第04話 杏の入居日
内見、契約を終え、迎えた入居日。すでに注文していた家電の搬入と設置が終わり、私たちはそれぞれ荷解きを始めていた。
「……ほんとにお金がないのか疑いたくなるんだけど」
私は立派な電子キーボードを部屋の隅に設置する
「好きなことだから、捨てられない。捨てられるなら、好きなことじゃない。
「ちょっとまって。そのスピーカーもそこに設置するの?」
ダンボールの箱からそこそこな大きさのスピーカーを取り出した
「キーボードとスピーカーだけで2畳くらい持っていかれてる気がするんですが」
「許して」
心のこもっていない声で許しを請われた。
「それ、ペンタブ?」
「そうそう」
「イラストが
「うん。ちっちゃい頃から、絵を描くの結構好きで」
私がそう答えると、
「じゃあお互いさまだな」
「え」
私はなんのことやらわからず聞き返す。
「何が?」
「ほら、
「え、ぜんっぜん大きさちがうし。ペンタブなんてパソコンと合わせても0.1畳くらいだし」
「いや、0.13畳くらいだと思うな」
指でペンタブとパソコンの大きさを測る素振りを見せる
「……もう誤差じゃん、それは」
「0.03畳には無限の可能性がある」
「……はいはい」
私は諦めた返事をして目の前のダンボールに向き直った。こういう時、
この男の相手をする前に荷解きをさっさと終わらせてしまおう、と私が作業に戻ると――。
――キュルル。
私は同時にお腹が鳴ったことがなんだか妙に恥ずかしくて赤面する。その横で、
「少し早いけど、夜ご飯、食べに行くか」
意味不明な脳の構造をしておいて、二人での行動を決定するのが毎回薪なのは少しだけムカつく。けれど、私としても今回のその提案に異論はなかった。
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