第三十一話 作戦概要

 


 作戦の可決という形で、今合議は郷長の号令の元、解散となった。隊長たちは席を立ち、忙しなく本部を出ようとしている。事前に準備が行われていたとはいえ、作戦は想定より大規模なものとなる。追加で準備しなければならないものがあるのだろう。そんな彼らを呼び止めるようにして、奉考が手を上げて言った。


「各隊隊長にはそれぞれの任を追って通達します。それと、防人の方々には話があるので今しがた残っていただきたい」


 彼から防人に何か話があるようだ。既にその場を離れようとしていたアイリーンを止め、呼び戻す。この場にいる防人が全員が彼の元に集まったのにもかかわらず、彼は隊長たちがロビーを離れるまで彼は話を始めようとせず、ただただ黙っていた。


 防人と郷長以外の全員がロビーを去った後、やっと彼が口を開いた。


「今から聞くことは内密にお願いします。先の戦の後、上げられた報告書を読み込んでいたのですが、玄一さん。魔獣の首が空まで伸びたというのは本当ですね?」


「......? ああ。確かにそうだが」


「合計十体の魔獣が確認され、そのうちの半数が新種、ないしは確認されていない動きをしたとの報告が上がっています。玄一さんがタマガキ近郊で交戦した”血浣熊”もその内の一つです」


 真剣そうな表情をした彼がさらに続ける。


「これは既に南西に配されている防人の方達にもお伝えしましたが、決して戦略級といえど油断なさらないでください。何か変です。二ヶ月ほど前、東でも奇妙な動きをする魔獣が現れたそうで、踏破群がいたのにもかかわらず一度帝都まで肉薄されました。不確定な情報故に内密とさせていただきますが、お気をつけください」


 奉考が人差し指を立て口の近くに持っていく。その言葉に御月とアイリーンが心当たりがあったのか深く頷き、甚内が返答した。


「魔獣戦に油断などする気は無いが、今一度肝に命じておこう。それはそれとして、作戦の概要は分かったが最も重要である防人の配置が決まっていない。どのような形で組むんだ?」


 彼が張り出されているものとはまた別の地図を机の上に広げ、駒を手にする。それを並べた後、発言した。


「編成するにあたって、最も重要になるのは速さです。道中の魔物に対しては精鋭を先鋒に集め掃討し、後詰となる主力にダンジョンの攻略を任せ、皆さんの場合ですと北西方面に突っ走ります。最終的にはカムナギを囲むよう追い込んで、包囲。これが本作戦の流れです」


 明後日の方向を見ていたアイリーンが体の向きを変え、言う。


「そこまでうまくいくもんっすかね?」


「確信があります。敵の指揮を取っている個体は先の戦いを見るに賢いとはいえません。上位魔獣ではあるでしょうが、経験不足の魔獣でしょう。主導権を握れば必ずいけます」


 彼は確信に至る材料があるのだろうか。自信ありげだった。


「少々話がずれたが、話を聞く限り先鋒と後詰の二手に分かれるのは確定事項だな。それで、どうするつもりかね」


 その甚内の言葉に対し、彼が駒を新しく手に取り最前列に配した。彼が手に取った駒は他のものとは違い、軍配を手にした人の形をしている。


「今回の戦では、後方や後詰の指揮を郷長や他の参謀に任せ、私自ら前線に出て先鋒を担う隊の指揮を執ります。故に、先鋒となる防人の方々には戦闘のみに集中していただこうかと」


 なんて大胆。この男、自ら戦線に出るつもりだ。その言葉に御月と甚内は目を見開かせ、アイリーンは胡乱げな視線を飛ばしている。


 御月が視線を一瞬山名の方に移した後、確認するように口を開いた。


「......郷長は許可を出しているんだな?」


「ええそれはもちろん。最も、それぐらいしないと他の参謀たちも納得しないでしょう。そこらの兵士程度には動けますので、悪しからず」


「ならば私から言うことは無い」


 答えた奉考が喉を鳴らし、今度は刀を持っている意匠の凝った駒を手にしながら、続けた。


「機動力のある部隊を編成したいので、今回は先鋒を御月と玄一。後詰をアイリーンと甚内とします。他の部隊配置も明日までに必ずお伝えします。今作戦は防人の活躍が前提です。では、よろしく頼みます」


 彼がその手に持っていた四つの駒を二手に分けて配置する。張り詰めた空気。戦いがまた始まるのを肌で感じた。心が、躍る。







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