その後の浅羽編 2

 俺が勝つに決まってる賭けに当然俺が勝って、総ちゃん今日予定ないって言うから善は急げで来た学校近くのカフェ。






 ここね、かわいいんだよ。



 とてもじゃないけど男ふたりでなんて来られないのよ。来てるけど。






 俺もね、たまたまテレビで見ただけで、入ったことはない。今日が初。



『森の仲間』なんて、メルヘンちっくな名前のカフェで、丸太小屋イメージなのかな?



 テーブルとかもそう。木でさ。森の奥の丸太小屋ってこんな感じかもねって感じの。






 通された店内。



 テーブルにいつつけるのか夜つけるのかのキャンドルがあって、観葉植物やお花もあって、森の仲間らしき動物がちょいちょい居る。



 ディスプレイの棚や、席と席の仕切りみたいなやつのとことか。



 デカいくまさんとかじゃないよ?小動物ね。






 俺が座った席からは、どんぐりを持ったりすさんが見えてる。こっち見てる。






 総ちゃんが最高に居心地悪そうで、最高に負ってて笑える。顔が勝手に笑う。



 それ見て総ちゃんは負。めっちゃ負。






 で、ここは、森のパフェっていうのが人気なんだって。インスタ映えっていうの?イマドキの。そんなパフェらしくって、女の子がわんさか。






 さすがに今日はど平日だから、テレビで見たときよりもすいてた。って言っても席の8割ぐらいは埋まってる。女子女子女子。あっちもこっちも女子女子女子。



 男なんて俺と総ちゃんぐらいじゃない?



 だから余計だよね。総ちゃん負っちゃって負っちゃって。どんどんどんどん負っちゃって、もうイケメンが台無し。どよんどよん。






 何が嬉しくて俺とお前でここ?だって。



 それは総ちゃんが賭けに負けたからでしょ?






 照れ照れ総ちゃんからのおはように、教室は悲鳴とどよめきだったじゃん。みんな見てたからね、注目の中のおはようだったからね。若干パニックだったよね。プチパニック。飛田総介どうした⁉︎ってね。






 早く帰りてぇって嘆いてる総ちゃんをりっくんスマイルでスルーして、水とおしぼりを持って来てくれたお姉さんに森のパフェをふたつ頼んだ。






「………せめてメニューぐらい見たかった」

「いいよ?次に来たときにねv」

「………次。次ってお前」

「今度は何で賭けしようか」

「しねぇよ、もう」

「えー?何で?負けるから?総ちゃんはびびり屋さんなのかな?」

「………」






 しばらく黙ったあと、総ちゃんはもう好きにしてって苦笑いをした。






 視線がね、もう自然にね、集まってるよね。ここに。俺たちに。



 男ふたりだし、総ちゃんコレだし、俺。






 俺は、テーブルに肘ついて、組んだ手の上に顎を乗せて、ちょっとサービス。






 何へのサービスかって?



 そんなの決まってるでしょ。好奇心旺盛な女子たちへのサービスだよ。かわいいでしょ?コレ。



 ほら、カップルに見えない?俺キラキラと総ちゃん見てるでしょ。総ちゃん笑ってるでしょ。苦笑いだけど。






「………よく楽しめるな、お前は。コレを」

「うん、ごめん。俺今すんごい楽しい」

「………俺にはお前が分かんねぇよ」

「分かんねぇって?簡単だよ。俺はりっくん」






 って、言ったら。



 総ちゃん得意のフリーズ。






 固まって。ぎちって。



 てんてんてんって、沈黙。



 沈黙っていうより、言葉を失う?






 で、おもむろに右の耳の上あたりをぼりぼりぼりって掻いた。






「ずっと聞きたかったんだけど」

「ん?」






 真面目な顔。



 真面目な声。



 真面目な目。






「りっくんて何」






 その真面目さでまさかのその質問。



 もう俺は爆笑。






 総ちゃんって絶対面白いよね。絶対かわいいよね。もう抜群だよね。



 だからね、総ちゃん。






「え?かわいいでしょ?」






 ついついやっちゃうんだよ。色々。






 ぎちっ。







 音聞こえた?今。聞こえなかった?



 総ちゃんがまたしてもフリーズした音。






「ねぇ、総ちゃん。ちょいちょい返事に困ってフリーズするのやめない?」

「………お前のせいだろ」

「総ちゃんもりっくんって呼んでね」






 ぎちっ。






 今日は何回この音聞けるんだろう。






 顔がやっぱり勝手に笑っちゃって、明日はほっぺた痛いかも、とか、思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る