透視点〜親友の家に泊まりに行ったら

透視点〜親友と呑みに行って…★

「シンジっ…大丈夫か?」


 呑みすぎて立てなくなった真実の肩を担ぐ。


 「ああ…悪い…。嬉しくってつい呑みすぎた…。」


 そう言いながら真実は嬉しそうに笑う。


 「でもよ…浅川が付き合ってくれるなんて思わなかったから…すごい嬉しかった。」


 「うん…そうだね。」


 真実が嬉しそうに笑うのでこっちまで嬉しくなってしまう。


 



 

 こんなに嬉しそうな真実は初めて見た。


 真実を見つめる。


 真実がこんなに嬉しそうなんだもの。きっと人を好きになるのって素晴らしい事なんだな…。


 …そう思った。


 



 色々あって、自分はずっと一人で暮らしてきた。


 今まで女の子と付き合ったことはおろか、女の子を好きになった事はなかった。


 …誰かを好きになれる心は自分の中で育たなかったのかと思うほどだった。


 …多分俺は一生独りだろうな…。


 心の中に暗い影が渦めく。



 



 「本当…ありがとう透…。」


 真実が呟く。


 「もう…分かったから早く帰ろう?家の人が心配するぞ?」


 真実を担ぐ腕に力を入れた。




 ★



 

 「ちょっとお兄ちゃん!大丈夫?!」


 真実に何処か似た女の子が玄関に迎えに出てくれていた。


 甲斐甲斐しく真実の世話を焼き、真実をベッドに寝かせる。

 

 「…じゃあ俺…帰りますね。」


 そう言いながら真実の部屋を出る。


 …ここには家族の温もりやら暖かさに溢れている…。


 自分には耐えられそうも無かった。


 慌てて真実の家を出ようとする。




 「あっ…ちょっと…服汚れちゃってますよっ!」


 真実に似た女の子が追いかけてくる。


 「大丈夫。気にしないでっ…。」


 そのまま外に出ようとして女の子に手を掴まれた。


 「ダメですって、それお兄ちゃんが吐いちゃって汚したんですよね。お兄ちゃんが汚したのに…。それにお兄さん…そんな格好で帰ったら風邪ひいちゃう!!」


 心配そうに顔を覗き込んでくるその子…。


 掴まれた手がとても暖かかった。


 

 「お兄さん…酔ってないなら家でお風呂に入って着替えてください…。それにもうこんな時間だし…。真実を送ってくれて疲れたでしょ?真実の部屋で良ければ泊まって行って下さい。お布団持って来ますからっ!」


 その子は自分の面倒まで見始めてくれる。


 

 言葉を挟む隙もなくあっという間にお風呂場に連れて行かれる。


 「これ…お兄ちゃんので良ければ着ててくださいっ。」


 「ん、ありがとうっ…。」


 「お礼なんて…むしろお兄ちゃんを連れ帰ってくれてありがとうございました。」


 その子は微笑む。


 …その微笑みに見惚れてしまう。


 「さあ、お風呂入って下さいって私ずっとお兄さんの手掴んでましたね。ごめんなさい。」


 慌てて手を離した女の子が笑いながら風呂のドアを閉めた。




 …どうしようもなくなり、とりあえず有り難くお風呂に入ることにした。


 衣服を脱ぎまとめる。


 真実に吐かれた服はお湯で濯いだ。


 ぎゅっと絞って洗濯機の脇に置く。


 袖口のボタンが一つ取れかかっていた。



 

 ★



 お風呂から上がり、真実のスウェットを着る。


 脱衣所を出ると女の子が来る。


 「真実の部屋にお布団持って行きましたよ。あとおトイレはこっちで…。」


 家を軽く案内してくれた。


 「もうお父さんとお母さんは寝ちゃってるし、もし何かあったら私の部屋隣なんで声かけてくださいね。」


 「あ、うん…ありがとう。」


 その子と真実の部屋の前で別れた。


 「じゃあ、おやすみなさい。」


 「…おやすみ。」


 


 その子の背中を見つめる。


 …可愛いらしいパジャマの子だな。


 さすが真実の妹…しっかりしてるな。


 そう思いながら真実の部屋に入る。




 

 ベッドで眠る真実と、その横に敷かれた布団。


 そっと布団をめくり中に入る。


 「…?」


 足元がとても暖かくて…。


 湯たんぽが中に入れられていた。


 あの子…すごい優しいな…。


 湯たんぽの温もりのせいかなんだかとても落ち着いた。


 布団は柔らかくてふかふかでぬくぬくしている。


 とても暖かい気持ちになって、気づいたら眠ってしまっていた。


 


 

 ★




 「おはよう、昨日は悪かったな。」


 真実が既に起きていた。


 「おはよう、体調大丈夫?」


 真実は後頭部の寝癖を治しながら笑った。


 「ああ。もうすっかり平気だぜ。あ、そうそう…泉がこれお前にって。」


 渡されたのはきちんと洗われて、アイロンをかけられた昨日のシャツだった。


 おまけに取れかけたボタンも付け替えてくれたのか直っていた。


 「真実の妹…泉ちゃんっていうの?」


 「…ん?ああ。今日は友達と出かけるとかで朝早くから出て行ったぜ。」


 …洗濯のお礼…言いそびれちゃったな…。


 少しがっかりした。


 もう今日はあの子の顔…見れないのか。


 


 泉ちゃんが洗ってくれたシャツに着替える。


 微かに泉ちゃんのにおいがする気がしてドキドキした。


 


 真実が玄関から見送ってくれた。


 自分の家に向かって歩きながらそっと泉ちゃんが直してくれたボタンに触れる。


 昨日彼女に掴まれた手がまだ温かい気がした。

 


 

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