第55話(閑話) 佐鳥愛理はパンクがお好き(3)

 ----俺様の全身全霊を持って、この佐鳥愛理を、ここで倒す!


 俺様、空海大地がそう心に強く刻みむ中、彼女は「ケラケラケラッ!」と、まだ笑っていた。


「今、心の中でこう叫んでるんじゃない? 『佐鳥愛理のような悪人は、この俺様が止めなければならない!! それが別の世界を救って帰ってきた、俺様の使命だ!』的なヤツを」

「~~っ!! 心を読む力でもあるのか?!」

「それくらい、読まなくても、だいたい分かるって話ですよ」


 佐鳥愛理はたくさんの鬼を召喚しながら、俺様の方を見ていた。


「あなたがわたくしを止めようとしても、わたくしは止まらない。どんなに捕まろうが、例え監獄だろうともルトナウムを作りまくって、売りまくって見せますよ」

「どうして、そこまで!! お金が欲しいなら、ルトナウム以外にもいくらでも方法がっ!!」

「----そう言えば」


 と、俺様が説得しようと声を荒げようとして、佐鳥愛理はたった今思い出したかのような、そんな感じに手を叩いていた。


「あなた、わたくしに言いましたよね? 『世界征服でもしようとしているのか!!』って、そういう感じに。

 あれって、すっごく失礼だと思うんですよ。悪人全ての目的が世界征服である、という感じに決めつけられてるみたいで」

「……確かに言いすぎだったかもしれない」


 俺様もそう思って、反省の2文字を口にしようとした時だった。



「----だって、世界征服ならもっと簡単に出来ますのに」



 佐鳥愛理はそう言うと、虚空に転移魔法の穴を作り始めた。

 確か、あれは【召喚士】が特殊な条件でダンジョン攻略を成し遂げた際に取得可能な、【帰還の渦】というスキルだったはず。

 アレに逃げられたら、もうどんなに頑張っても追跡も出来ないが、渦が通れるようになるまで時間がかかるから間に合うはずだ。


「(いや、間に合うとかじゃない。彼女、今なんと言った?)」


 そうだ、転移魔法で逃げられる前に捕まえようとか、そういうことを考えている場合じゃない。

 "世界征服ならもっと簡単に出来ますのに"だって?


「ちょうど、良いですね。あなたの前で、実践して差し上げましょう」

「実践、だと?」

「えぇ、世界征服なんて簡単だという実践を」


 そう言って、佐鳥愛理はアイテムボックスから、青い球体を取り出していた。

 青い球体の中心には空に浮かぶ土地のようなマークが描かれており、中からはコチコチと小刻みに音が響いており、彼女はその音を聞いてうっとり聞き惚れているようであった。


「あぁ……やっぱり良い音色ですね」

「まさか、その音色を聞いていると、世界征服を成し遂げてしまうような代物じゃないだろうな……どれどれ」


 と、俺様は彼女が出した謎の青い球体に【鑑定】のスキルを発動する。

 音色を聞いていたら精神支配されるようなアイテムだった場合、大変だからな。


「なっ……!!」


 そこで俺様は、【鑑定】したアイテムの情報を見て、驚いていた。

 なにせ、そのアイテムは----。



 ===== ===== =====

 【世界球体パンクスフィア天空世界テンクウパンク=】 特殊アイテム

 佐鳥愛理が開発に成功した、異世界そのものを球体の中へと閉じ込める技術の産物。この球体の中には、【天空世界テンクウパンク】と呼ばれる世界が封じ込められている

 かつて空だけを見ていたこの世界は、勇者ダイチ・ソラウミの栄光を称え、土地そのものの力を信じる事になった

 ===== ===== =====



 ----俺様が助けた世界、天空世界テンクウパンクそのものだったからである。




「最初に言ったでしょ? わたくしが好きなのは"世界パンクミュージック"……【世界球体】に閉じ込められたことを嘆く、絶望の音楽なんだから。

 驚くのは、まだ早いよ? なにせ、ここからもっと面白い事が起きるんだから」


 佐鳥愛理は笑ながらそう言うと天空世界、今度は別の球体を2つ取り出していた。

 今度の球体は、刀のマークが描かれた桃色の球体、そして可愛らしい動物のマークが描かれた赤色の球体の2つ。


「(【鑑定】した結果、どうやらあの2つにはそれぞれ【桃太郎世界モモタロウパンク】と【着ぐるみ世界コスチュームパンク】の、2つの世界が閉じ込められてるみたいだな)」


 どんな世界か【鑑定】による簡単な説明によると、"全ての人間が桃太郎とその子孫という世界"と"生まれながら着ぐるみを着させられている世界"の2つか。

 全員が桃太郎の世界だとか、着ぐるみを着てる人ばかりの世界だとか……世界にも色々なバリエーションがあるみたいだ。


 そして、コイツはそんな世界を、いくつあの【世界球体】で所有しているんだ?

 

「行きますよ」

「(何をする気だ?)」


 不気味に笑う佐鳥愛理、それに対して俺様は先程までの彼女のスキルを思い返していた。

 そして、1つの可能性を考え出した。


「(まさか、そんな事をするつもりじゃないだろうな?)」


 しかし、彼女は俺が一番して欲しくなかったことをするのだった。


「----【黄金召喚】」


 彼女は、スキルを発動した。

 自分が持つアイテムを召喚獣として、召喚するスキルを----手にしている2つの【世界球体】に対して、発動したのだった。


 そして2つの【世界球体】が消え、現れたのは奇妙な格好をした2体の鬼。

 1体目の鬼は、背中に【日本一!!】と書かれた旗を立てた、日本刀を手にした赤鬼。

 2体目の鬼は、熊の顔出し着ぐるみを着た、全身モフモフの着ぐるみを着た鬼。


「いざ、鬼ヶ島へ出陣だ! 者共、出会え! 出会えぇ~!」

「モッフモフの、ドッカンドッカンにしてやるモフよぉ~!」



 ===== ===== =====

 【《桃太郎》赤鬼】 ランク;?

 人間全てが桃太郎の血縁者という世界を閉じ込めた【世界球体=桃太郎世界=】の力を得た、赤鬼の召喚獣。倒すと、プラーナ系職業の1つ、【桃太郎】を使用することが出来るようになる

 全身のプラーナを解放することにより、"犬"の脚力、"猿"の器用さ、"雉"の飛行能力を使うことができる。また、周辺の魔物にプラーナで作った特製のきび団子を与える事で、配下にすることが出来る


 【《着ぐるみ》赤鬼】 ランク;?

 生まれた時から着ぐるみと共にある世界を閉じ込めた【世界球体=着ぐるみ世界=】の力を得た、赤鬼の召喚獣。倒すと、オーラ系職業の1つ、【着ぐるみ】を使用することが出来るようになる

 着ている着ぐるみのモチーフになった生物の力を肉体に宿すことにより、強靭な力を簡単に使うことが出来る。また、倒した魔物は着ぐるみとなり、専用スキル【衣替え】によって瞬時に別の着ぐるみを着る事が出来る


(※)この2体を倒した場合、プラーナ系統職業【桃太郎】とオーラ系統職業【着ぐるみ】が解放されます

 該当の四大力を持つ者に、職業変更の勧誘がありますので、了承した場合、その職業に変更できます

 ===== ===== =====



 いつの間にか、佐鳥愛理の姿は消えていた。

 恐らく、先程作っていた【帰還の渦】が完成したのを見計らって、俺様の注意をこの2体の鬼型召喚獣に向けさせたのだろう。


「世界すら、このように召喚獣として手下にする女冒険者……侮れないな」


 とは言え、佐鳥愛理が追えない以上は、この2体の召喚獣を倒すことに専念しよう。

 早い所、この2体の召喚獣を召喚するために使われた2つの世界を解放しないとな。


 俺様はそう思いながら、2体の世界の力を勝手に使う鬼退治を始めるのであった。

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