第10話 タンブルウィード・レベリング
Fランクダンジョン《魔獣の狩場山》は、あまり人気がない。
出てきておそいかかってくる魔物は多くて同時に3体くらいとあまり多くなく、気候の方も暑すぎず寒すぎずのいい塩梅。
自然豊かな山で、水を取るための湧き水ポイントも400m置きくらいならある。
レベルアップのための修行や、ちょっとした探索程度ならば悪くはないといった感じのダンジョンなのだが、このダンジョンが不人気な理由は、この足元を覆い尽くしている草なのである。
実はこの草、【
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【
山系統のダンジョンで良く見られる、ただの雑草に擬態している草型の魔物。ただの草がダンジョンの魔力によって変質しただけなので、知能はゼロである
自分の上に来た生物に手足である草を引っかけ、それを何匹も行うことで転ばせる。転ばせた生物は、同胞の魔物によって倒されるのだ
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一見、ただの草にしか見えないこの緑色の植物が、【転がす草】という魔物なのだ。
この草の魔物はこのダンジョン全体に普通の草に紛れて、びっしりと生えており、踏んでも、良く調べても違いが全く分からない。
どいつが【転がす草】かを考える間に、ふと気づいたら転ばされてる。
転んで隙が大きい相手を、チャンスと見た別の魔物が倒して、【転がす草】はその際に飛び散る血を栄養にして育つのだ。
対処方法は、草花を踏まないように歩くか、転べないような重量を持つこと。
でも緑溢れる山道を草を踏まないように歩くのは難しいし、転べないくらいの重鎧だと山道はキツいだろう。
結局は、【転がす草】に転ぶ瞬間に気付いて、後ろに下がってバランスを取り。
その後、周囲をランタンとかの火で燃やすくらいしか対処法がないのだ。
めちゃくちゃ気を張る割には、【転がす草】を倒しても経験値なんて雀の涙程度だし。
そんな損ばかりのダンジョンだからこそ、《魔獣の狩場山》は不人気なのだ。
----だが、俺にとっては良い狩場だ。
「よし、雪ん子。そのまま前進っ!」
「ピィッ!」
とんっ、と俺の召喚獣、雪ん子が歩けば、その下の草花が凍る。
もう一歩歩けば、その下の地面も凍る。
愛らしい銀髪の着物幼女が歩く度に、地面が凍っていく。
まさしく、幻想的な光景である。
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魔物【
経験値を 獲得しました
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「おぉ、やはり調子が良いな」
今、俺がやっているのは、レベリング(※1)という作業である。
やってることは、雪ん子に前を歩かせるという、地雷原に撤去用の専用重機を突っ込ませるようなことをしている。
雪ん子は、全ての攻撃に氷属性を付与するという【氷結の申し子】なるスキルを持っている。
そして、草木の上----【転がす草】の上を歩くということは、その魔物を蹴るということと同義だ。
なにせ、魔物である【転がす草】の身体を、上から蹴って、攻撃してるんだから。
つまり、普通に雪ん子に歩いてもらうだけで、【転がす草】を倒すという作業になっているのだ。
【転がす草】は普通の草と見分けがつかないだけで、攻撃力は何体か集まってようやく人を転がす程度しかない、体力も最低限しかないからね。
ただ凍らせる程度でも、十分に致命傷となるのだ。
そのようにして、雪ん子に【転がす草】を倒すという作業をしばらくしてもらった結果、雪ん子のレベルを6にまで上げる事が出来た。
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【雪ん子】 レベル;Ⅰ+06
個体レベル;01→06
攻撃力;G+1→F+1
属性攻撃力;F+2→F+12
防御力;G+1→F+1
素早さ;G+2→F+2
賢さ;D+6→D+16
固有スキル;【氷結の申し子】;全ての攻撃に対し、氷属性を付与する
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およそ30分程度とは言え、結構なレベルが上がり、そしてかなりステータスが良くなった。
特に攻撃力、防御力、そして素早さの元々G評価の奴が、上のFランクになったのとかは良い。
この《G》だの、《F》だのといったアルファベットは、そのレベル帯でどれくらいの強さかを示す指標でGから上へ上へと上がって行って、Aが最高だという話だ。
噂によると、その上にS、SSといったランクもあるらしいが、眉唾ものだ。
特に、攻撃力の違いが分かりやすい。
さっきまで草木を歩いて凍らせる程度だった奴が、今ではその足でちょっとした樹の真ん中に大きめの穴を開けるほどの成長だぞ?
豆鉄砲が、いきなり大砲になったんじゃないかってくらいの衝撃だ。
「まったく、【転がす草】様様だ」
ただ、レベル5になってから、途端にレベルが上がり辛くなった。
今のレベル6になったのも、先程までと比べるとペースが明らかに落ちている。
恐らく、そろそろ【転がす草】では物足りない強さになってしまっているのだろう。
「じゃあ、そろそろ行ってみるかな」
「ピィ?」
何を? とばかりに首を傾げる、雪ん子。
その様もやはり可愛らしい。
やはりスライムなどの、ちょっとばかりグロテスクな奴より、見た目が愛らしい方が接しやすい。
雪ん子に【召喚 レベルアップ可能】を使ったのは、やはり正解だろう。
「ピィ? ピピッ?」
「おっと、すまない。無視した訳じゃないんだ」
返事がないのを心配した雪ん子が、こちらに近付いて来ようとするのを慌てて止める。
愛らしいのは結構だが、流石に地面を凍らせる程度でも冷気を纏う彼女に触れるのは、若干難しいだろう。
だから俺は、これ以上彼女が心配して俺の手に触れて霜焼けを作る前に、次の目的を話した。
「このダンジョンのボスを倒しに行く。
レベルⅠでは絶対に倒せないとされる、レベルⅡのボス----【アウルベアー】という魔物を、な」
レベルアップしたレベルⅠの召喚獣、それがどの程度なのか。
実戦で、試してやる。
(※1)レベリング
一定の対象に対し、レベルを上げること、またレベルを上げるために行う行動すべて。
この世界ではレベルは全てローマ数字で表記されており、「Ⅰ」~「Ⅸ」までが今の所、確認されている。噂では「Ⅹ」も便宜上はあるが、成し遂げた者はいない
レベルが上がる条件として、「一定数以上の魔物の討伐・ダンジョン攻略」「特定条件の達成」などを行うと、レベルが上がり、上がる前とは比べ物にならないほど強い力を得られる
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