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「ちょっとそうちゃん、お願いだから月曜日の朝からその恐ろしすぎるぐらい恐ろしい負のオーラ発するのやめてくれません?」

「………」

「だからそれね。凍てつくよ?凍てついてるよ?空気。今は6月だよ?総ちゃんのただひとりのお友だち、りっくんのお誕生月だよ?凍てつかせてどうするのよ」

「………」






 俺の名前は飛田総介。私立高校に通う2年生。






 教室。



 席。



 朝。



 始業前のざわつくクラス。



 窓際の俺の席。






 窓の外を見てた俺の前に座って、にやにやしながらべらべら喋ってるのは、同じクラスの浅羽陸都あさばりくと。隣の家に住んでる自称幼馴染み。






 残念だけど、俺に『幼馴染み』っていう認識はない。



『隣に住んでるやつらしい』程度。






 何故なら俺は小さい頃から家業を手伝わされていて、誰かと遊んだ記憶がほとんどないから。



 隣に住んでるらしい浅羽然り。






 っていうか、ずっと知らなかったし。隣に住んでることさえ。






 だから俺のただひとりのお友だちとか言われても、何て答えていいか分からない。



 俺の中で浅羽陸都は、昔から浮いた存在である俺に唯一話しかけてくる、変わったやつ程度だ。






「総ちゃんの誕生日はいつなの?」

「………1月」

「へぇ。早生まれなんだ」

「………」

「だからってるってる」

「………」






 ふってる?



 雨?






 意味がわからなくて浅羽を見た。



 降ってない。今日は晴れてるけど。






「負のオーラの負ってるね」

「………」






 そう言って浅羽は、笑った。






 俺とがっつり目を合わせても動じないのは、やっぱり浅羽ぐらい。






 俺はすぐに合った視線をそらした。






 目。






 これをコンプレックと言うのはまた違うのかもしれない。



 言ったら俺の存在の全否定になる気がする。






 でも好きか嫌いかと聞かれれば嫌い。この目の意味がわからない。



 こんな目は飛田の血を引く一族でも俺だけらしいし。






 目。






 俺の右目。は。



 右目だけが、赤い色をしている。






 左目は普通。



 黒い眼球。



 なのに右目は、右の眼球は。






 そして………赤いのは、目だけではなく。






『………ね』






 物心ついた頃から、一族の誰よりも強く大きくな炎を何の練習もせず操ることができ、どんなにデカイ陰さえ一瞬で焼尽くすのが俺の右手、で。



 それが、俺が現在名ばかりではあるけれど当主である理由。






 握る、頬杖をつく右手。






 蒸し暑い季節にも関わらず黒い革手袋をはめた俺の右手は。






 全体を炎のような赤い模様のアザが覆う、気持ち悪い右手だった。

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