第36話・もう一つの戦場・後編

 大陸の南東、密林が生い茂る一年中温かな熱帯地域。

 そこはかつて六つの小国が手を取って協力し合う、六緑連合王国によって統治されていた。

 温かく雨量も十分で、トウモロコシや稲がとてもよく育ち、密林から様々な果物や動物が取れるため、連合王国の食糧事情はとても良かった。

 ただ、豊富な食物があればそれを狙う者――魔物も当然ながら現れてしまう。

 大陸の西端にある常闇樹海ほどではないが、人を襲う危険な魔物達が密林に住み着いてしまった。

 これと戦うために各国が手を結んで生まれたのが、六緑連合王国という訳である。

 ある意味、魔物のお陰で人間同士の戦争が起きずに済んだともいえた。

 ともあれ、密林から被害と恩寵を受けつつも、連合王国の民は平和に暮らしていた。

 北の悪魔、赤原大王国の大軍が現れるその時までは……。




「――っ!?」


 赤原大王国の南部地域、スェイス区の区長・サトゥルは、不快な脂汗を浮かべて悪夢から目覚めた。


「またあの夢か……」


 既に三十歳を超えた彼が、もうすぐ成人式を迎える若い青年だった頃。

 命の恵みと死の魔物が同居する密林が、紅蓮の炎によって焼き払われ、灰と化した道を通って現れた、血のように赤い装束の兵士達。

 年中暑いため軽装の者が多く、何よりも平和で人間同士の集団戦に慣れていなかった連合王国の男達を、まるで稲を刈るように殺戮していった赤原大王国の大軍。

 それを指揮する、当時はまだ二十代の若者だったヴァイナー大王が、サトゥルの目の前で彼の両親・スェイス国王と王妃の首を斬り落とした。


『父上、母上っ!』


 二人の兵士によって床に押さえ付けられ、泣き叫ぶ事しかできないサトゥルに、大王は両親の血がついた切っ先を向けてこう告げたのだ。


『最後まで勇敢に抗った、貴様の両親に免じて選ばせてやろう。我に平服して生き長らえるか、それとも、両親と共にあの世へ行くか』


 その二択に対して、若く未熟だった彼は――


「くそぉっ!」

「貴方、どうしたの?」


 思わず怒声を上げてしまったサトゥルに驚いて、隣で寝ていた妻が起き上がる。


「いや、何でもないんだ」


 心配する妻を誤魔化し、サトゥルはベッドから下りて服を着替える。

 そうして、彼は朝食を終えてから、区長としての仕事を始めた。

 魔物や夜盗の出現報告に対して討伐の兵士を向かわせ、各地の村が税を誤魔化していないか目を光らせながらも、疫病や虫害で痛手を受けていれば税金を使って手助けをする。

 それは彼の父親であるスェイス国王が行っていた仕事と、何一つ変わらない。

 違う事といえば、今はなき王宮に比べると遥かに小さい、自宅でもある屋敷が仕事場である事。そして、王冠をかぶり国王を名乗れない事。

 今のサトゥルは赤原大王国の一地区を任された、ただの行政官にすぎないのだから。


(私はいったい、何をやっているのだろう……)


 国王と同じ仕事をしながらも、国王のように民から尊敬される事はない。時には赤原大王国に寝返った裏切り者と、蔑みの視線を浴びる事もある。

 これが自尊心と引き替えに生き延びた罰なのかと、サトゥルはもう何千回と繰り返してきた苦痛に悩まされながらも、手は勝手に書類を捌き、口は部下達に指示を与える。

 そうして仕事に没頭するうちに、今朝の悪夢もようやく薄れてきた頃、一人の文官が困惑した表情で執務室に入ってきた。


「あの、サトゥル様に面会したいという者が尋ねてきたのですが……」

「誰が来たのだ?」


 魔物の駆除依頼に来た村長や、税の徴収に来た大王国の使者といった、普段通りの来客であれば、こんな風に言い淀んだりはしないであろう。

 そう見抜き、答えを待つサトゥルに対して、文官はゴクリと唾を飲み込んでからようやく告げた。


「白翼帝国の皇帝・アラケルと名乗っているのです」

「……はぁ?」


 サトゥルは思わず間抜けな声を出してしまう。この大陸で暮らす者ならば誰もが知っており、そしてスェイス区とは最も縁遠い国の名前が出たからだ。


「白翼帝国とはあの、かつて異世界の悪魔を召喚した大帝国で、今は西の端に追いやられたという?」

「はい」

「そこの皇帝が、遥か遠く離れた大陸南東のこの地まで、私に会いに来たと?」

「……はい」

「どこの詐欺師か知らんが、もう少し上手い嘘を吐いたらどうなのだ?」


 サトゥルはつい失笑してしまう。あまりにも荒唐無稽すぎる話だったからだ。

 だが、同時に察してもいた。何の根拠もない詐欺師であれば、文官とてあっさりと見抜き、こうも困惑した顔で伝えには来ないだろうと。


「その、皇帝アラケルを名乗る者が、これを……」


 文官はずっと右手に握り締めていた、一通の巻き手紙を差し出してくる。

 それを受け取り、封蝋に刻まれた紋様を目にした瞬間、サトゥルの失笑が驚愕に変わった。


「こ、これは青海王国の印っ!?」


 大陸の西南に位置する貿易国家であり、スェイス区からは香辛料や穀物を輸出し、こちらではあまり採れない鉄製品を輸入している大事な商売相手。

 その王家のみに使用を許された印が、封蝋には刻まれていたのだ。


「……間違いない、本物だ」


 サトゥルは机の引き出しから過去に送られてきた封蝋を取り出し、巻き手紙に付けられた物と比較してみたが、形は完全に一致していた。

 もちろん、精巧な偽物という可能性もあるが、王家の印を偽造などすれば問答無用で極刑である。ただの詐欺師が使うにはあまりにもリスクが高すぎる。


「…………」


 サトゥルは緊張のあまり唾を飲み込みながら、封蝋を外して巻き手紙を広げる。

 そこには、とても洗練された美しい字で、差出人の名が書かれていた。


「第一王女、アンジェ・オリゾン……」


 まだ十六歳という若さでありながら、その美貌と見識が他国にも知れ渡っている、青海王国の秘蔵っ子。

 そんな彼女の手紙に書かれていたのは、商人気質の国らしい端的な内容であった。


「手紙の持ち主、皇帝アラケルの話を聞いてやって欲しい、か……」


 青海王国の姫が自ら書き記した紹介状。こんな物を見せられてしまっては、どれだけ荒唐無稽な話であろうとも、信じぬわけにはいかない。


「会おう。今はどこに?」

「客間でお待ち頂いております」

「分かった」


 サトゥルは素早く身支度を調えると、文官と共に客間へと向かう。

 そうして、ノックをしてから扉を開けた彼を待っていたのは、皇帝を名乗るに相応しい、輝く金髪の美青年だった。


「はじめまして、サトゥル殿。今日は急な訪問にもかかわらずご面会頂けた事、厚く礼を申し上げる」

「い、いえ……」


 椅子から立ち上がり、優雅にお辞儀をする美青年が放つ、自然と人を平伏させる雰囲気に気圧されて、サトゥルは思わず声を詰まらせてしまう。

 そんな彼に対して、皇帝は穏やかに微笑んだ。


「自己紹介が遅れたが、余は白翼帝国の皇帝・アラケルと言う」

「ご高名はかねてより存じ上げております、皇帝陛下」


 慌てて襟を正し、挨拶をするサトゥルに、皇帝はあくまで親しげに語りかける。


「アラケルとお呼び頂きたい。過去の栄光は歴史の波に消え、今や皇帝とは名ばかりの、小さな国の領主にすぎぬ」

「ご謙遜を」


 サトゥルは笑い返しながら改めて考え込む。


(本当に何の用事で尋ねてきたのだ?)


 自慢にもならないが、このスェイス区には見るべき物など何もない。大陸のほぼ反対側で暮らす領主が、わざわざ観光に訪れるような場所ではなかった。


(貿易をしたいのならば、青海王国を通せばよいだけの話だ。それに――)


 サトゥルは皇帝の背後に立つ、二人の騎士を窺う。

 文官から聞いた話によれば、皇帝の連れはこの二人だけだったという。


(一国の領主がこんなにも少ない護衛だけで、魔物や嵐によって沈むかもしれない船旅をして来るなど、正気の沙汰ではない)


 そう混乱するサトゥルは、当然ながら知らない。

 皇帝はそもそも船旅などしておらず、食べ歩きが趣味で少し前にスェイス区を訪れていた凸凹コンビの異能によって、一瞬で帝都からここまで来ていた事を。


「それで、この度はどのようなご用件でしょうか?」


 結局、考えても分からなかったため、サトゥルは率直に尋ねる。

 それに対して、皇帝は笑みを崩さずに告げた。


「スェイス王国、その名と王冠を取り戻したくはないだろうか?」

「――っ!?」


 柔和な表情とは真逆の物騒極まる台詞に、サトゥルは背を震わせて凍りつく。

 戦争に敗れ、大王国の支配する一地区に落とされたこの地が、国王の下に王国へと返り咲く。

 それは即ち、赤原大王国への反乱に他ならなかった。


「は、ははっ、何を仰っているのか分かりませんね」


 サトゥルは思わず乾いた笑い声を上げて、聞かなかった事にしてしまう。

 けれども、その反応に――すぐに衛兵を呼び寄せ、大王国の敵を捕らえるよう命じなかった事に、皇帝はさらに笑みを深めた。


「我が白翼帝国の噂はご存じかな?」

「……異世界から強大な悪魔を召喚したというものですか?」


 青海王国の交易船を通じて、その噂は少し前に伝わっていた。

 けれども、帝国からとても遠く、また三百年前もあまり被害を受けなかったこの地の民は、誇張されたホラ話としか思っていない。

 サトゥルもその一人であった。今この時までは。


(まさか……)


 話の流れを察し、冷や汗を浮かべるサトゥルに、皇帝は今日初めて笑みを消して、真剣な表情で告げた。


「王冠を取り戻す気があるならば、その強大な悪魔を一人、貴方にお貸ししよう」

「――っ!?」


 皇帝の鋭い瞳に射貫かれ、サトゥルはもう笑って誤魔化す事などできなかった。


(本気、なのだ……)


 天を裂き地を割る伝説の悪魔が実在するなんて、今でも信じられない。

 だが少なくとも、目の前の青年は嘘など吐いていない。

 大王国の兵を打ち破り、反乱を成功に導けるだけの戦力を、本当に貸し与えられると思っている。


「…………」

「お望みとあらば証拠をお見せしよう」


 押し黙るサトゥルの前で、皇帝は奇妙な小箱を取り出しながら、背後の窓を指さす。

 そこに見えるのは、かつての王宮をわざわざ取り壊し、スェイスの民を奴隷のようにこき使って建て直させた要塞。サトゥル達を監視する大王国兵達の駐屯所。


「余が合図を送れば、其方らの言う悪魔――アース人があの忌まわしき要塞を焼き尽くす手はずとなっている」


 そう言って、皇帝は奇妙な小箱を掲げて見せる。


「常闇樹海を焼き払った立役者にとっては、あの強固な要塞も藁の家と変わらぬ、と言っても、その凄さは分かっては貰えぬだろうが」

「…………」


 苦笑を浮かべる皇帝に対して、サトゥルは即座に答える事ができなかった。


(あの要塞を焼き払う……)


 ヴァイナー大王に露見した時の事を恐れてか、市民を殺して労働力を減らすような真似こそしなかったが、婦女子に暴行を働いたり、税金に加えて賄賂を搾り取ったりして、彼らスェイスの民を虐げてきた大王国兵のたまり場。

 それを抜きにしてもあの要塞は、サトゥルから両親も、王族の地位も、故国も奪い取った憎悪の象徴でしかなかった。

 本音を言えば、今すぐにでも焼き滅ぼして欲しい。

 だがそれは、赤原大王国への宣戦布告と同義であった。


(私の一存で、勝手に戦争を起こしていいのか?)


 スェイスの民は誰もが大王国を恨んでいる。サトゥルと同じように両親を殺されたり、子供を奪われたりした者が大勢いるからだ。

 だから、元王子の彼が立ち上がって反乱を起こせば、ついてくる者の方が多いだろう。

 けれども、前の戦争から十年以上が経ち、憎しみや悲しみを胸の奥に沈め、重税にも耐えて静かに暮らす事を望んでいる大人達も、当時の事を何も知らない子供達もいるのだ。

 そんなサトゥルの葛藤を読んだように、皇帝は言葉を付け足した。


「気が進まねば遠慮なく断って欲しい。だがその場合、他の区長に同じ話を持っていく事になるが」

「それは……っ!?」


 ハメられたと、サトゥルは驚愕と恐怖に凍りつく。

 元は六つの小国が集まった六緑連合王国。それが今は六つの区にされたわけだが、そこの住民は誰もがスェイスの民と同じくらい、赤原大王国を恨んでいる。

 彼を含め六人いる区長のうち、誰か一人は積もり積もった憎悪に負けて、皇帝の甘言に乗るだろう。

 そうして一つ反乱の炎が上がれば、たちまち他の区域にも広がり、六緑連合王国を復活させるための戦いへと拡大していく。

 つまり、ここでサトゥルが首を縦に振ろうと横に振ろうと、戦争になる未来は変えられないのだ。

 違う事はただ一つ。反乱の口火を切った責任と栄光を、誰が引き受けるかという事。


「大王国軍を退け、六緑連合王国を復活させた盟主となれば、貴殿を臆病者と誹る者もいなくなるであろう」

「――っ!?」


 気遣うように見せて追い詰めてくる皇帝に、サトゥルは今日何度目とも分からない戦慄を覚えて項垂れる。


(全てご存じという事か)


 区長達の経歴をできる限り調べて、その上で一番懐柔しやすい相手と見込んだからこそ、最初にサトゥルの元を訪れたのだろう。

 そんな皇帝の判断は、実際正しかった。


(私は、憎い……)


 両親を殺した赤原大王国が。そして何よりも、無様に生き延びた自分自身が。

 命乞いをした自分を見下ろす、ヴァイナー大王の冷め切った目が忘れられない。

 腰抜け王子と蔑みの目を向けてくる若者達よりも、仕方がなかったのだ、若だけでも生き残ってくれて良かったと、励ましてくれる老人達の優しさが辛かった。


(あの時に死んでいれば良かった、とまでは思わない)


 生き延びたお陰で妻を娶り、子宝を得て、夫や父親としての幸せを得ることができたから。

 それでも、男として、王子として、両親の敵に屈し、重税に苦しむ民を救ってやれない自分自身が、殺してやりたい程に憎くて堪らない。


(この憎しみと苦痛を抱えたまま、惨めに生きていくしかないと思っていたのに……)


 目の前で悪魔のように微笑む皇帝が、それを晴らす手段を持って来てしまった。


(この男が自分達の都合で、私達を利用しようという魂胆は分かっている)


 最近、大王国軍が普段の税とは別に、六区から食料を大量に徴収して、どこかに運んでいくという事があった。

 おそらく、戦争の準備をしているのだろう。そして、攻め込む先は白翼帝国で、皇帝はそれを何とか避けるために、六区で反乱を起こそうとしているに違いない。


(他国への侵略戦争と国内の反乱鎮圧、どちらを優先させるかと言われれば後者しかない)


 赤原大王国が戦で従属させてきた国は、何も六緑連合王国だけではなかった。

 反乱の炎を放置すれば、それらの国々にも燃え広がって、大王国全土が焼き尽くされてしまう危険性がある。

 だから、反乱が起きればそれの鎮圧に向かうため、侵略用の軍隊は引き上げるしかない。

 簡単に言うと、帝国は自分達が助かるために、サトゥル達を生け贄にしようとしているのだ。


(そんな事は分かっている、分かっているが……っ!)


 胸の内で燻り続けてきた黒い炎が囁くのだ。惨めで苦しい生を続けるくらいならば、両親の敵に一矢報いて死にたいと。

 上手くいけば国を取り戻せ、民を重税から解放し、連合王国の盟主となり、妻や子供に胸を張れる男になれると、甘い夢が脳を蝕んでくるのだ。


「…………」


 無言で返事を待つ皇帝の前で、サトゥルはゆっくりと顔を上げる。


「両親を殺され王冠を奪われたあの日、私は悪魔に魂を売って生き延びた」


 そう、既に一度死んだ人間なのだ。


「ならばこそ、悪魔の手を取る事を、今さら恐れたりはしないっ!」


 死んでいた瞳に炎を灯して、サトゥルは過去の自分と決別する。

 そんな彼を見て、皇帝は今日初めて演技ではない、本心からの笑みを浮かべた。


「やはり、貴方は王だ」


 手にしていた奇妙な小箱――トランシーバーのスイッチを入れる。


「自らの夢に民を巻き込み、それに心を痛めながらも突き進める、強欲で強靭な国王だ」


 貴方で良かったと、皇帝は嬉しそうに微笑みながら、トランシーバーに向かって破滅の声を響かせる。


「聞こえるかな、竜司よ。お待たせして申し訳ない、存分に焼き尽くしてくれ」

『はっ、遅すぎんだよ!』


 不機嫌そうな台詞とは裏腹に、嬉々とした舌なめずりがトランシーバーの向こうから返ってくる。

 そして、サトゥルが不思議な小箱について尋ねる暇もなく、窓の外が眩く輝いた。


「なっ!?」


 太陽が落ちてきた。そう錯覚するほど巨大な火の玉が、要塞の上に出現していた。


「何事だっ!?」


 当然、要塞に駐屯する大王国の兵達も、すぐ異常に気がついて空を見上げる。

 そんな彼らの上に、逃げる暇もなく巨大な火の玉が落ちてきた。


「「「――っ!」」」


 悲鳴は上がらなかった。悲鳴を上げる暇もないほど一瞬で、外に立っていた兵士達は肺の中まで焼き尽くされてしまったからだ。

 苦しまずに死ねた彼らよりも、要塞の中にいた兵士達は不幸であった。

 熱帯地方で元より暑い空気が、熱湯を超える温度の熱風と化し、全身の肌が焼けただれながら酸欠にのたうち、数分間も地獄を味わったのだから。

 そうして、三百人はいた大王国兵達が一瞬で死に絶え、柱や天井に使われていた木が焼け落ちた要塞は、轟音を立てて崩れ落ちた。


「これが悪魔の力……」


 自分達を十年以上も苦しめ続けた象徴が、十分もせずにこの世から焼き尽くされた光景に、サトゥルはこの目で見ながらも信じられず呆然と立ちつくす。

 そんな彼の肩を、皇帝が優しく叩いた。


「サトゥル殿、いえサトゥル国王。この力が必ずや、奪われた六緑連合王国を取り戻すだろう」


 その戦いが今始まったのだ。かつてのように逃げる事は許されない。


「えぇ、必ず取り戻します」


 奪われた誇りも全て。スェイス区改めスェイス王国の国王サトゥルはそう心に誓い、焼け落ちた要塞から流れる黒煙を見つめるのだった。

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