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 そこに住んでいることが、母さんにできたお前や父さんへの最大の愛情表現だったんだよ。






 色んな。



 やっぱり知らなかった色んな事情を聞いて、篤之が言ったその言葉に、俺は。






 整理が、つかなかった。感情の。



 ごめん、とか、何で、とか。






 そこに。



 すぐそこの、母屋と同じ敷地内に住むことが、母さんにできた最大の愛情表現。






 聞いた。






 まだ相当若いうちに、自分の意思とは関係なく母さんと父さんは結婚させられた。



 陽の血のために。後継ぎのために。



 でも母さんはずっと、全然子どもができなくて、諦めて養子を迎えるってタイミングで俺ができた。



 長子が後を継ぐというしきたりのこの家に、養子である篤之と、実子である俺。実子である俺は、姿からして異端、で。






 母さんは、ちょっと疲れたんだよ。色々ありすぎて。






 庇うように、篤之は言った。






 入院もして、その精神状態から、もっと離れて暮らした方がいいと、無理矢理結婚させられたのに、今度は離婚しろと、母さんはせまられた。



 それを母さんは拒否した。断固として。






 拒否した理由は。






 父さんの、そばに。



 俺の、そばに。






 精神的に不安定で、自分には何もできない。迷惑しかかけられない。でも、できなくても。居たいから。そばに居たいから。大切に、思っている、から。






「今は随分落ち着いてる。俺を見ても取り乱したりしなくなった。いつか総介にも会いたいって言ってる。何もできなかった自分を、お前が許してくれるならって」

「………」






 背景を知ると、もう、逃げ道はなくなるんだな。



 言い訳が、できなくなるんだよ。



 行くしか。前に。こわくても、予想がつかなくても。






 こんな俺だから。



 産んでくれた人にさえ捨てられた俺だから。



 そうやって拗ねて、何もかもを面倒って言葉ひとつに集約して何もしてこなかったことから。ところから。もう。






 ごめん。



 知らなくてごめん。



 知ろうとしなくてごめん。



 逃げててごめん。






 何か言ったら、うっかり泣きそうだった。






「………あとはクソ親父だな」






 黙って下を向いてたら、篤之が。続けて面倒くせぇって聞こえた。心底の。






 ぼやき、だな。






「心の声が思いっきり漏れたぞ、今」

「気のせいだよ」






 それに突っ込むゆう兄で。しれっと答える篤之。






 最初から、あったのかもしれない。



 ないと思っていたものが。知らなかっただけで。知ろうとしていなかっただけで。






 存在の、意味。そして、価値。






 そうかもしれないけど。ずっと俺は勝手にないって思ってて。知れたのは。今、知ったのは。分かったのは。



 タキが、居たから。タキと、こうなったから。






「片付けてくる。片付け終わったら行くぞ。その面倒くさい親父のところに」

「………うん」






 ごちそうさま。






 皿を下げる篤之に言った俺に、篤之はふんって、笑った。

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