第53話・洗平愛那《あらいだいあいな》【救世の声】・02
西方遠征の失敗から、既に半年近くが経った冬のある日、城の庭で剣の鍛錬を行っていたヴァイナー大王の元に、常勝将軍ザウードが険しい表情で訪れた。
「大王様、ご報告がございます」
「愚弟共がようやく反乱でも起こしたか?」
「いえ、そうではありません」
期待していたのか、むしろ嬉しそうに問いかけてきた大王に、ザウードは首を横に振る。
「陛下はカスターニョ辺境伯を覚えておられますか?」
「カスターニョ?」
「黒鉄王国の東側を守っていた、エルバドール辺境伯の息子です」
「あぁ、あのドラ息子か」
大王はようやく思い出す。とても優秀で勇敢であり、だからこそ謀殺するしかなかった父親の方はともかく、まんまと騙されて大王国の手駒と化した息子の方は、名前すら覚えていなかったのだ。
「そのドラ息子がどうした? ようやく国をまとめて、戴冠式の招待状でも送ってきたか?」
「まさか」
大王様も無理だと分かっているのに人が悪いと、ザウードは苦笑してまた首を横に振った。
王族も王都も滅ぼされて、その実行犯たる大王国も引き上げてしまった黒鉄王国の地は、今や治める者がいない無法地帯と化している。
大王国に降伏した北と南、そして真っ先に裏切った東の辺境伯が、各々の領地を何とか治めているだけで、もはや国としては機能していない。
そして、残った三辺境伯が協力して、王国を復活させる事もないだろう。
大王国も、そして白翼帝国も手を出さなかったが、いずれ他の国に呑み込まれて、黒鉄王国の名は歴史の波に消えていく事だろう。
「カスターニョ辺境伯は早々に黒鉄王国を捨てて、我らが赤原大王国の一員になる事を望んできました」
「そうか、ならばフラーブルにくれてやれ」
大王国の西方を守るフラーブル侯爵、彼の傘下に加える形で大王国の一部とすればいい。
「爵位と食うに困らぬ金だけ残してやれば、あのドラ息子も文句は言うまい」
その程度の事を将軍が自ら確認しに来たのかと、訝しむ大王に対して、ザウードは最初の険しい表情に戻って告げた。
「そう仰ると思い、フラーブルも話を進めていたようなのですが……最近になって、カスターニョ辺境伯領の様子が何やらおかしいと」
「ほう?」
好奇心で目を輝かせる大王の前で、ザウードは親友でもあるフラーブル侯爵から送られてきた密書を取り出す。
「最初の異変は、会談を予定していた日に、カスターニョ辺境伯が現れなかった事でした」
雨や雪で馬車が遅れるなんて事はよくあるので、侯爵は気にせず待っていたのだが、一週間が経っても辺境伯は現れなかった。
「流石におかしいと思い、フラーブルは辺境伯の元へ使者を向かわせたのですが、その使者も帰ってこなかったそうです」
この時点で侯爵は警戒態勢に入り、兵士達に戦の準備を始めさせた。
辺境伯がこちらを裏切り、他国――特に帝国と手を結んで、大王国に侵攻してくるという、最悪の事態に備えるためだ。
とはいえ、まだ裏切りが確定した訳ではない。カスターニョ辺境伯が他国や南北の辺境伯から攻め込まれており、連絡が取れないという可能性の方が高い。
そこで、侯爵は密偵を潜り込ませて、辺境伯領の様子を探らせたのだが、そこで目にしたのは想像もしていなかった光景であった。
「領民が全員、真っ白いローブを身にまとい、聖女と呼ばれる少女を崇めていたそうです」
「……何?」
ザウードが密書を初めて読んだ時も、おそらく侯爵が密偵から報告を受けた時もそうであったように、大王は怪訝な顔で首を傾げてしまう。
「全員とは、文字通り全員か?」
「はい、男も女も、子供も老人も、目に入る限り何千人もの領民が、白いローブ姿で聖女を崇めていたと」
「黒鉄王国にはそのような宗教儀式があるのか?」
「いえ、城の賢者に尋ね、書庫の文献も当たってみましたが、そのような話はありませんでした」
ザウードはまたも首を振って否定する。黒鉄王国に近いフラーブル侯爵領でも、そんな話は聞き覚えがないと密書には書かれていた。
「白いローブ姿の者達は、誰もが魂を抜かれたように呆けた顔をしており、ただひたすら聖女を崇めている、実に異様な光景だったと……」
想像して少し青ざめるザウードに、大王は眉間にシワを寄せて尋ねる。
「その聖女とやらは何者か?」
「分かりません。密偵は遠目から見ただけで危険を感じ、逃げてきたのだそうです」
本来なら詳細を探るべき密偵としては、失格と言わざるをえない。
だが、彼が持ち帰った僅かな情報を聞けば、それが正解であったと誰もが悟るだろう。
「聖女の長い髪は黒く、おそらく目の色も黒でありながら、肌は少し黄色がかった白であったと」
「アース人か」
大王は即座に答えへ辿り着く。彼の西方遠征を頓挫させた、憎き異界の悪魔達。彼らが黒髪黒目の変わった顔立ちであるという噂は、もう大王国にも広く知れ渡っていた。
「我が国にも黒髪黒目の者は探せばおりますが、おそらくは……」
「聖女とやらが我が国で生まれた者ならば、もっと早く噂になっておろう」
だから、帝国から来たアース人に違いあるまいと、大王は断言する。
「察するに、人の魂を抜いて下僕と化す力といったところか」
「おそらく、カスターニョ辺境伯も彼を呼びに向かった使者も、その力にやられてしまったのでしょう」
まさに悪魔の所行だと、ザウードはまた顔を青ざめる。
エスタス平原で自軍を蹴散らした、天災の如きアース人の異能をこの目で見たからこそ、そのように不可思議な力も実在すると、恐ろしいほどに理解できてしまうのだ。
「やはり、白翼帝国の皇帝が我が国に攻め込む準備として、アース人を送り込んだのでしょうか」
カスターニョ辺境伯だけでなく、さらには隣接するフラーブル侯爵の領民まで下僕にして、大王国に攻め込ませる。
同じ国の仲間であった者達が、聖女を称える白装束の一団と化して襲ってきた時、勇敢な大王国の兵士達とてまともに戦えるかどうか。
恐ろしい策略だと戦慄するザウードを余所に、大王は眉間にシワを寄せて考え込んだ。
「……解せんな」
「何がですか?」
「皇帝の若造らしくない、と言っているのだ」
首を傾げるザウードに、大王は難しい顔のまま己の見解を語る。
「我が思うに、あの若造の本質は『守』なのだ」
自分の大切な者達と帝国を守る事。皇帝の行動原理はそこにある。
「だから、アース人という悪魔の力を手に入れながらも、攻めに回ろうとしない」
大王国を退けてから、既に半年近くも経っているのに、何の行動も起こしてこなかったのがその証拠だ。
「我ならば青海王国と手を結び、他の諸国を屈服させ、まずは西側を征服していずれは東もと、大陸統一の野望を進めているだろうに」
皇帝にはそれを可能とするだけの知恵と力があるはずだ。
だがやらない。彼には大王のように壮大な夢がなく、自国を守るだけで満足しているから。
「つまらぬ男だ」
大王は思わず吐き捨てる。同じ男として歯痒くて堪らないのだ。
しかし、敵対する国の君主としては、その消極性がありがたいのも事実である。
「そんな若造が、今さら我が国に喧嘩を売るような真似をしてくるとは思えぬ」
「なるほど、確かにその通りです」
大王の意見に、ザーウドも納得して頷き返す。
そもそも、皇帝が大王国に攻め込む腹づもりであったなら、エスタス平原の時に彼を逃したりせず、追撃して戦力を削っていた事だろう。
「となると……この度の件は、アース人の独断だと?」
「その可能性が高いであろうな」
大王は笑って頷く。人知を越えた強大な者達が、揃って大人しく皇帝に従っているはずもない。
一人や二人はその手を離れて、我欲のままに暴走するのが当然であろう。
「帝国に与せぬアース人ですか。我が国の味方とできれば頼もしいのですが」
「無理であろうな」
ザウードの希望的な言葉を、大王はあっさりと断ち切る。
「人を下僕に変えて、聖女と称えられる事を望むような輩が、我に膝を屈するはずもない」
「仰る通りです」
ザウードも本気で期待していた訳ではないため、直ぐに発言を取り下げた。
「では、そのアース人を討伐するよう、フラーブルに連絡を――」
「いや、我が出向こう」
言葉を遮り、大王は凶暴な笑みを浮かべて宣言する。
「我がこの手で、悪魔の首を狩ってこよう」
「大王様、それはなりませんっ!」
ザウードは血相を変えて反対する。強大なアース人、それも人を下僕と化すと思われる者に、大王国の統治者たるヴァイナー大王を近づけるなど、下手をすれば国が滅ぶ。
「先の戦では補給の確保に回っていましたが、フラーブルも勇敢な手練れ。アース人ごときに遅れは――」
「貴様でも我が負けると慌てるか。ならばこそよ」
心配してまくし立てるザウードに対して、大王は怒りもせずむしろ笑い返す。
「凶悪なアース人の退治に、無謀にも我が出向いたと派手に喧伝せよ。さすれば尻尾を巻いて巣に籠もっていた臆病者共も、これ幸いと吠え出てくるであろう」
「……なるほど」
大王の意図を理解して、ザウードは険しい表情のまま頷いた。
帝国に敗北し、六緑連合王国の決起を許し、大王の威勢が衰えたと巷で囁かれるようになってもまだ、他に大きな反乱は起きていなかった。
それ自体は良い事だが、これを機に国内の膿を取り除きたかった大王にとっては、少しばかり都合が悪い。
「余が悪魔に屈するかもしれぬ――いや、屈したと言い回れ。それで正体を現した愚か者共の首を、貴様が狩って回るのだ」
「招致しました」
大王の命令を、ザウードは迷わず受け入れる。
アース人と相対させる事に関して、不安が消えたわけではない。
だが、大王がそうと決めた以上は、信じて己の職務をこなす事が、臣下の務めだからだ。
それに何よりも、彼の脳内には既に一つの光景が浮かんでいた。
「大王様が悪魔の首を手に凱旋するのを、楽しみにお待ちしております」
「貴様も励めよ。首級の数で負けた方が、酒を奢る事としよう」
大王はそう豪快に笑うと、出陣の準備を始めるため、城の中へと入って行くのだった。
◇
五千の兵だけを連れて首都を発ったヴァイナー大王は、道中では特に問題が起きる事もなく、件のカスターニョ辺境伯の街へと辿り着いた。
「ここに聖女とやらが居るのか」
大王は馬の上から街を見回す。西方遠征の際に通った時は、こちらを警戒しながらも賑わっていたはずだが、今は住人が死に絶えたように静まり返っていた。
畑仕事もなく、家の中で暖まっている者が多い冬だという事を差し引いても、明らかに様子がおかしい。
兵士達が困惑するのを背中に感じながら、まずは辺境伯の屋敷へ向かおうとしたその時、高らかに鐘の音が鳴り響いてきた。
「何事だっ!?」
兵士達が慌てて武器を構えるなか、静まり返っていた家々の扉が一斉に開き、白いローブ姿の住人達が勢い良く街路に飛び出てくる。
「説教のお時間だ!」
「聖女様のお声が聞ける!」
大王達には目もくれず、住人達は歓喜の笑みを浮かべて街の中心へと走って行く。
その姿はあまりにも異常で、兵士達の額には冬にも関わらず嫌な汗が浮かんできた。
「大王様、これは……」
引き返した方がいいのではと、視線で訴えかけてくる副官に、大王は険しい表情で命じる。
「貴様は四千の兵と共にここへ残れ。日が暮れても我が戻らなければ、その時は街ごと焼き払え」
「そ、そんな事はできませんっ!」
副官は懸命に反対するが、大王は聞く耳を持たず、千の兵士のみを連れて街の中心へと向かった。
大きな広場となっているそこは、何千という白いローブ姿の住人で埋め尽くされており、その中心に設けられた演壇の上では、黒髪を三つ編みにした少女――聖女が、どこか見覚えのある青年を前に話しかけていた。
「さあ、貴方の罪を皆さんに告白しましょう」
「私は地位と財産に目が眩み、いつまでも家督を譲ってくれない父親を殺したばかりか、我が身可愛さに故郷を売った、最低の罪人なのです……っ!」
青年――カスターニョ辺境伯は、遊びほうけて太っていたかつての姿とはかけ離れた、やつれ細ったみすぼらしい姿で、集まった住人に向かって懺悔する。
それを聞いた住人達は、罵倒して石を投げつけたりはせず、ただ恍惚とした表情で聖女を見上げていた。
聖女もそれに満足そうな笑みを浮かべて告げる。
「ご覧なさい、街の皆さんも貴方を許したのです。怒りや憎しみからは何も生まれないと理解したのです」
「おぉ……っ!」
感動の涙を流して崩れ落ちる辺境伯から視線を外し、聖女は集まった住人達に向かって語りかける。
「皆さん、怒ってはなりません、争ってはいけません。愛こそが世界を救うのです」
「「「うおぉぉぉ、聖女様っ!」」」
聖女の宣言に対して、まるでそう反応するよう命じられていたかのように、住人達は一糸乱れぬ動きで歓声を上げる。
そんな光景を、大王と兵士達は呆然と眺めていた。
「何だ、あれは……」
兵士達が真っ青になって呟く。人垣が邪魔で聖女の声は僅かにしか聞こえなかったのに、彼女の告げた「怒るな、争うな」という命令が、まるで砂糖のように甘く頭に染み込んできたのだ。
一瞬で自我を塗り潰されそうになった恐怖に、怯える兵士達に向かって、大王は住人達の歓声をかき消すほどの怒声を張り上げる。
「道を空けろっ!」
「「「はっ!」」」
大王の一喝に打たれ、兵士隊は慌てて正気を取り戻すと、集まった住人達を押しのけて、演壇までの道を切り開く。
そうして、馬に乗ったまま悠然と近づいてきた大王を見てもなお、聖女は柔和な笑みを崩さなかった。
「貴方はどなた様でしょうか?」
「東の覇者、ヴァイナー大王」
「まぁ、貴方がっ!?」
大王の正体を知っても、聖女の顔には恐怖の欠片も表れない。
むしろ、ようやくこの時が来たとばかりに、興奮で頬が紅潮していた。
「貴様の名は?」
「これは失礼致しました。私は洗平愛那と申します」
聖女――愛那は丁寧に名乗り返す。その姿だけならば礼儀正しい少女にしか見えない。
だが、先程の演説で確信した。これは人を惑わす声を持った悪魔だと。
喋る間を与えずに殺した方がいい――そう理解しながらも、大王は問わずにいられなかった。
「貴様はここで何をしている?」
「私はこの街の方々を救っているのです」
愛那は何の躊躇いもなくそう答えてから、残念そうに顔を曇らせる。
「本当は戦争を止めるために帝都を出たのですが、行く先々で出会った罪人の方々を改心させるのに手間取ってしまって……」
見た目は無害そうな少女だ。盗賊やら山賊やらに散々からまれて、それを全て洗脳してきたという事か。
「それで、ようやくこの辺りまで来た時に、この街で争いが起きている事を聞いて駆けつけたのです」
我欲のために父親を殺し、保身のために国を売った辺境伯。当然、それに反対する勢力はおり、赤原大王国が引き上げたのを機に、双方で小競り合いが続いていたのだろう。
「で、貴様はこうしたと?」
「はい、争いの無益さを教え、平和の尊さを説き、皆様をお救いしたのです」
大王の冷たい視線にも気付かず、愛那は誇らしげに胸を張った。
これが正しい行いだと、心の底から信じ切っている表情で。
「ゲスが」
「……はい?」
大王の口から出た言葉が理解できなかったのか、愛那は目を丸くする。
そんな彼女を、大王は容赦なく罵倒した。
「人心を惑わすゲスな悪魔めが。貴様は民を救ったのではない。民の心を殺したのだっ!」
大王は怒りに震えながら街の住人達を指さす。彼らは突如現れた兵士達に怯える様子もなく、呆けた顔で愛那だけを見つめていた。
そのガラス玉めいた瞳には、心の揺らぎなど欠片も残っていない。
「平和だと? 確かに、争う心さえも奪われてしまえば、平和にはなるだろう。だが、こんなものはもはや人間ではないっ!」
「…………」
驚きのあまり言葉を失う愛那に、大王は獅子のように吠え立てる。
「いいか! 人間とは怒り、憎み、悲しみ、それ故に笑い、愛し、喜ぶのだ!」
負の感情があるからこそ、正の感情も生まれる。逆もまたしかり。
それを全て奪われて、感情が無となった者には、幸福など生まれようもない。
ただ、愛那の望むままに懺悔し、感動するふりを続けるだけの哀れな操り人形。
「人間でお人形遊びをするゲスな悪魔が、民を救ったなどと寝言をほざくなっ!」
大王は激情のままに馬から飛び降り、演壇を駆け上る。
それを見ても、愛那は自らの行動を顧みる事はなく、ただ悲しげに呟いた。
「
「――っ」
暴れ熊のように猛っていた大王の巨体が、一瞬で停止してしまう。
そんな彼に向かって、愛那はあくまで優しく命じた。
「さあ、怒りや憎みなど捨てて、私と共に世界を平和にしましょう」
愛那の声が鼓膜から侵入し、脳を犯し、心を染め上げてくる。
それはどこまでも甘く快感で、大王の体は自然に動き――抜き放ったナイフを、自らの太股に突き刺していた。
「えっ……」
「舐めるな小娘がっ!」
呆気にとられる愛那の前で、大王は激痛によって洗脳を振り払い、憤怒に燃える己を取り戻す。
「我は赤原大王国の大王・ヴァイナーなるぞっ! この身も、この魂も、全ては我の物だ。貴様のような悪魔にくれてやるものなど、欠片とてあるものかっ!」
咆吼を上げて、大王は勢い良く腰の剣を抜き放つ。
白刃が閃き、愛那の首が断たれて、頭が宙を舞った。
「えっ?」
己の胴体を見下ろして、何が起きたのかも分からぬまま漏れた間抜けな呟き。
それが、平和のために人を洗脳して回った少女の、最期の言葉となった。
「…………」
大王は地面に落ちた愛那の頭を、無言で掴み上げる。
その間も、住人達は何の反応も示さず、呆けた顔で立ち尽くしていた。
彼らは忠実に教えをこなしたのだろう。怒るな、憎むな、争うなと、例え命じた聖女が殺されたとしても。
そんな住人達を、大王は苦々しい顔で眺めながら、その場を離れて副官達と合流すると、重々しい声で命じた。
「街に火を放て、皆殺しだ」
「そ、それは……」
仮にも味方といってよい街の住人を虐殺する事は、流石の大王国兵といえども躊躇してしまう。
しかし、大王の意志は変わらなかった。
「皆殺しだ。生きたまま腐り果てるよりは、殺してやるのが慈悲と知れ」
「……はっ」
副官も苦渋の表情で折れる。聖女を殺しても、その洗脳が消えた様子はない。心を失った住人達を救う手段はもはや、死の安らぎより他にないのだ。
そうして、五千の兵士達によって次々と火が放たれ、カスターニョ辺境伯と数千の住人達は、炎に包まれて街と共に灰となる。
その虐殺は後の世に、ヴァイナー大王が行った蛮行の一つとして、長く語り継がれる事になるのであった。
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