第三十四話 仇桜作戦(2)
時に障害物を避けようと跳躍し、道を変えて突っ走る。
オーガ率いる魔物の群れと交戦してから暫くした後、魔物側がこちらの動きを察したのかまるで進行を止めようとするかのように魔物の群れが立ちはだかった。無視するには多すぎるゴブリンの群れや先程と同じオーガ率いる魔物の群れと既に何回か戦っている。
目標地点となるダンジョン目掛けて御月と共に駆け抜けているが、ここまで共に戦っていて確信した。やはり彼女は強い。
先程群れと交戦した際、文字通り命を捨て特攻を仕掛ける魔物を一蹴していた。彼女の動きには安定感があり、こんな雑魚相手であれば絶対に負けないだろう。
前方を走る御月を眺める。彼女と戦うなら、何にだって負けない気がした。
彼女が急停止し、少し上を見上げた。土煙の勢いに草木が揺れる。彼女に合わせて止まり、天を仰げばそこには見たことのある魔物共の姿。
「キシャァァァアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!」
その甲高い叫びが耳に突き刺さる。そこにははるか上空にいる四体のワイバーン。加えて低空飛行をする数えきれない数のインプ。
奴らが滞空し翼がバタン、バタンと叩くような音を上げていた。
それを見た御月が月華を振るい、掲げて霞の構えをとった。
「おそらくここが山場だ。いくぞ玄一」
そう言った彼女は月華に霊力を込め始め、その輝きが一層増した。手始めとばかりに月華をその場で振るい、
「残月!」
斬り上げる。
月華から月の刃が飛んでいき、金色の光を描いた。彼女の能力は遠距離攻撃も可能なのかと驚く。
その空飛ぶ刃がインプをまとめて切り裂いて行く。しかしながら月の刃、残月の速度は速いとは言えず、ワイバーンが翼をはためかせ簡単に回避した。
彼女の能力は対空攻撃に乏しいのかもしれない。直接跳躍してぶった斬る訳にもいかないし難しいだろう。
「上のは俺が獲ろう。御月はインプを頼む」
地に手を着け『風輪』を唱える。
「吹き荒れろ! 霊峰の風!」
体を風が包む。はるか上空。やつらに肉薄するため、自らの装備の後背部に霊力を込める。
俺は今、テイラーからこの装備を受け取ったことを思い出していた。
タマガキを出立する直前の日。仕立て屋ていらに寄った俺は、店主かつ仕立物師であるテイラーに招き入れられていた。
「”血浣熊”の性質?」
「ああ。こいつの首の部分の素材はかなり丈夫で、霊力を通した時に伸びる性質がある。その上、伸ばした状態の皮を少量の魔力や霊力で自由自在に動かせることがわかった。それで、お前の戦い方を聞いていた時に思い付いてな。見てみろ」
彼が投げて寄越したものはマントだった。それにはなぜか中央に大きく切れ目が入っており、二枚に分かれている。防具としての性能に不安を感じた。
「そら、そいつを着けて霊力を流せ」
しぶしぶ彼に言われた通り霊力を流してみると、マントが全体的に大きくなる。彼の言う通り流す量や場所を調節することによって、まるで手足のように操れた。
「俺は昔翼を生やす防人を見たことがある。その再現だ。お前の練習次第だが、使えるだろう」
彼がキセルを吹かした。
霊力を込めたマントが伸びてその姿を露わにさせる。『風輪』で生み出した風を大きく捉え、急上昇した。
無論、テイラーの言った翼を持つ防人のようにマントだけで飛ぶことはできないが、『風輪』で消費する霊力を大きく減らすことができる。彼に頼んでよかった。これは革命だ。
本来あるはずのなかった自らの翼をはためかせて、今までは出来なかった直角に方向転換するキレのある動きをする。奴らは空を自らの領域だと思い込んでいたようだが、ここからはもう俺の領域だ。
墜ちろ羽虫。
四体いるワイバーンのうち一体を急上昇するの勢いのまま回転斬りで叩き斬る。死体が墜ちていき地面に直撃した。
それを見た三体のワイバーンが同時に詰めてくる。左上、右、そして後方下から。これぞ空中戦。地上ではありえない三次元の戦い。
ああ。これぞ人の領域を越え神話の領域に足を踏み入れた防人の戦というもの。人類はずっと、空を飛ぶことなんて出来やしなかった。今俺はそれを簡単にしている。それが楽しくて仕方がない。
下にいる御月が目を見開いてこちらを見ている。いつか彼女も空に連れて行ってあげよう。まあ、彼女ならもう飛べるかもしれないが。
魔獣戦を経験したからだろうか。彼女に教えられ知恵を付けたからだろうか。こちらに飛んでくるワイバーンに恐れなど抱かず、ただただ一つ事実として捉えていた。焦りはない。
そんな中でたった一つの感情が俺を支配して、自然と笑みを浮かべる。
「楽しませろ!」
こちらの方が機動力は上。わざわざ待つ必要などはない。こちらから仕掛ける。
上より急降下してくるワイバーンに突っ込み、腕を横に大きく伸ばして二刀で切り裂いた。
そこから急降下。一回転して勢いを付け、別のワイバーンの首を真っ二つに切り落とす。打首獄門。
「キシャァァアア!?」
残った一体が困惑の声を上げる。それも当然。ここは今まで彼らの空であり、ましてやあちら側は四体。彼らにとって負ける要素は無かったはずだ。笑える。
困惑し隙を晒し続ける残りの一体を、脇差を振るい何度も太刀風を飛ばして斬り殺した。
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