済まなさそう。


 2体目は、顔が判子になっている青い鬼。

 両手がスタンプになっており、スタンプには『×』のマークがくっきりと刻み込まれていた。


 そして3体目は、顔が爆弾になっている黄色い鬼。

 爆弾の導火線には火がついており、まさに今、爆発寸前と言った様子である。


「(物をベースに召喚する【黄金召喚】によって呼び出した、名付けて"ルネサンス三大発明召喚獣"!

 攻撃した相手を北へ向けさせ続ける【羅針盤の鬼】、スタンプを押すと永遠に気持ちをネガティブにさせる【活版印刷の鬼】、そして素直に爆発攻撃で仕留める【火薬の鬼】)」


 この3体が、佐鳥愛理がたった今召喚して、空海大地へと攻撃するための手段。

 【羅針盤の鬼】の力で北しか攻撃できないようにして、【活版印刷の鬼】の力で気持ちをネガティブ全開にしてガードする気力すら失わせる。

 そして最後は、超火力の【火薬の鬼】で仕留めるという、そういう戦術だ。


「(……【羅針盤】、【活版印刷】、そして【火薬】! わたくしが誇るルネサンス三大発明コンボを喰らいなさい!)」


 そして今、最初の攻撃を担当する【羅針盤の鬼】が攻撃しようとして----。



 ----一瞬で、3体が消滅していることを知った。


「速っ……!!」

「舐めて貰っちゃ困るな、佐鳥愛理!」


 と、ビシッとこちらを指差し、空海大地は宣言する。


「元勇者の力、【天空世界テンクウパンク】で魔王を倒した勇者の力を!

 こんなお遊びにもなりはしない召喚獣で止められると思うな!」


 そして、彼は告げる。


「お前は絶対に、警察に引き渡す!!

 俺様の仲間を、幽鬼によって殺したという罪でな!!」

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