BORDER

みやぎ

ゼロ

 それはただの一言であり、たったの一言。






ね」






 短く発した言葉とともにあたりに響くのは、『それ』の叫び。



 叫びは断末魔で、つまりは『それ』の、それが最期。






 漂うは悪臭。






 残るは闇。そして。






 静寂。












『それ』。






 それは、『陰』と呼ばれる人からの認識としては『化物』。



 形は為さない。為してはいない。






『それ』は黒く、影のようにゆらゆら蠢く不気味なもの。



 てのひら大の小さなものから、2メートルをこえる大きなものまで『それ』はある。






 そして『それ』を見たものが恐れおののき退治してくれと駆け込む屋敷があり、それが『陽』と呼ばれる飛田家。俺の家。






 俺は、俺、飛田総介ひだそうすけはそこの。



 16歳。飛田家の史上最年少の当主、だった。






 飛田家には言い伝わる謎のげんがあった。



 跡を継げと勝手に決められた時、俺はそれを知らされた。






 言。











 それは片方では存在できぬもの。



 陰があれば陽があり。



 陽があれば陰がある。






 対でありひとつであり相反するもの。



 元は同じただ『在る』ことからうまれたもの。



 なくては在れぬのに、在れば厭い無くそうと憎む。争う。もの。






 汝、問え。






 己は陰か。己は陽か。











 ゆら。






 湿った生温い風に舞う新たな悪臭。






「………去ね」






 言葉。






 短いたったそれだけと共に、俺の右手から燃え上がるは炎。真紅。紅蓮。






 それは一瞬にして断末魔を焼き尽くし、静寂の射干玉が再びそこを支配する。






 汝、問え。






 己は陰か。



 己は陽か。






 黒の革手袋を右手にはめて。



 俺はそこから立ち去った。

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