現実転生

白犬狼豺

嗚呼素晴らしきかな我が人生

 自意識過剰な劣等感が、弱劣意識が制服を着て教室を闊歩していた。

 私である。

 平凡な高校生である。

 何の変哲もない人生の地べたを這いずり回るうだつの上がらない人間である。


 ラノベの主人公でそんな事あるわけねえだろって文句あるならコメント欄に書いてくれ。ありがとう、よく読んだ上で言わせてもらうが、知らねえよ。ブスだよ美形ばっかりだと思うな。


 クラスの誰かの笑い声が嫌い。私の席は廊下側の一番後ろ。教室のどこかで突如湧き上がる誰かの甲高い笑い声がするとストレスがたまる。私のことを嗤われているみたいだったから。ただただクソやかましいだけの、だが私よりもよっぽど人間な奴が笑っていた。


 当時私と仲が良かった子がいた。普通に話してて楽しかったし、私にとって高校はその子に会いに行くための場所だった。


 その子の陰口を聞いた。クソ虫以下の劣弱意識そのものであるところの私からすればよっぽど人間らしいその生徒によれば「地味」とのことで、ああ、私よりもよっぽどご立派な人間様は言うことが違うと感心したものだ。


「そんなことを言ってはいけない」とか言う奴、いると思うか?いないだろ。


「そんな事言ったらだめだろ」


 いたわ。すげえ、初めて見た。前髪にヘアピンつけてる奴、見直したぜ。


 そんなことを思いながら何となく彼女たちを見ていたらそのグループの中の1人と目が合った気がした。私はドキッとして目を伏せたが、その後すぐにそのグループから笑い声がした。


 うるさい、笑うな。

 誰かの陰口を言っている奴は大嫌いだ。どうせこいつらは私のいないところで私の陰口を言っているのだと思い知らされる。


 黙れと叫びたかった。洗いざらい自分のルサンチマンをぶちまけて、こいつらを1人ずつこずいてやりたかった。

 私が幾度屈辱を押し殺し、絶叫を飲み込んできたかこいつらに教えてやりたい。


 でもやらない。

 やる度胸も意味もない、何よりも彼らは私のことなど端から意識の俎上にさえ上げてはいないのだということを、自意識過剰な私が勝手にそう思い込んでいるだけなのだということを、私はよく知っていたからだ。


 生きるのが上手い奴は良いよな。誰とでも仲良くできる奴ら、でもその誰かに私は入っていない。踏みつぶされたアリを一々人間が気にしたりしない。


 そんなことを思いながら過ごしていた時のことだ。授業中、私は筆箱を落とした。

 もちろん丁寧に一々口なんて閉めていないものだから中身を盛大にぶちまけた。


 畜生、こんなことでクラスのみんなから注目なんて受けたくなかった。近くの席だったヘアピンが私の落とした文房具を拾う。形だけの親切だとおもったから、形だけの礼を言う。


 気まずい。

 そんなことするなよ、馬鹿……。あと筆箱につけてる私の好きなアニメキャラのキーホルダーをまじまじと見ないでほしい、ほんと恥ずかしいから。


「ねえ、カンザキ君好き?」授業終わりにヘアピンが聞いて来た。カンザキ君というのは私が見てるアニメの超絶イケメン主人公で、私が筆箱につけてたキーホルダーのキャラだ。どうやら彼女の推しも彼らしい。


 仲のいい友達がもう一人できた。少ししてカラオケに誘われた。私の友達の陰口を言っていた子も一緒だ。でも、行くと言った。私の友達も誘ったし、向こうも了承した。


 私は珍しく張り切って、でも本気で期待はしていなかったけど、せめてその子に私の友達のすばらしさを知ってもらいたかったんだと思う。私は期待を胸に出かけていった。


 人生は劇的には変わらないけど、誰かが差し伸べてくれた手を握り返すほんの少しの勇気があれば変えられるのだと私は確信した。これから楽しいことを沢山やりたい。一緒に遊びに行きたい。今日はカラオケに行く。あ、ハンカチ忘れちゃった。


 3秒後、私は暴走して歩道に突っ込んできたハイブリッドカーにぶっ飛ばされて死んだ。

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