その後の浅羽編 1
「おはようって言ってみてよ、総ちゃん」
どれぐらいぶりだろうね。総ちゃんが学校に来るのって。
梅雨っぽくないままの梅雨がもう明けそうな7月。
玄関を出たところに、久しぶりの制服姿の総ちゃんが立ってて、俺を待っててくれて。嬉しかったよね。あ、総ちゃんだって。
ずっと総ちゃんの左側に、向かって右側にあった蔦模様がなくなってて、お花さんが総ちゃんの中に見えなくて、お花さんどうしたの?って聞いたら、うちで寝てるって総ちゃんは言った。
その、『うち』って言い方に含みがあって。あるように感じて、総ちゃんのちょっとした表情の変化とかね。え?ってなってたら、俺引っ越したって言うからまたびっくりだった。
え、何よって聞いたらここから何駅かのところでお花さんと暮らし始めたとかさ。どういうこと?だよね。
でも、引っ越したのにわざわざウチまで来てくれたって言うじゃん。
そしたら思うよね?総ちゃんってば、どんだけりっくんが好きなの?だよね。
まあ、そう言ったら総ちゃん得意の負ってる、見られたら凍りそうな目で見られて、総ちゃん、雰囲気変わったけどそれやるのは相変わらずだねって笑った。
そんな朝、からの、教室ね。
初めての、総ちゃんとの登校。ふたりでの登校。そしてそのままの流れで教室。
何でわざわざ来てくれたの?って聞いたら、お前には世話になったし、迷惑かけたからさって。
照れ臭そうにボソボソ言う総ちゃんは、負ってるオーラが本当にすっかりきれいになくなってて無駄にイケメンで無駄に注目を浴びてた。
蔦模様はなくなってても、右目は赤いままで、それはまだ隠したいみたいで前髪が少し長い。でもって右手ね。いつもしてる黒の革手袋もしてる。
それは一緒。変わらない。なのにね。
空気が違うだけでイケメン度増し増し。うっかりときめくでしょ。そんなさ、へへって顔で笑うとか。
ほら、絶対もうきゃーじゃん。言ってるでしょ。聞こえてるでしょって思うのに、言うのに、総ちゃんは認めてくれない。頑な。
で、スタートに、冒頭に戻ってね。
おはようって言ってみてよ。に。
誰にだよって、総ちゃんはボソボソ。
久しぶりに教室に姿を現したってだけでも注目なのに、イケメン度増し増し。プラスで俺と喋ってるでしょ。『あの』総ちゃんが。更にプラス笑ってるでしょ。『あの』総ちゃんが。
「そこの女子でいいから。言ってみ?」
総ちゃんの後ろね。顎でくいって示す。
「それできゃーがなかったら、かわいいカフェでりっくんとパフェはなしでいいよ」
「え?まじ?」
「まじ」
「絶対だぞ。絶対だからな」
人差し指で俺を指して。そして総ちゃんは振り返って言った。
「………おはよ」
賭けはもちろん。
俺の勝ち。
「りっくんとパフェ決定だね。総ちゃん」
「………」
撃沈した総ちゃんに、笑った。
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