第02話 はじめまして、よろしく
電車を降り、慌ただしいプラットホームを抜けていく。改札を出るとそこは夥しい数の人が行き交いする広い地下通路で、私は改めて都会に来たことを実感する。
何度もメッセージでやり取りをした末、ハルカと私は大学の近辺で共同生活を送ることに決まった。今日はお互いに初めて顔を合わせ、部屋の内見のために一緒に不動産屋を訪れることになっている。待ち合わせ場所は
ついさっきスマホを確認した時、『あと5分くらいで横浜着く』というマキちゃんからのメッセージが届いていた。そう待たずに彼女も現れるはずだ。交番の前に到着すると、私は期待と緊張の入り混じった気持ちで対面の瞬間を待った。
ポケットの中でスマホのバイブが通知を伝える。『横浜着いた』とのマキちゃんからの報告。いよいよだ。『交番の前に立ってるよ。黒いショルダーバッグが目印ね』と返信をして、私は駅の改札の方に目をやる。ちょうどいくつかの電車が駅に到着していたらしく、大勢の人が地上に上がってくるところだった。私は目を凝らしてマキちゃんっぽい姿を人混みの中に探した。が、なかなか人間の予想は当たらないものだ。「あの子絶対マキちゃんだ!」と根拠のない確信を持って待ち構えていたところを、何人かのマキちゃん候補にスルーされ続け、私は段々と不安を募らせていった。
「道に迷っちゃったのかな」
人混みの波が一旦落ち着き、改札からこちらへ向かってくる人は先ほどよりまばらになった。心配になった私はとりあえずマキちゃんともう一度連絡を取ろうと、ポケットからスマホを取り出し――。
「――君、
突然若い男の声にフルネームを呼ばれて、飛び上がる。
「えっ、そうですけど……なんで」
私は恐る恐る返事をして、彼を見上げる。ごく平均的な身長に細身の体型、切れ長気味の目、やや長めの黒髪。地元でもないこの地で、全く心当たりのない男に話しかけられた。その事実に、不審さを通り越して恐怖すら感じていると、彼は「ああそうか」と何かに気付いた様子でスマホを取り出す。
「ごめん、女子のフリしてたのすっかり忘れてた。マキってのは、俺の名前の漢字を訓読みしただけ」
「え?」
そう言いながら、彼はスマホを開きこちらに画面を向ける。見慣れたSNSの、マキのプロフィール欄が私に突きつけられる。
「――はじめまして、マキ改め
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