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「父さんは個室に居るし、今の状態では大して言い返すこともできない。ハッタリでも何でも、周りのことは気にせず言いたいことを言えばいい」
家から篤之が運転する車で15分ぐらいのところにある大学病院に着いてそう言われた。
「………ハッタリだよ」
「だから、ハッタリでいい」
「いいのかよ」
「総ちゃんのハッタリはハッタリに見えないから大丈夫」
「………あのさあ、ゆう兄。笑いながら言うのやめてくんない?ってか篤之も笑ってんじゃねぇ」
「ごめんごめん」
「………」
ハッタリ、で、ふたりが思い出してるのは、昨日のあれだ。
ふたりにばかうけされた俺の一世一代のハッタリ。
ゆう兄の肩が揺れている。
篤之はこっちを見ないまま俺にマスクをよこした。
蔦模様の顔を隠すために。
だから俺はマスクをして、持ってきた長袖のパーカーを着た。
でも、いつもしている右手の革手袋はしなかった。持ってこなかった。
さすがにそれは怪しさ倍増で、最悪警備員に止められたりするかなって。心配で。
そのかわり、袖を最大限伸ばして、指先まで両手を隠した。
人が多い大学病院。
タキの陰の気で、ただでさえ人目は引く。どうしたって見られる。
でもそれ以上は目立たないように、と。
早足で歩く篤之の後ろを、ゆう兄と俺で着いていった。
そして入った個室。
ベッド。点滴をされて、目を閉じて横になっている顔色の悪い親父を見て。
一気に老け込んだなって、思った。
俺たちが………タキの陰の気をぷんぷんさせる俺が病室に入ったのに、目は閉じたままで身動きひとつしない。
え、生きてるの?
いや、当然か。
ごく普通の陽でしかない親父が、タキの生の、モロの気を、花が咲いて普段より強い気を放つタキと対峙したんだ。その蔦に絞め上げられたんだ。
その後ゆう兄に浄化もしてもらっていないんだ。
それで動ける陽なんて、多分居ない。
俺とゆう兄以外、は。
「父さん、昨日より少しはいいですか?」
篤之がベッドに近づいて聞くと、布団から出ていた点滴の左手がぴくりと動いた。
それでやっと分かる。生きてるんだな。
ここからだと死んでるようにしか見えない。
果てしなく冷めた気持ちで、俺は親父を見ていた。
さっきまでは、親父を見るまでは、もう少し違ったのに。冷静だったのに。そのつもりでいたのに。
見たら。親父を。
やっぱりまだ、タキを、タキの蔦を傷つけやがってって思いが。沸いて。わき出てくる。
「父さん。今日は総介さんを連れてきました。分かりますか?」
ぴくり。
また。左手が、動いて。
最悪な顔色の親父の目が。うっすらと開いて。
俺を、とらえた。
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