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コンコンって、ノックの音で目が覚めた。
廃工場ではなく、俺の部屋の、ベッド。
何でうち?って思って。
そうだって。
今日の夜から、タキが大丈夫なら1週間離れの部屋で寝泊まりが始まる。
逃げない毎日が、始まる。
陰と陽だから。許されない関係だからと、息を潜める毎日は今朝で終わった。
今日、今夜からはもう違う。
その記念すべき第1日目は、どうしても朝まで起きていたくて、昼ご飯を篤之とゆう兄と3人で食べた後、部屋に戻って寝た。寝溜め。
コンコンコン
ノックがもう一度、響く。
「俺だよ。総ちゃんのお友だちのりっくん」
え?浅羽?
てっきり篤之だと思ってたから、ちょっとびっくりして、寝起きで回らない頭のまま、どうぞって起き上がった。
「お邪魔しまーす。って、ごめん寝てた?」
「………寝てた」
「おはよ。貴重な寝癖ショットだね。いいもの見たよ」
学校帰りらしく、制服姿の浅羽は笑いながら入ってきた。
「総ちゃん居るって裕一さんに聞いたから、来ちゃった」
「………言い方な。気持ち悪いわ」
「気持ち悪いって、失礼だね、総ちゃんは」
また笑って、今日もお花さんが居るねって。
俺の蔦模様の左を見て。タキのことを。
そのまま浅羽はよいしょって、ごく普通に、前と同じようにリュックをおろしながらベッドを背凭れにして床に座った。
「学校からのお届けものね」
「………ああ、さんきゅ」
「来週ぐらいから来るって、さっき篤之さんに聞いたけど、ほんと?」
「………え?あ………ああ、まあ、落ち着けば」
「落ち着けば?」
「うん、ちょっとな」
別に、浅羽はうちの生業も、多分多少の事情も知っているし、タキの何かが見えてるんだから、色々話してもいいんだろうけど、まだ、俺が。俺とタキが1週間後マンションに引っ越してすぐにすぐ落ち着いて、タキをひとりマンションに残して学校に行けるかって。分からないから。
濁した。はっきり行くとは。
篤之は、引っ越したら行けると単純に思って言ったのか、そろそろ出席日数を心配して、行けっていう意味を込めて浅羽に言ったのか。
「先生たちには篤之さんがうまく言ってるみたいよ。家庭の事情で、仕事で、的な」
「………うん」
「遅れてる分は、夏休みの補習で何とかって」
「………うん」
浅羽は言いながら、リュックの中からプリントやノートのコピーを出して、はいってまた。くれた。
「どうしちゃったの、総ちゃん。今日はあんまり………っていうか、もう全然負(ふ)ってないね。やめたの?負るの」
「やめたっていうか………。やめざるを得なかったっていうか………。かな」
「そうなの?」
「うん、そう」
はいって。渡されたまんま。
浅羽は、渡してくれたまんま。
じっと俺を見て。
俺も浅羽を見て。
見て。
「何かちょっと、嬉しそうだね。総ちゃん」
嬉しそう?
自分ではよく、分からない。
気持ちは随分、変わったは変わった。
タキと出会ってから、出会う前とは。
「りっくんに会えてそんなに嬉しい?」
「………違ぇわ」
ふたりでそのまま、笑った。
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