第四話 出撃
意気揚々と出撃しようとしたものの、どこから出るのかわからないというミスを犯してからはや数分。御月さんに教えてもらった扉から石階段を降り、二つほど門をくぐり抜けた。
その先にはタマガキの生存圏と魔物の領域の境目となる、防備の固められた櫓門がある。二階部分には兵が詰めており、敬礼を受けたので、返礼した。ここで彼らが突破されるようなことがあれば、タマガキは終わりなのだろう。
ここから、始まるのだ。自分の戦が。
感慨に浸る俺の姿を見て、後ろから御月さんが口を開いた。
「玄一。ここから先は魔の領域。とはいえ、この郷周辺は我々防人と防戦隊の尽力でかなり安全だ。油断しないのはいいが、緊張もしすぎるな」
振り返り、返事をする。
「はい御月さん。地図を見ましたが、ここからだいぶ先に、監視塔を中心にした基地があるんでしたよね。そこまでは安全だとか」
「そうだ。今回の我々の任務は、郷と基地の間の見廻りだ。本来は防戦隊の仕事だが、譲って貰った。行こう」
意を決して門をくぐり、魔の領域へ足を踏み入れた。
十メートルほどの高さになる木が立ち並ぶ森を歩く。急ぎ霊力を展開するも、魔物の気配は感じない。
空気は澄んでおり、静謐な雰囲気に囲まれ心地がいい。前方を進んでいた御月さんが急に立ち止まったと思うと、こちらの方を振り向いて、口を開いた。
「玄一。今回はこのような危険度の低い任務だが、今後危地を共にすることもあるだろう。互いのことを知っておきたい」
御月さんがその柔らかそうな頬を掻き、目を逸らしながら言った。
「なんというか......その、私は今年で十八になるのだが、今まで自分より年齢が低い仲間を持ったことがなくてな。何分戦場に長く居たもので、君のような子とどう付き合ったら良いのかわからない。本来は私が年長者としてリードすべきなのだろうが......」
そう躊躇いがちに告げた御月さんは不安げだ。その優しさに有難いと思ったが、困っている姿が少し滑稽だったので、ほんの少しだけ笑いが漏れてしまった。不安になるようなことは何一つないというのに。
それに何よりも、御月さんは非常に大人びた人だと感じていたので、十八だということに驚いた。
少し笑った俺の様子を見てその不安が的中したと思ったのか、なんか面白い顔になっている御月さんがいる。
「やはり何か変だったか......? すまないが、教えてくれると助かる」
「いえ、十八だということに驚いただけです。俺も、御月さんのことが知りたい。これから仲間になるわけですから」
それを聞いた御月さんは安心したのか、笑みを浮かべ、ウキウキしながら自信満々に頷いた。子供っぽい所作であるはずだが、何故か凛としていて、様になっている。
「そうだな。仲間になるんだから当然だろう。しかし、山名みたいなことを言ってしまうが、私は敬われるほどの人間でもないから敬語を使うな。御月と呼ぶだけで良い。さんはいらない。そちらの方が響きが良いし、君の声は通るから好きだ」
先ほど十八歳と聞いて驚愕したが、大人びていると思った理由の一つに、照れもせず、急に褒めてくるところがある。普通、こんなストレートに言えるものなのだろうか。かっこいいとすら感じる。彼女は女性にモテそうだ。
しかし先ほどの様子を見ると、それに反して感情豊かな人なのかもしれない。
彼女の要望に答えて、照れ臭く感じたが返事をする。
「それでは......御月。これからよろしく!」
御月がとびきりの笑顔で笑って答えた。また、見惚れてしまった。
先ほどの会話を終えてからなんだか打ち解けることができたようで、それから、新しい家はどうだの、あの甘味はうまかっただの、先ほどまではできていなかった雑談を続けつつ、辺りの警戒をしている。すると、御月が何故か身構えてこちらを見た。
「他にもいろんな話をしたいが、一応今は任務中だ。他は任務を終えてからにして、今は必要なことだけを聞いておこうと思う。玄一。君の
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