1. P-013

P-013。定期測定終了。本日AM6:30、意識は覚醒の為、マイノリティ未発動。 備考 検査員2名重症。1名軽傷。



「またか。」

「起きてりゃ女性職員一人でも取り押さえられるってのに。」

「たしかに。しかし、身体的膂力は小学生並みでも、マイノリティのレベルはかなり高い。同じようなサイコキネシス系統は大体脳の負荷に耐えられず一度に長時間の能力発動が出来ないし、そもそもマイノリティ保持者が短命だ。」

「その点この013は眠っている間という制約があるとは言え、全ての値が高水準です。操作出来る範囲も、質量も何もかもが極めて高いし、安定性も抜群。もしかすると、身体的能力の低さは、寝たきりだからじゃなくて無くこの高い能力に脳をーー」

研究員達は、去っていった。


わたしがいるのは、わたしのリアルの詰まった天井(立体映像壁面投影技術)のある我が家ではない。この天井も、この壁も、全ては真っ白。まっさらだ。その一面の白は、わたしに自由などない事をいついかなる時も教えてくれた。


ここへ来て、何日が過ぎたのだろうか。この部屋は時間が分からない。研究員が部屋に入る際に、ドアの外に見える窓。最初は、そこから見える夜を数えていたけれど、そのカウントが40を過ぎてから虚しくなってやめた。そもそも、眠っていて数えられていない日もきっとあるだろう。その40すらも、正確さに欠ける情報だった。

ピピッ。

わたしの横たわるベッドの脇についたランプが点灯した。どうやら移動の時間のようだ。このベッドは普段しまわれている足元のキャスターで移動出来るのだが、遠隔操作で自動で移動出来るようになっていて、たまにこうして部屋からベッドに乗ったまま連れ出される。ウィーンと音を立てて部屋のドアが開いた。わたしが夜を数えていた窓は、わたしが通る際は分厚いシャッターでしめきられる。脱走防止なのだろう。真っ白なシャッターを横目にため息を着くわたしを乗せて、ベッドは右に曲がり、唯一開いているドアへ引き寄せられて行く。あの部屋は、わたしがこの場所に、このコクーンに連れてこられて最初に目が覚めた部屋。学習室だ。こんな閉鎖環境でも、コクーンでは、最低限の教育を受ける。基本は、液晶で出来た机に映る教科書を、AIの自立ロボットが淡々と読み進める様を、1人で聞いているだけで、無機質に響く人工知能の機械音声で行われる授業は虚無でしかない時間で、わたしはとても嫌いだった。

学習室に入ると、わたしの通ったドアはスっと音もなく閉まった。普段はそれを合図に、自立型AIが起動し、授業が始まる。このコクーンについて、マイノリティについて、最初に説明を受けたのも、そう言えばこの血の通わない先生からだった。しかし、今日は様子がおかしい。AIは沈黙したままで、入ってきたドアと対面するドアが開いたのだ。ベッドはその新しいドアに吸い込まれる。今まで行ったことのないその空間が、わたしは少し怖かった。

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