第03話 マキちゃん改め朝月薪
「――はじめまして、マキ改め
彼の平然とした挨拶は、混乱した私の脳内を何度も行ったり来たりした。あまりの驚きに私は目を見開き、口は塞がらず、手足は硬直し、しかしまだ思考が事実に追いついてこない。
時間が経過するにつれ、徐々に、頭の中のマキちゃん像が崩れていく。徐々に、ルームメイトとの二人暮らしの未来像が、この
「――はぁ?!」
そうして、やっと感情は声になった。もはや通りすがりの人々の怪訝そうな目つきなど、目の前のこの男に比べれば全く気にならなかった。
「なにこれ、もしかしてあの投稿も含めて全部何かのいたずら?」
「いや、全然。君も俺もお金に困ってる。だから一緒に暮らす。そうでしょ?」
そういいながら彼はスマホをサッと操作し、再び私に画面を見せる。
「っ……!」
そこには確かに私――
思い返してみれば、なぜメッセージのやりとりのみでここまで来てしまったのか。せめてビデオ通話で顔合わせをしていればこんなことには……。ただ、いくら自分の考えの浅はかさを反省しても、やはり彼の行動は意味不明だ。
恐る恐る私は彼の真意を聞く。
「なんで女子のフリなんてしたの?」
「ああ、だってさ、女にしとけば下心のある男とかが食いついてくれるだろ。そうでもしないと同居人なんて見つからないと思った」
「ま、実際釣れたのは
「は……」
彼の発言が、私の
いや煽りじゃない、きっと煽りじゃない、彼はちょっと変わった人なだけ。私は目をつむって自分にそう言い聞かせ、感情を何とか制御する。
実際、
「君の『
「……そうだけど。」
疑いつつ私は返事をする。
「それがどうしたの」
「いや、わかりやすくて親切だなとおもって」
「なっ……!」
やっぱりこの男、煽っている。これはさすがに煽っている。
「じゃ、いこっか」
「へ?」
何の前触れもなく話題を変え、
「ほら、不動産屋。早いとこ内見しなくちゃでしょ」
そう言ってすたすたと歩き始める
しかし、今更家探しを再考するわけにもいかない。後期合格で大学が決まったこともあり、入学までに残された猶予期間はあまり長くないのだ。早いところ腰を落ち着けてバイトを始めなければ、今後の生活にも支障が出てくる。
私は悟る。もうこうなってしまっては、
「ああ——」
数分前まではおよそ想像できなかったこの事態を自分自身の生活のために何とか呑みこむ。
「——もう、なんなのこれ!!!」
そう叫びながら、九割九分の不安を抱えたまま、私はしん
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