第10話
俺は言われた通りその人物の向かいの席に腰掛けた。それを確認したその人物は続けて話かけてきた。
「この磨りガラスが気になるとは思う、それにあまりいい印象も与えないことは重々理解しているが、すまない、君の事を考慮するとこうしないと君との対話は成立しないのだ、許してくれたまえ」
その人物はそう言いながら頭を下げて来た磨りガラス越しでもその動作は辛うじて判断出来た。
「いえ、ここに来るまでの反応を見たら当然の対応かなと思います、それにきっとこんな状況になっているのもこれから説明してくれるんですよね?」
そう問いかけるとその人物はフフッと笑い話し始めた。
「話には聞いていたが予想より頭が非常に回るようだね君は、この状況でそこまで冷静さを保つ事はなかなか他の人間にはできないと思うが、まぁその辺のことは今は置いておくとして、その通り君がこんな状況に陥ってる原因を含め全て話すとしよう、まずは自己紹介からだね、私はこのビルに入っている会社【GLOW OF SENSE】通称GOSの社長を務めさせてもらっている天堂 斉哉という、我が社がどういう会社なのかそして何故ここに君が連れてこられたのかを説明する前に君に一つ聞きたい、君は才能というものをどう捉えている?」
唐突に聞かれたその質問の意図が全く読めない俺は少し考えてから答えた。
「テレビとかでよく活躍している人達とかは才能があるんだなぁとは思います、でも大抵の人間はそれはなくてほとんどの人は努力してそれなりの活躍をしたりしているんだと思っています」
「うん、まぁ大抵の人はそう考えるだろう、しかしそれは大きな間違いだ、才能というものは全ての人間にある、ただその者が自分の才能に気付かずに生きているというのが現実だ、そのテレビで活躍している者達は自身の才能に気付き、それを伸ばした結果が出ているだけのことだ」
「でもそんなの普通分からないから、皆そうやって過ごしててごく一部の人がその才能を使って活躍して、他の人は才能がその人達よりなくても近づくために努力をしているのではないのですか?」
「うん、そうだね、それよりもその努力というものの考え方が根本的に我々は違うようだ、よく有名な言葉で99%の努力と1%の閃きという言葉がある、世間一般的にはこれは努力がそれだけ大事だと認識されていることが多いがこの言葉の意味は1%の才能それに気付きその才能を伸ばすために残り99%は努力をするべきという言葉なんだ、つまり才能が無いものにいくら努力しても無駄ということだよ」
彼の話は今までの俺の価値観全てを否定する様な言葉だった、その事実に俺は動揺しながらも反論した。
「そ、そんな、それじゃ世の中のほとんどの人は報われないって事じゃないか、そんな事おかしいじゃないか」
「そうだね、君の言う通りほとんどの人間は報われない努力をしている、そこで私はその状況をどうにかしたくてこの会社を設立したんだ、この会社の意義とは全ての人が自身の才ある部分を活かし生きていく社会を作るというものだよ」
才能を伸ばすなんて聞こえのいい事を言っている、この人はそもそも才能なんて知覚できないものをどうにかしようとしていることに疑問を感じたので思い切って問いただしてみる事にした。
「でも自分の才能なんて何があるかなんて分からないんじゃ?」
「その通り、ほとんどの人は自分にどんな才能があるかなんて分からない、ならばどんな才能があるか分かる様に研究したらいい、君も来る時に見ただろう、あそこのラボはそういった才能があるかどうかその才能はどんな才能なのかを調べるために作られた施設なんだ」
確かに何か研究していたのは分かったがまさかあそこでそんな事をしていたとは思わなかった、そして何故俺があそこにいたのか少しずつ分かってきて話を進める事にした。
「でも、そんな事可能なんですか?」
「確かに最初の頃はかなり困難を極めたね、そもそも才能なんて目に見えないものを見ようとしたんだからね、だが、君を連れて来た彼、アナリストが我が社に加入して大きくこの研究が進んだ、たまたまだったんだが、世の中には人の才能を見抜く才能の持ち主がいることが分かったんだよ、その1人がそのアナリストだ、彼のおかげで才能を見ると言う事が出来るようになった」
ようやく話の核心が見えて来たところで俺はここに来た時から頭にあった疑問をぶつけてみる事にした。
「そのずっと気になっていたんですが、その才能、才能っていうのは具体的にどういったものなんですか?」
「具体的にと言われると確かに難しいが、我々は才能は全てにあると思っている、例えばただ歩くだけのことも才能があるかないかというふうに考え、才能の高さをA〜Fでランク分けして考えている。Fランクは所謂、音痴と呼ばれる者が部類される、運動音痴や味音痴もここに分類されると考えくれたまえ、Eランクは一般人程度、まあ普通に歩けるとかそういった事がEランクに分類される、ほとんどの人はここに沢山の才能が分類されていると考えてもらっていい、Dランクは人より多少上手に出来る程度の事がここに分類されるよく平均というものがあるがあれがEランクならそこを少し上回るのがDランクだと考えてくれ、そしてCランクこれは世間では俗にプロと呼ばれる者達がここに分類される、例えばプロ野球選手なら野球の才能がCランク以上という事になる、次にBランクこれは会社のトップやスポーツ界でも名前が相当に通っている人物達が数多く分類されているあくまで目安だがこれまでの研究結果からいうとほぼほぼ間違いはないだろう、最後にAランクこれは各界隈でもトップ中のトップ、俗に何年に一度の逸材とか過去の記録を何十年ぶりに更新したとか、人類で初の快挙とか言われる人たちは恐らくここに分類される、我々は数多の人たちのこういったデータを集め沢山の人が自身の才能を活かせる分野に進める様に後押しする為の企業だ」
なるほど、大体掴めて来た、つまり俺がここに連れてこられたのはその才能があり、恐らく無理矢理連れて来たことから考えて……
「つまり僕にもかなり高い才能があってそれが社会に悪影響を及ぼす可能性があったから連れて来たという事ですか?」
天堂はまた最初の頃の様にフフッと笑った、そして次の瞬間、彼の発する空気感が少し変わった様に感じた。
「その通りだが、先程の才能の話だがまだあれで終わりではないんだ、最近の研究結果でAランク以上の才能があることが判明した、我々はその才能のランクをSランクと指定した、このSランクは1000年に一度もしかすると数千年に一度の才能という可能性がある物だった、そして君も薄々感じていると思うが君の持つ才能はこのSランクに分類される、しかしそれだけならこんな手荒な真似はもちろんしなかった、君がSランクの才能として開花したものは【洗脳】と一般的には認知されているものだったんだ」
彼の話を聞いて俺は頭を思いっきり殴られた様な衝撃に襲われた、そして今までのここに来てからの全ての対応に納得がいった、もし俺がその才能を使用すれば一瞬でここを制圧出来るだろ、だからこそのカメラ付きマシンガン、そして目を合わせれば洗脳されるかもしれないから目も合わせないなんなら恐怖する研究員達、そして天堂の前に置かれている磨りガラスこれも俺と顔を合わせないための物だったのだ。
俺が衝撃を受けている所に追い討ちをかける様に天堂は話を続けた。
「そして君がいたあの街だが、君があそこに流れ着いたのが約10年前、恐らくその時に君はあの街全ての人間に洗脳をかけている、証拠に君があの街に来てからあの街の事故、犯罪発生率はほぼ0%だった、何故君がこんな事をしたのかわからないが、少なくとも普通ではあり得ないんだ、ちなみにこれに関しては現地にウチの研究員達が調べにいって確証も取れている、こんな事が出来る者を才能を取り扱う人間として放っては置けなかったのだ」
(俺が街の人全てを洗脳していた、それも10何年も前に……)
あまりの信じられない事実に俺は愕然とした。
「そして君をここに連れて来たもう一つの理由、それは君を狙っている組織が我々の他にもいるという事だ」
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