第52話 ダンジョンが消えた日

 どうやら、雪ん子が無事に勝利したらしい。

 俺がその事を知ったのは、いきなり壁が消えて、雪ん子が倒れていたからだ。


 雪ん子とボスとの戦いは激戦だったらしく、もう身体中から血が出ていて、可哀そうだったので送還しておいた。

 ありがとう、雪ん子。ゆっくり休んで置いてくれ。


「よっぽど、向こう側の相手は強かったみたいだな」

「えぇ、そうですね! 多分、ご主人の力があってこそ、雪ん子ちゃんも勝利で来たんだと思いますよ! ブイっ!」


 ----??

 ファイントは、なにを言ってるんだ?

 俺の力があったから、勝利出来たって言われても、俺は何も出来なかったんだが。


 そもそも、先程のファイントの行動も謎だ。

 いきなり、壁のひびに魔法攻撃をし始めたかと思ったら、穴を広げて中を覗き込みながら、なにかしてるし。

 気になって俺も覗き込もうとしたら、壁がなくなり、この有様だ。


「だが、目的は達成できたな」



 ===== ===== =====

 Eランクダンジョン《雪山の騎士城》のボス魔物を倒しました

 確定ドロップとして、アイシクル騎士団の剣が ドロップします


 アイシクル騎士団の剣を 手に入れたことで ランクⅣ 【鍛冶職人】 花弁 千夜葉の 依頼を 完了しました


 Eランクダンジョン《雪山の騎士城》のボス魔物 【アイシクル騎士団長スティーリア】を倒しました

 確定ドロップとして、アイシクル騎士団の剣がドロップします


 Eランクダンジョン《雪山の騎士城》のボス魔物 【アイシクル騎士団副長ニパス】を倒しました

 確定ドロップとして、アイシクル騎士団の胸当てがドロップします


 Eランクダンジョン《雪山の騎士城》のボス魔物 【アイシクル騎士団将校スリート】を倒しました

 確定ドロップとして、アイシクル騎士団の剣がドロップします


 また、初回討伐特典として以下の物の中から、1つを選んで取得できます

 なお、2回目以降は討伐特典は発生いたしません


 1)【騎士王家の指輪】……騎士王家の王位継承権の証たる指輪。指輪に取り付けられている宝石の中には、過去に発見された騎士世界の魔獣の牙が入っている

 効果;スキル【騎士団長の誓い】を使えるようになる。また、仲間の騎士の攻撃力が上がる


 2)【騎士義獣ホワイトホース】……獣型の魔物をベースにした、特製の義足型のアイテム。取り付ける事で下半身がこの装備に変更され、ケンタウロスのような半人半獣の姿へと変わる

 効果;氷属性の装備アイテム。下半身が馬の様になり、素早さが飛躍的に上昇する。【騎乗】のスキルがあると効果がさらに上昇する。炎のように熱い場所で使うと、水のように溶けてしまうが、再び温度が下がると元の形に戻る


 3)【アイシクル騎士団入団証書】……アイシクル騎士団長の署名入りの入団証。今日から君も、アイシクル騎士団の仲間入りだ!!

 効果;使用することで【剣技】【騎馬】【重装】のスキルを取得する。該当の類似スキルを持っている場合、上位スキルへと変質させる

 ===== ===== =====



 ボスの確定ドロップの中に、剣が2本、それに胸当てが1つあったことで、花弁千夜葉----『ベンチャーちゃん』の依頼も達成できた。

 これで、『ベンチャーちゃん』に、雪ん子の悪属性を隠すステータス隠しのアイテムをゲットできるようになった訳だ。


 このダンジョンには、そのために来たんだから、依頼が達成できるのは喜ばしい事だ。


「(だが、討伐特典をどれにしておくべきだろうか)」


 3つとも、どれも欲しいアイテムなのだ。


 【騎士王家の指輪】は装備すれば、【騎士団長の誓い】なる、味方の騎士がやられたら攻撃力と防御力が上昇するアイテムだ。

 装備することで騎士の特性を持つ冒険者、それに召喚獣の戦力が上がるとすれば、俺も欲しいし、有益なアイテムとして売れるだろう。


 【騎士義獣ホワイトホース】は、見かけこそケンタウロスのような、ある意味不格好な姿になってしまうが、馬の素早さが手に入ると思えば使えるだろう。

 

 【アイシクル騎士団の入団証書】も、3つのスキルを一度に手に入れる事が出来るんだ。

 剣を扱う【剣技】、馬などに乗る際の補正スキルたる【騎馬】、そして重装備を扱いやすくる【重装】(※1)の3つのスキルを持っていれば、さらに上位スキルを手に入れるとかも強そうだ。

 うちの雪ん子に使えば、【剣技】のスキルが上位スキルへと変化して……【上級剣技】とやらになるそうだ。



 ===== ===== =====

 【上級剣技】……剣技の上級スキルで、剣技の時の1.5倍の威力が発揮できる。また、長物であれば、剣でなくても剣技を発動できるようになる

 騎士団長クラスの剣技であり、指導を行うことで相手に【剣技】を教える事が出来る可能性がある

 ===== ===== =====



 この【上級剣技】があれば、長物----ある程度の長さを持つ武器でも、【剣技】が使えるようになるんだそうだ。

 主に槍だとか、斧とかでも、普通に使えるようになるんだそうだ。


「【上級剣技】も魅力的だが、【騎乗】のスキルが手に入るんだったら【騎士義獣ホワイトホース】も良いな」


 あのケンタウロスもどきみたいな見かけはどうかと思うが、外見さえ気にしなければ、素早さも高かったし、使えるアイテムだ。

 それに、恐らくここでしか手に入らないだろうし、そうとなれば、価値も高いだろうし。


「……うーん、【騎士王家の指輪】も捨てがたい。というか、3体倒したんだったら、3つとも選べるようにししといてくれよ」


 どれにしておくべきか、悩みどころである。

 出来れば3つとも選びたいんだがな……。


「あっれぇ~? ご主人ってば、まーだ選んでなかったんですかぁ?」


 すーっと、俺が悩んでいる横から、ファイントが顔を出してきた。

 その手には、変な球体を手にしていた。


 球体の中心では、くるくると色がどんどん変わっていく謎の光が駆け巡っている。

 そして、その球体を掴んでいるファイントの手自体が、というか球体の周囲の空間自体が、歪んでいるようだった。


「それは……?」

「あぁ、ご主人、これですか。これは【ダンジョンコア】って奴ですよ。ダンジョンを生み出す、中心の核、みたいなやつ」

「----ダンジョンコア?!」


 ファイントはなんてことない風に持っているが、俺は慌てていた。

 何故なら、ダンジョンコアってのは、誰も本物を見た事がないからだ。



 ダンジョンがこの世界に出現して、数世紀。

 『ダンジョンが出来たのなら、その中心にダンジョンを生み出している核----ダンジョンコアがあるはずである!』と、どこぞの教授とやらが言い出すも、その論理は空想だと思われてきた。

 肝心のダンジョンコアが見つかってないからである。


 ボスの間はあれども、ダンジョンコアは見つからない。

 どこかの冒険者パーティーが壁を破壊したり、床を壊したり、またはダンジョンそのものに巨大な爆破を試みるも、見つかる事はなかった。


 そんな、まさに夢のような物体を、俺の聖霊型召喚獣であるファイントは。


「選ばなくても良いですよ? ダンジョンそのものを壊しちゃえば、全部出てくるでしょ?」


 そう言って、床へと叩きつける。


 その瞬間、世界そのものが歪み始める。

 ダンジョンコアを失ったためなのか、維持できなくなった巨大な空間が徐々に元の姿へと戻っていく。


 そして、俺とファイントは、ダンジョンの外に出ていたんだ。




 この日、世界に激震が走った。

 歴史上はじめて、1つのダンジョンが消えた日として。


 誰もが見つけられなかったダンジョンコアを見つけ出したのが、とある冒険者が召喚した召喚獣の仕業だってことは。


 まだ誰も、知らずにいた。




(※1)【重装】

 重くて硬い鎧など重装備をしている時に、行動に補正をかけて動きやすくするスキル。上級になっても行動は速くならないが、攻撃力や防御力などが上昇する

 なお、重装備の定義は、"自分の体重と同じか、それよりも重い装備"となっている

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