To be COCOON

雪。

プロローグ

眠る。 それは、生物が周期的に繰り返す、意識を喪失する生理現象。


眠る。 それは、一日の終わりにして、リセット。疲れから、孤独から、後悔から、退屈から、自らを守る最後の砦。


眠る。 それは、幸せの確認作業。楽しみな明日を、愛する人の隣を、生きている喜びを、迎える為の準備の時間。


一重に眠ると口にしても、色んな意味合いがあると思う。ただ、共通して言える事は、眠りは日常のたった一部分であり、それは、おやすみに始まり、おはように終わる生物の休息期間であると言うこと。


だけど、わたしにとっては少し違う。

眠る。 それは、わたしにとって、わたし自身の覚醒であり、恐怖であり、衰退である。

『眠る』が、『覚醒』とは。相反する矛盾をイコールで繋ぐ自分の文章の拙さを鼻で笑ってしまいそうになるが、これがまぁ事実なのだから仕方ない。


わたしは、先天的な脳機能障害だ。抗えない強烈な眠気に襲われ、不意に眠りに落ちてしまう。さらに一度眠ると、一日の3/4は眠ったままと来たもので、身体を動かすと更に眠気は増してしまい、無理に動いた日には、決まってカレンダーの日付が軽やかにスキップをかます。

青い空で目ざめ、黒い空で眠る。そんな当たり前をこなせないわたしは、なるべく体力を使わない為に、他の人の四半以下の短い一日を、沢山の本を読んで過ごしていた。と、言っても実際の分厚い本を運ぶ事は難しいので、わたしの読書は、天井に書かれた作品(わたしにとってのリアル)を読むことで行われる。この不自由な身体でも、本の中のわたしは、自由に冒険し、親友と語り合い、素敵な男の子にときめく事が出来た。

紙に触れる事は出来ないけれど、この天井に投影される本を読み、ストリートビューで仮想旅行をし、こんな自分にも仲良く接してくれる数少ない友人とチャットで会話をした。たまには、ゲームもした。可愛いキャラクター達が、それぞれの得意な攻撃で戦い、自分はそれを指示する。勝つ為には、そのキャラクター達を育成して、最適な指示を出さなければならない。ゲームの中のわたしも、可愛い仲間と共に冒険し、最強のブリーダーを目指している。オンライン機能で知らない人と戦う事もあった。自慢じゃないが、その界隈ではそれなりに有名だ。動画投稿でも始めれば、少しは稼げるかも…なんて考えていた。障害があってもわたしはわたし。不自由なのは、眠ってしまう身体だけ。


そう、思っていた。

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